第43話 怠惰なスライムと愉快な仲間たち
俺達が【栄光の軌跡】と同盟を組んだ日。つまり、配信の前日。
一つ大きな問題に直面した。
「同盟を組むのにクランを組まないといけない?」
「ああ。同盟は法の側面が強いから、言葉だけではない。だから君達もクランを組んでもらわないといけないんだ」
綾瀬さんの提案で俺達とディン達が同盟を組むことが決定して、新たな仲間としてお互いに呼び捨てにすることとなった。
「いまの君達なら十分クラン登録に足り得る。なので問題は――――」
「名前か……」
クランというのは、基本的にリーダーが全権限を持つため、全てをリーダーが決める節がある。
でも俺達のクランは俺がというより、リンを主軸に回っているし、シホヒメや奈々、綾瀬さんも主軸メンバーだ。誰一人欠けてもクランじゃなくなる。
となると俺一人で決めるのもおかしな話だ。
「分かった。時間もないし――――ここはくじ引きと行こう!」
「「くじ引き?」」
みんなが首を傾げた。
「ああ。これからみんな紙に付けたいクラン名を書いて、それをシャッフルして引いたものの名前にするのはどうだ? これなら公平だと思う」
「いいね! 名前は何でもいいんでしょう?」
「ああ。俺とシホヒメ、奈々、綾瀬さん――――そして、リンもな」
「私も……?」
「もちろんだ。リンもうちのメンバーだからな」
奈々の頭の上に乗っていたリンが飛び上がり、人間姿に変化した。
「「「「人間に変身した!?」」」」
ディン達が声を揃えて驚く。
「そういや初めてみるよな。リンは人の姿にも変身できるんだ。でも普段はスライム姿が良いらしい」
「うん……♡ ご主人しゃま~」
「うわあっ!? む、胸を押し付けるな!」
「!? わ、私も……」
「綾瀬さん!?」
ドタバタして何とかみんなを落ち着かせた。
「では、みんなそれぞれ思う名前を考えてくれ。リンは奈々の分もよろしく頼む」
「あい♡」
みんなそれぞれ一枚の紙にクラン名を書いて、折り畳んで箱の中に入れた。
奈々の分はリンが代筆している。
「では公平に、引くのはディンがやってくれ」
「僕でいいのか?」
「もちろんだ。これから同盟を組む相手だし、一番公平だしな」
「分かった。その重大な任務は僕が受けるとしよう」
箱の中に手を入れたディンがぐるぐる回して「引くぞ!」と言いながら一枚の紙を取り出した。
「読んでくれ……!」
「分かった!」
ディンが紙を開くと、目を大きく見開いた。
「ぷふっ……そうか……君達のクラン名は……ぷふっ」
何か……笑ってるぞ?
「し、失礼。では発表する~!」
どんな名前になっても恨みはない。メンバーがそうしたいのであるならな。
そして、ディンが声を上げた。
「【怠惰なスライムと愉快な仲間たち】」
…………。
【栄光の軌跡】のメンバーがぷふっと笑うと、みんなが一斉に笑い出した。
手に取った紙に見慣れた字で【怠惰なスライムと愉快な仲間たち】と書かれていた。
まさか…………当たるとはな。
「これは――――俺が書いた名前だな」
「えっ? ご主人しゃま?」
「お、おう。そもそもこのうちのパーティーはリンが主軸だからな。やっぱりリンがいなければ始まらないのさ」
すぐにリンの目がハートマークに染まっていく。
「!? り、リン! お、落ち着け。な、なあ?」
「ん~無理っ!」
「う、うわあああああ!」
飛んできたリンの巨大なたわわが俺の顔を埋め尽くす。
普通は息ができないはずなのに、リンの肌や服は不思議と息が吸える。
それに息を吸う度にリンが悶えるので悪循環の始まりだ。
俺達を見た栄光の軌跡のメンバーがゲラゲラ笑って、綾瀬さんとシホヒメが何故か俺の両腕に抱き着いて胸を当ててくる。
これは一体なんの罰なんだ…………。
こうして俺達のクラン名が決まり、その足でディン達と共に探索ギルドに向かい、クラン申請書を提出した。
意外というか、普段から配信を行っていて俺達の実績は十分だということで、すぐに許可が下りた。
さらに続いてそのままディン達、【栄光の軌跡】との同盟申請まで行った。
次の日の配信で発表することにはなるが、一足早く打ち上げとなり、家の狭い部屋でみんなと祝いのパーティを開いた。
「えっと、【ご主人しゃまと世界最強美少女スライムの愛の巣】…………リン?」
「あい♡」
と、飛んでくるなよ。
「【枕製造機】…………おいっ」
「えへっ♪」
褒めてない!
「【エムくんと愛人クラブ】……? これは……まさか、綾瀬さん?」
「う、うん……えへへ……」
あ、愛人クラブ……!?
「【お兄ちゃんといつも一緒】…………」
いかん。尊すぎて鼻血が出てしまった。
…………ちょっとだけ涙が出たのは秘密だ。
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