第50話 困ったらとりあえず武力行使

「お兄ちゃん? 大丈夫?」


 俺を心配してくれる奈々が顔を覗く。


 うう……この可愛さに癒されるっ……!


「それにしてもまさか【ダンジョン病】を患っている人がこんなにたくさんいるなんてね~」


「そうだな。みんな奈々のように大変な目に遭っているんだろう。今すぐにでもエリクシールを渡したいくらいだが…………問題はこれだな」


 浅田さんが【ダンジョン病】から九十九人の患者を救う理由。


 その理由と、現状にとても大きな違和感・・・・・・を感じているのだ。


 俺達を乗せた車が家の近くに着いた頃、家の前に大勢の人が見えた。


「エム様。どうやらマスコミが駆けつけたようです」


「マスコミ!?」


「ええ。今のエム様は【エリクシール】を持つ男として注目されていますから」


 どうしてそんなことに……?


「ひとまず、ここから離れます」


 運転手さんがそう話してくれて、俺達を乗せた車が家を通り過ぎた。


 暫く走った後、広い公園の駐車場に車を止めた。


「どうしてこんなことに……?」


 いつも通り配信を行っただけだというのに、どうして家の前にあんなにマスコミが?


 というかそもそも何が目的だ?


「彼らの目的は、間違いなく【エリクシール】だと思います」


「どういうことですか?」


「国内に【ダンジョン病】の患者が百人もいるのは、多くのマスコミも知っています。そのうち一人が覚醒した。その兄であるエム様であり、自分の配信で「治せた」と発言しましたからね」


「!?」


 そう言われてみれば、今日の配信で治せるらしいと発言してしまった。何も考えずに話した言葉が、まさかここまで大きくなるとは思わなかった。


「報告書に書かれている事実はマスコミには漏れていません。それはあくまで国が持っている情報です。ですが、マスコミにとっては正義のヒーロー・・・・・・・の行方は格好の餌食なんです。心にもない言葉を浴びることになるでしょう。それに――――」


「それに……?」


「日本中の魔石を集めてガチャを引けと言われる可能性だってありますよ? 【エリクシール】のために」


 思わず息を呑んでしまった。


 そう言われれば、確かにどんな難病も治せる薬だからな……。


 果たしてどうしたらいいものか……。


 その時、俺の頭に乗っていたリンが触手を手のように伸ばして、俺の頭をぽよんと叩いた。


「リン?」


「ご主人しゃま……敵……全部〇〇す……」


「それはやめろおおおお!」


「じゃ……麻痺……させる……」


「それで解決するならそれでもいいと思うけど……」


 シホヒメが不思議そうな表情を浮かべて俺の顔を覗いてくる。


「リン様はなんて?」


「全員麻痺させるって。でもそれでは解決にはならないしな……」


「う~ん。そうかな?」


「えっ?」


「私はいいと思うよ?」


「へ?」


「だって、勝手に写真とか撮るわけでしょう? 麻痺させられても文句は言えないはずで、麻痺させてカメラ全部壊しちゃえばいいんじゃない? 訴えとかは総理に任せちゃえばいいと思うな」


「…………」


 シホヒメって意外と武力派だ。


「エムくん。意外とシホちゃんの意見、いいかもよ?」


「綾瀬さんまで!?」


「だって、何も悪いことをしたわけじゃないんだから。リンちゃん。勝手に写真を撮った人のカメラだけを壊せる?」


「できる……」


「できるらしいです」


「じゃあ。そうしよう~!」


 綾瀬さんまで同調してくれる。


 俺としても悪いことをしているわけではないから、ちょっといいかな? となってしまう。


 そんな俺に――――天使が笑顔を向けた。


「お兄ちゃん~お兄ちゃんを困らせる人は全員――――ボコボコにしちゃおう?」


「おう! そうしよう!」


「「「お~!」」」


 そんな俺達を見つめる運転手さんが苦笑いを浮かべた。




 ◆




 家の前に大勢のマスコミが構えている。


 何十人ものマスコミだ。


 俺達が並んで歩くと、マスコミ達が一斉にこちらにカメラを向ける。


 そして――――当然のようにフラッシュが起き上がる。






 その時。






 俺の頭の上に乗っていたリンから一瞬で伸びた無数の棘が、作動した全てのカメラやスマートフォンを刺した。


 当然のように叫び声が上がる。


「あんた達。人に許可もなく写真撮ったらダメだって学校で学ばなかったの?」


 妹が言うとめちゃ説得力あるな……学校通っていないからな。


「私達は真実を伝える正義の者――――」


 顔を真っ赤にして怒って、妹に言い寄って来た女は、それ以上喋ることができなかった。リンの麻痺棘が刺さったからだ。


「自衛させてもらいますからね! こんな場所にいないで、邪魔だから退いて!」


 うう……怒っているうちの天使も世界一可愛いよおおお~!


 妹の忠告でも避けることなく「【エリクシール】ってどうやって手に入れるんですか」だとか「病人をすぐに治さないのは~」とか色々言いかけてきたが、全員が麻痺棘に刺さってその場に倒れ込んだ。


 すぐに警察に連絡をして彼らを全員逮捕してもらった。


 どちらかというと、こちらが悪人っぽいけど、強迫者として全員逮捕してもらった。




――【作者の一言&宣伝】――

 困ったらリンちゃんの出番ですね!

 最近ちょくちょくブラックスライムのおすすめレビューコメントを頂けます。大変ありがたいです!ありがとうございます!

 それと毎話応援コメントに書いてくださる皆さんのコメントはニヤニヤしながら摂取しております!いつもありがとうございます!!

 ということで、祝!50話!まだまだ続きますぞ~!お楽しみに~!

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