第51話 ダンジョン病の理由

 その日の夜。


 みんなでテーブルを囲って、その中心に大きな鍋を設置して温める。


 ガチャ産の鍋用野菜セットとお肉をふんだんに使った鍋だ。


「ん! 美味しい!」


 やっぱりうちの天使の笑顔が一番だ。


 シホヒメと綾瀬さんもとても美味しそうに食べる。


 時々リンが部屋から出ていっては帰ってくると繰り返す。


 普段なら頭の上から動くことなく、ずっとくっついているけど、今は誰よりも働いてくれる。


「怠惰なスライムって名前を変えないとダメかな?」


「ふふっ。リンちゃん頑張ってくれてるもんね~」


 奈々が手を伸ばして帰って来たリンを優しく撫でてあげる。


 間違いなく今一番働いているのはリンだ。


 マスコミは諦めることなく、次から次へと新しいマスコミが現れて、家の前に隠れているが、全員リンが刺して回っている。


 俺達の安全のために一番働いてくれるリンの優しさが嬉しい。


「エムくん~これからどうするの?」


「ん……やっぱり悩むんだよね。この文言」


 テーブルに一枚の紙を置く。


 そこにはダンジョン病を患っている人の数が九十九と書かれている。


 ただ、問題はそこではなく、エリクシールを高額で買い取ってでも治したい理由だ。


「ダンジョン病に掛かる理由――――あまりにも強すぎる才能を授かったために、眠りの状態に陥ってる…………だから食事をとらなくても健康そのものだし、才能の力で常に体が成長し続けている……と」


 ふと、隣にいる奈々が気になって視線を向ける。


「うん?」


「強すぎる才能ってことは、やはり奈々が持っている才能も……?」


「多分そうだと思う!」


「どんな才能なんだ?」


「う~ん。よく分からないけど、名前は――――【超反応】という名前だよ」


「「「超反応?」」」


 口を揃えて声にする。


「今日ダンジョンで試してみたけど、やっぱりどんなものも反応・・できるみたい」


「だからあれだけ避けれたのか?」


「うん!」


 なんというチート能力!


「ということは、そういう・・・・人がこれから九十九人目覚めるってことだよな?」


 この紙にも書いてあるが、強い才能を持つ者が一気に日本に増えることになる。


 単純な見方をすれば、それはとても良いことだ。日本のためにもなるし、すぐにでも渡していいと思う。


 でも、俺が迷っているのは、みんながみんなが良い事・・・のためだけに使わないことだ。


 中には悪用して、より多くの人の命を奪ってしまうかもしれない。


 その時、俺がやったことで犠牲者が生まれるのは、果たして正しいことなのか? とずっと悩んでいる。


「エムくんが言いたいのって、それだけ強い人が溢れたことで生まれる弊害のことね?」


 綾瀬さんが俺の心を読んだかのように話した。


「ええ。もし力を悪用する者が現れたらと思うと……」


 すると、俺の頭に乗っていたリンがぴょ~んと隣に飛び降りて、人間姿に変わった。


「リン!?」


「ご主人しゃま……♡」」


 すぐに俺の左腕に抱き着いて胸を押し当ててくる。


「ご主人しゃま。その心配はしなくてもいいよ?」


「ん? どういうこと?」


 思いもしなかった答えが返ってきた。


「ご主人しゃまの力ってとても特別なんだよぉ?」


「と、特別……?」


 なんだかものすごく嫌な予感がする。絶対に聞いてはならない気がする。


「うふふふ。ご主人しゃまの力、ガチャで生まれたものは、す・べ・て――――――ご主人しゃまが大好きになるの。ご主人しゃまがいないと生きていけないの。みんなご主人しゃまの奴隷になるの」


「ええええ!?」


「あ! 私、エムくんの奴隷です~」


 シホヒメが悪ふざけの笑顔を浮かべて手を上げる。


 こいつ……いつも涼しい顔でそんなこと言いやがって……。


「わ、私も……奴隷立候補……かな?」


「綾瀬さん!?」


「お兄ちゃん、そういうのが好きだったの?」


「奈々まで!? 全部リンの冗談だから!」


 な! と言わんばかりにリンに顔を向けたら、怪しい笑みを浮かべた。


「ほ、本当に?」


「うん♡」


「…………」


「知り合いには効かないけどね~」


 それを聞いて安堵の息を吐いた。


 まさか枕を提供したせいでシホヒメがあんな風になったのなら、俺にも責任っていうのがあるんだから、ちょっと心配だった。


「私はずっとエムくんの奴隷……♡」


 見てないふりをしておこう。


「エリクシールを分け与える時、ちゃんとご主人しゃまの意志・・を伝えたら、その人達はご主人しゃまに反逆できないよ~」


「それって、俺が悪さに力を使うなと言ったら、本当にそうなるのか?」


「うん♡ ご主人しゃまが思う悪さはできなくなるよ。ちなみにね――――」


 リンがぐっと顔を近づけて、俺にしか聞こえない小声で、耳元でとある言葉を囁いた。


「&%”$’%&’#!’!&%$$%」


「あ、エムくんが壊れた」


「お兄ちゃん!? 大丈夫?」


「ご主人しゃま♡ 試してみたら?」


「”$&”%&”’&(’!#」


 それが本当にそうなるのか、試したい気持ちもあるが、絶対に試したくないと心に誓った。


 エリクシール……恐ろしい。

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