第42話 重大発表

 次の日。


 今日は本当は十層に向かいフロアボスを倒す予定だったのだが……予定が変わってしまった。



 《配信が開始されます。》



『配信乙~!』

『リン様☆彡 リン様☆彡』

『シホヒメ光ってんな~』

『ナナが可愛すぎて禿げそう』

『アヤも負けねぇぞ』


 いつから俺の配信は美少女の配信になったんだ。


 まあ、今更だな。


「今日はみんなにというか、配信を見ている人も見てない人にも重大な発表がある」


『お? なんだなんだ?』

『遂に……』

『ざわ……ざわ……』

『結婚?』


「結婚じゃねぇ!」


 顔が熱くなるのを感じる。


 そもそも俺が誰と結婚すると言うんだ。


『遂にシホヒメとヤッたか?』

『ズボン下げ合った仲だしな~』


「ち、ちげぇって! シホヒメと俺はそういう関係じゃねぇ!」


「えっ?」


「おい! 誤解されそうな返事をするな!」


「わ、わたし……えむくんの……おんな…………」


「やめろおおお!」


『ギルティ』

『ギルティ』

『ギルティ』


「お、落ち着け。今日の重大発表は本当に大事なことなんだ」


 やっとコメントやシホヒメが落ち着いたので、溜息を吐いて今日の予定を進める。


「では、今日紹介するのは、こちらだ」


 影に隠れていたディン達が現れる。


『栄光の軌跡キタァァァァ!』

『マホたん今日も可愛い~!』

『リリナちゃんまじかわ!』


 やっぱり彼らのところも女子陣の人気は凄まじいな。


 ちなみに、配信の視聴者数はここ最近は開始から四桁を簡単に突破して、既に六千人に上っている。


 ディン達の出現から視聴者数がどんどん上がっていく。


「…………シホヒメ? 何をしているんだ?」


「え? 初見さんにリン様の可愛さを存分に堪能してもらうの」


 シホヒメは跪いてミニスカートで危うい絶対領域をギリギリ隠しながら、両手でリンを高く上げてカメラに向けていた。


「えっへん……」


 リンがドヤ顔でカメラに向く。


 まあ、俺達の主役は彼女なので、好きにさせる。


「恐らくこの配信を見てくれる人の大半が、俺達のチャンネル登録者ではなくて栄光の軌跡からだと思う。そこでこの配信を見る全ての人にこれから重大な発表をします」


 俺の隣にディンがやってくる。


「ここにいるディン擁する【栄光の軌跡】と、俺達――――【怠惰なスライムと愉快な仲間たち】は今日から、正式に同盟を組むことにここで発表する!」


『マジかよおおおお!』

『あのエム氏が栄光の軌跡と同盟!?』

『は?』

『それはやばいって』


 視聴者達の驚きのコメントが無数に流れていく。


 正式な同盟。という言葉には色んな意味が込められている。


 これは単なる言葉約束だけでなく、探索者法に基づく。


 ある程度戦力が増えると、探索者はクランを設立できる。


 例えば、ディンがリーダーを勤めている【栄光の軌跡】だ。


 クランを成立すると、探索者集団として認められ、そこに所属するだけで集団としての恩恵をたくさんもらうことができる。


 例えば、高ランクの魔武器マジックウェポン魔武器マジックアーマー魔道具まどうぐが買えるようになったり、より大きくなれば色んな特典を貰える。


 それを行っているのは、国が運営している探索ギルド。権力は警察と同等のものがあるらしく、国の中でも最上位の権力を持つそうだ。


 まあ、それがどういう意味か俺にはイマイチ分かってないが。


 そんなこんなで探索者達のいざこざを防ぐためにクランを作った探索ギルドが、正式に認めたクラン同士の同盟を認めている。


 これによって、お互いの同盟を傷つけてはならないとか、同盟同士ならクランの特典を同盟クランにも付与するとか、色んな特典が多い。


 特に今回のように最低辺クランの俺と最上位クランの【栄光の軌跡】であれば、俺達にとって特典がとんでもなく多いのだ。


 そこで同盟はどういう拘束力を持っているかというと、もし同盟間のギルドが定めた法を破った場合、クラン参加者全員の探索者ライセンスの強制剥奪。場合によって通常違法よりも重い罰などが科せられる。


 これほど法が重いため、【同盟を組む】という行為がどれだけ重いかが分かる。


 それによって、もう一つの意味を持つ。今回は特にその意味合いが強い。


「これによって【怠惰なスライムと愉快な仲間たち】は、我々【栄光の軌跡】の庇護下・・・に置かれる。彼らに剣を向けることは、我々【栄光の軌跡】に剣を向けるのと同じことだ。我々【栄光の軌跡】はここで誓う。もしこの先、彼らに剣を向ける者が現れた時――――我がクランが鉄槌を下すだろう」


 ディンの説明が終わり、俺と握手をする。


 視聴者数は初めて四桁を越え、一万人を超えた。




 ◆




 配信後。


「はい。帰還の羽根だ。使ったらすぐに連絡くれ」


「感謝する……っ!」


 ディンが目元に涙を浮かべて俺に感謝を伝える。


 いや、感謝するのはどちらかというと俺の方だ。


 綾瀬さんが提案してくれたのは、帰還の羽根の販売ではなく、無条件同盟。


 俺達を襲ってくる輩も少なからずいるため、いつか酷い目に遭うかも知れない。それを事前に防ぐ方法として、【栄光の軌跡】が俺達のバックになってくれれば、誰も手出しができなくなるという提案だ。


 そのために帰還の羽根を渡す。というものではない。


 単純に彼らが俺達のバックになってくれただけ。


 そこで、彼らがダンジョンで大きな怪我をしたり、亡くなってしまうとその効力が減ってしまう。だから彼らの安全のために帰還の羽根を渡しただけだ。


 契約でもなければ、販売でもない。それなら俺がリンを売り払う感じにならないと綾瀬さんから提案されてここに至った。

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