第44話 十層へ
《配信が開始されます。》
いつものように配信が開始された。
『配信乙~!』
『リン様☆彡』
『残念美女☆彡』
いつもの弾幕が流れる。最近は開幕から弾幕が流れるようになった。
『愉快な仲間達www』
「今日から俺達【怠惰なスライムと愉快な仲間たち】のクラン名をチャンネル名にしたのでよろしく~」
今まで【底辺探索者のガチャ配信】だったチャンネル名から名前を変えて、クラン名に変えている。
『今日もナナちゃん可愛すぎる』
『あんな可愛い妹がいるなんて、ギルティ』
ふふっ。うちの妹は世界一可愛いからな。これは恨まれても仕方がない。受けて立とうじゃないか。
「それはそうと、今日はようやく予定通りに十層のフロアボスを倒そうと思う」
『8888888』
拍手の弾幕が流れる。
『というか、今日は九層から配信なのか』
「ああ。一層から十層までだと、多少時間がかかるから、フロアボスの配信に間に合うか分からなくてな。なので今日は九層から配信だ」
九層の魔物ダークエルフを潜り抜けながら進む。
相変わらず、矢の攻撃が激しいが全てをリンが叩き落としてくれる。
この階層はリンが防衛主体で、攻撃はシホヒメが担ってくれる。
勢いそのままに九層を抜けきった。
『あの頃のエム氏はもういない……』
「俺はそんなに変わってない気が…………まあ、この剣くらいかな?」
右手に握っている燃える剣を見つめる。爆炎剣。ガチャで出た当たり品の一つで、俺でも当てさえすれば、九層までの魔物なら一撃で倒せることができた。
「初めての十層か~」
「ここからは確か大型魔物のドラゴンが出るはずだよ」
シホヒメの言う通り、十層を進めていくと、大きな黒いドラゴンが現れた。翼はなくて四足歩行のドラゴンだ。
「ドラゴンというよりは巨大なトカゲだね」
「そうだね。でも名前はダークドラゴンらしいよ?」
「そうなのか」
「このダンジョンでは一番強い魔物だし、火も吹くから気を付けてね」
「おう」
動きはそう早くないが、その圧倒的な殺気に思わず足が竦んでしまう。
直後、リンの棘が真っすぐ伸びてダークドラゴンに刺さった。
びりっびりっと体を震わせたドラゴンがその場に倒れ込む。
「エムくん! 今!」
「お、おう!」
シホヒメの号令と共に、爆炎剣を持って全力で走り込み、ダークドラゴンを斬りつける。
爆炎剣で付いた傷跡から炎が燃え上がり、ダークドラゴンの体を徐々に包み始めた。
何度か斬りつけると、ようやくダークドラゴンが倒れて少し大きな魔石をドロップした。
「おお! 中型魔石だ!」
「ガチャ~!」
シホヒメは相変わらずだな。
魔石を回収して、奥に向かって進み、またダークドラゴンを倒す。
基本的にリンが棘を刺して麻痺させたダークドラゴンを俺が斬りつけて倒していく。シホヒメは一切魔法を使わず、こちらを見守っているだけだ。
道を進み、やがて最奥の広間に辿り着いた。
「ここが最奥だよ」
シホヒメの言葉と同時に、広間の最奥にゆらゆらと残像のようなものが起きて、大きな扉が現れた。
悪魔の扉。そう呼んでも差し支えないくらい禍々しい雰囲気を放っている扉だ。
「あれがフロアボスに挑戦できる扉か」
「そうね。フロアボスでは私も全力で戦うから!」
なるほど。だから魔法を使わずにおいていたんだな。魔法使いならではの調整も必要なんだな。
それを考えれば、リンの力は中々凄まじいな。
『エム氏~フロアボス頑張れ~』
『危なくなったらリン様を頼るんだぞ?』
『命大事に!』
「おう! サンキューな!」
俺達は扉を開いて中に入って行った。
◆
中は真っ暗な世界が広がっていて、中々視界に慣れない。周りに仲間達がいる気配はしていて、怖さはない。
十秒程経過すると、少しずつ暗闇が晴れていくと、広大な――――砂漠の上に立っていた。
「砂漠!?」
「フロアボスは毎回変わるの。今回はワームかスコーピオン系かも。地面とか気を付けてね!」
「リン! ナナと綾瀬さんをよろしく!」
その直後、地面が少しずつ揺れ始めて、俺達から少し離れた所の地面から巨大な黒いワームが出現した。
「ダークワーム!」
「でけぇな……!」
まるで高層ビルくらいある大きさの巨大ミミズが俺達の前に現れた。
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