第40話 怠惰……デスネ☆彡

 六人の探索者は殺人未遂罪で捕まり、探索者のライセンスを奪われて懲役となった。


 これで一安心――――と言いたいところだけど、この一件がより俺に暗い影を落とす。


 今回訪れた輩は初めてではない。以前にも最強クランがやってきた実績もある。俺を狙おうと思えば狙える人達が沢山増えてきた。


 このまま配信を続けていいのか不安になる。


 一番困るのは俺だけならまだしも、その脅威が妹の身に及ばないか心配になる。


 姑息な手ではあるが、妹の命を取られたら俺はなんだってする。リンでさえも――――。




「そんなことが……」


 妹と綾瀬さんにも現状を報告する。


 本当は心配かけたくないが、二人も当事者である以上、ちゃんと事前に伝えておくべきだと思った。


「今は最悪の状態ではある。ただ、俺はそうとは思ってない」


 みんなが俺に注目した。


「確かに狙われるのは嫌だが、幸いにも俺達にはリンがいる」


「リン様?」


「ああ。リンに一つ聞きたいけど、以前やってきた最強クランのメンバーを見て、リン一人で制圧できるか正直に答えて欲しい」


「できる……」


 自信満々に話すリン。それくらいリンの能力の高さは俺が一番知っている。


 普段からして俺の頭の上から棘を伸ばして攻撃したり、触手を伸ばして攻撃を弾いたりと多方面で活躍するリン。


 さらに周囲の気配探知も得意で魔物がいる場所までわかるし、俺達に向かって誰か近づいてくるのもすぐに分かるらしい。何ならその階層にどれくらい人がいるのかもすぐに分かるという。


「リンならこちらに向く悪意を振り払うことができる。リンの強さをみんながわかれば、俺達を狙う輩も減るはずだ」


「それはいいけど、これからどうするの? リン様はひとりしかいないよ?」


「ああ。俺達がダンジョンに向かっている間、家を守れる人がいない。それなら――――いっそのこと、守らないようにすればいい」


「「守らないように?」」


 シホヒメと綾瀬さんが仲良く首を傾げた。


「ああ。これにはリンの負担が増えてしまうが…………リン。どうか俺に力を貸してくれ」


 リンがゆっくりと顔を上げて俺を真っすぐ見つめる。


 つぶらな瞳がいつも可愛らしくて癒される。


「ご主人しゃまと……奈々ちゃん……守ればいい?……」


「ああ。頼めるか?」


「あい……任せて……」


 やっと機嫌を直してくれたみたいで良かった。


「ありがとう。では次は作戦の説明だ。俺が今からやろうとするのは――――」


 みんなに作戦を説明して、それに必要な道具を買ったりと慌ただしく一日が終わった。




 ◆




 次の日。


 漆黒ダンジョンの一層。


 いつも通り配信が始まった。


『美少女キタァァァァァ!』

『エム氏。滅びろ』

『美女も一人いるぞ』


 コメント大荒れだ。


「みんな。すまん。紹介する。新しいメンバーだ」


 カメラの前で綾瀬さんが車椅子を押して前を向く。車椅子には――――もちろん、俺の妹、奈々が眠ったまま座っている。


「俺の妹のナナだ。ダンジョン病で眠ったままになっているが、リンが通訳してくれる。もう一人のメンバーは魔法使いのアヤさんだ」


「こんにちは~アヤと申します。よろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げる綾瀬さんに、『アヤ☆彡 アヤ☆彡』と弾幕が流れる。


「実は昨日俺が引いた腕輪や武器を狙った輩が現れてな」


『ネットニュースになっていたぞ』

『ブリアッククランって悪名高いクランよな』

『どんまい。エム氏~』

『ちゃんと配信外で襲う計画犯。成敗されてよかった』


 あいつらって意外と有名人だったか? 悪い意味で。


「そんなとこで今日からはこのメンバーで届けると思う。今日は連携も兼ねて一層からゆっくり十層を目指すからよろしく」


『リン様☆彡 リン様☆彡』

『残念美女☆彡 残念美女☆彡』

『ナナ☆彡 ナナ☆彡』

『アヤ☆彡 アヤ☆彡』


 意外にもすぐに馴染んだのか、コメントに四人の名前が流れる。


 って! 俺の名前は一つもないんかよ!


『お。腕輪はナナに渡したか』


「ああ。一番危険なのはナナだからな。もちろんリン様が守ってくれるけど、念のためだ」


『リン様最強~!』

『リン様、今日は動いてくれるんだ?』

『怠惰スライム、遂に動く』


 ん? 怠惰スライム?


 その言葉に少しクスッときて笑みがこぼれた。


 リンっていつも頑張ってくれるけど、動かない時はとことん動かない。怠惰という言葉がこんなにも似合う従魔はいないかも知れない。


「リン。怠惰スライムって言われているぞ~?」


「ん……いいよ……」


「いいのかよ!」


『リン様が怠惰スライムをお認めになった~!』

『怠惰☆彡 怠惰☆彡』

『怠惰デスネ~』


 ちょっとそのセリフはあかん。


 気を悪くすると思っていたリンは意外と気に入ったようで、頭の上でぽよんぽよんと俺の歩きに合わせて体を振るわせた。


 そして、現れる敵に向かって一瞬で棘を伸ばして倒していく。


 その日は連携のためにと、ゆっくり進んで十層に付く頃に配信の終わりとなった。


 今日はガチャはないが、次の百連のために貯めておくことにする。


 枕が残り一つだったため、昨日は使わなかったシホヒメはまだ二日目で辛うじて光っていた。

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