第48話 本当の意味での配信者になったようです

「お兄ちゃん! 早く!」


 妹に急かされて向かうのは――――まさかのまたもや漆黒ダンジョンだ。


 そもそも妹が復活した以上、ダンジョンに向かう理由はないのだが、妹が問答無用に俺の手を引いて向かう。


 ダンジョン一階に着いた。


「奈々? もう配信もダンジョンに潜る必要もないんだよ?」


「お兄ちゃん!? それはダメだよ!」


 急に怒り出した妹。


「そもそもここまで支えてくれた人は誰? お兄ちゃんの配信を見てくれたリスナーさん達でしょう!?」


「そ、それはそうだが……」


「お兄ちゃんが頑張ったのは知っている。でもリスナーさん達がいなければ、私達は今頃こうしていられるか分からない。だからね? ちゃんと毎日配信を続けて欲しいの。今度は私のためじゃなくて、私達兄妹のために楽しみに待ってくれるリスナーさん達のために頑張ろうよ」


 へへっと笑顔の妹。確かに目標はないが、それでもリスナー達から多くの力を貰った。目標を達成したからここで終わりにするのは、失礼なのかも知れない。


 それに俺を見ながら、ニヤニヤ顔で自分を指差しているシホヒメ。安眠枕がどうしても欲しいから、そのためにもダンジョンに潜らないとな。



 《配信が開始されます。》



 いつもの画面が現れて、配信がスタートする。


『配信乙~!』


 と共に、メンバーそれぞれの名前の弾幕が無数に流れる。


 相変わらず俺の弾幕だけないな!


「今日から通常通り――――」


『ナナちゃんが起きてる!』

『ナナおめでとう~』

『髪が真っ白やんけww』


「わあ~! みなさんありがとう~!」


『声可愛すぎて萌えた』

『ASMR? は? エム氏のチャンネル終了のお知らせ~』


 くふふ。うちの妹の可愛さに悶えるがいい! リスナーどもよ!


「今日から私も配信頑張ります~! 応援してくれると嬉しいな~」


『応援ポイント毎日100回送るわ』

『おい。下僕。ナナ様のためにちゃんと働け』


「誰が下僕だ!」


『これでメンバー全員が揃ったんだな。おめでとう』


「お、おう」


 そう言われてみれば、こうして全員揃った配信は初か。


 もちろん、妹が起きる前はあったけど、妹が起きてからは初めてだ。そもそも妹が起きて誰かに見られたのすら初めてだしな。


『すげぇな。ダンジョン病が治るってことがあるんだな』


「俺も驚いたが、URで引いた【エリクシール】という回復アイテムがあれば治せるらしい」


『それならシホヒメの不眠も治せる?』


 !?


 あまりにも意外すぎるコメントに驚いた。もちろん、シホヒメも。


 シホヒメが俺に一瞬で近づいてきて、無言のまま目を輝かせて見つめる。


 しかし、


「ご主人しゃま……シホヒメは……治せない……」


「リン? それは本当か?」


「うん……シホヒメは……病じゃないから……」


「シホヒメ。残念な知らせだ。リンからエリクシールでは不眠は治せないらしい。エリクシールはあくまで病を治す薬で、シホヒメのは病じゃないから治らないってさ」


「そ、そんな…………エムくんの……意地悪…………」


『ああ~シホヒメを泣かせた~』

『エム氏のいけず』

『ギルティ』


 ギルティはやめろ! シホヒメ信者め。


「まあ、ガチャ回して安眠枕を引けば解決するだろうよ。今度UR引ける機会があったらリンに聞いてみるよ」


「!? エムくんんんんんん~!」


「う、うわあああ! や、やめろ! またズボン下ろしたら追い出すぞ!」


 俺の足にしがみつこうとしたシホヒメが、ピタッと時が止まったかのように動きが止まる。


 スーッと離れていくシホヒメが妙に面白い。


「さて、今日からガチャ配信再開だ! 魔石は全部ポイントに変えているから、今日は百連回せそうだぞ」


『楽しみにしているぜ~!』

『ガチャを回せ~!』

『最近当たりばっかだから面白くない』

『いや、むしろここからどんなぶっ壊れを引くか楽しもうぜ』

『意外にも当たりという名の罰ゲーみたいなのが出たら面白いのにな』


 最近ガチャの引きが強くなって、確かにハズレはあまり引かなくなった。


 いや、ハズレを引いてないんじゃなくて、回るガチャの量が増えたからだ。


 毎日1連だったのが、いまや100連だしな。


「じゃあ、今日も張り切って狩るぞ~」


 それから俺達は一層からどんどん階層を進みながら、魔石を集め始めた。


 そして、五層に着いた。


 魔物はもちろん――――ダークナーガ。


「ナナ! 気を付けろ! あの槍は危険だぞ!」


「うん!」


 ダンジョン病は体がしっかり成長する不思議な病気だからか、病み上がりな妹は昨日まで体を鍛えたかのように動き回っている。


 さすがに戦ったりはしないけど、ちょくちょく魔物の近くにいたりする。


 それをひやひやしながら見ていたけど、この階層は遠くから超高速の槍が投げられるので危険だ。


 その時、ダークナーガの槍の一本がナナに目掛けて飛んできた。


「ナナあああああ!」


 俺の叫びと同時に、ナナに向かって飛んでいった槍は――――ナナを通り過ぎた。


 いや、通り過ぎたというより――――。


『ナナすげぇ~!』

『神回避!』


 ナナは笑顔のまま、次々投げられるダークナーガの槍を紙一枚の差で全てを避けた・・・・・・

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