第54話 底辺配信探索者の意思

 浅田総理大臣が待っているホテルにやってきた。


 昨日今日と時間をわざと作ってもらって申し訳ないと思うけど、逆に考えれば【エリクシール】がそれくらい大切なものでもあるってことだ。


「お待ちしておりました」


 以前総理と同じ部屋にいた男に案内を受けて、昨日と同じ部屋に案内を受けた。


 コーヒーやジュースを出されて、それぞれ飲みながら浅田さんを待った。


 暫くして、ノックの音と共に開いた扉から浅田さんが入っていく。


 多忙なのか、その顔には少し疲れが見える。


「待たせてすまないな」


「いえ。こちらこそ時間を作ってくださってありがとうございます」


 お互いにソファーに座り向かい合う。


 ふかふかのソファーに寄りかかると、日本を背負い立つ者の大きさが伝わってくる。


「【エリクシール】ですが、政府に全面的に協力することにします。ただし、条件があります」


「うむ。どういう条件だ?」


「まず、全員と――――面接させてください」


「面接……?」


「ええ。こちらは俺の従魔のリンです。彼女の力を使えば、ダンジョン病の人と話すことができます。そこでいくつか確認させて頂きます」


「なるほど…………」


「ダンジョン病の人は眠っているように見えて、ずっと起きています。だから、こちらから話す言葉は全て通じます。事前にこの質問を伝えてください」


 俺が出した紙をじっくりと見た浅田さんは、小さく笑みを浮かべた。


「……!? なるほど……この最後の文言。本当なんだな?」


「俺も未だ半信半疑ですが、どうやらそういう効果もあるらしいです。使ったのが妹だったので、そういう部分は確認できませんでした。ただ、リンが言うことに間違いはありませんので」


「わかった。この件を含めて事前に伝えておく。面接日は一日にまとめた方がいいだろう。日が決まったらまた連絡する。恐らく一週間後くらいなるだろう」


「わかりました。それと、報酬はいりません」


「それでは政府として示しが付かない」


「一番下にある文言が本当なら、ある意味それが報酬になりますから」


「…………わかった。これでは政府はこの先、君に敵対することは無理ということでもあるな」


 ニヤリと笑う浅田さんは、僕の狙いがわかったようだ。


「これから政府には色々手伝ってもらうことになりそうです」


「構わないさ。彼らのいう――――最強戦力が味方に・・・なるのならな」


「俺は浅田さんの政策を支持している一人です。それが変わらない限り、この先も応援させてください」


「それは嬉しい限りだ。これからもよろしく頼むぞ。エムくん」


「はい」


 浅田さんと握手を交わして、俺達の契約が結ばれた。もちろん、ただの口約束だが、それでも【エリクシール】にはそれだけの力がある。


 こうして俺は【エリクシール】で全てのダンジョン病の人を復活させることを決めた。ダンジョン病で十年間暗闇の中で不安に陥っている彼らを救いたいのは本心だ。でも、この結果が日本の未来をどう変えるかはわからない。俺はまだまだ弱いけど、それを背負わなくちゃいけない立場になったんだと自覚できた。




 ◆




 エム達が部屋を後にすると、総理大臣の浅田は大きな溜息を吐いた。


「永田くん。彼をどう見る?」


 浅田の秘書である永田は小さく頷いた。


「悪意は全く感じられません。ずっと昔から・・・・・・配信を拝見していますが、とても純粋な男性だという印象です」


「ふふっ……君は彼が初期の頃からずっと応援・・しているんだったね?」


「ええ。スキル【ガチャ】に無限の可能性を感じていましたから」


「本当に驚いたよ。君は――――ダンジョン病を治せるかも知れない人がいると報告した時はね。私は良い部下を持って嬉しいよ」


「ありがとうございます」


「永田くんの父上も彼に一目置いているんだったかな?」


 永田は小さく笑みを浮かべた。


「はい。父も彼の純粋さには手を差し伸べていました。まだ本格的に接触はしていないみたいですが、父の忠告をしっかり受け止めていました」


「うむ。永田元気……日本最強の――――探索者であり、最強武術家の父上が一目置くというのは、彼自身もわからないだろうね」


「父はまだ姿も見せていませんからね」


「くっくっ……底辺探索者としてハズレしか引けなかった配信者が、国を巻き込んで権力者になるか。この先、彼がどういう風に変わっていく・・・・・・のか楽しみにしようではないか」


「…………私の予想では――――――――変わらない気がします」


 二人とも不敵な笑みを浮かべた。

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