第39話 向けられる悪意

《爆炎剣:爆炎属性の刀身を持つ剣。斬るだけで爆炎を相手に与える》


 爆炎剣に恐る恐る触れてみると、熱さは全く感じられず、燃えている刀身からも熱さは感じない。


 余っている左手で刀身を触ってみるも、熱さはなく、炎も燃え移されない。


「どうやらこの炎はエフェクトだけらしい。ただ、斬った相手は燃えるかも?」


『大当たりキタァァァ~!』


 確かに大当たりかも知れない。腕輪とは違って形でわかりやすいからな。でもここまで攻撃を防いでくれる腕輪の方が大当たりな気がする。


「っ!? 今日の配信はここで終わりだな。また明日もよろしく」


『配信お疲れ~』

『リン様☆彡 リン様☆彡』

『リンちゃん今日は大人しくて可愛かった~』

『残念美女も乙~』


 動いていなくてもリンの人気は絶大で、殆どのコメントにリンの名前が入っている。


「リン。よかったな。みんなから褒められて」


 手を伸ばして触れそうなところで止める。


「ぷ、ぷいっ!」


 拗ねたリンの新しい反応が可愛くて、ついつい意地悪したくなる。


 そのまま手を伸ばしてリンを優しく撫でた。


「うちのリン凄いぞ~」


「うぅ……」


「さて、昼飯を食べたらまた狩りを続けようか。ただ五層は厳しいから四層に行こう」


「六層がいい……」


 触手を伸ばして俺の頭をぷにぷにと叩くリン。


「分かった。六層にしよう」


 それから六層に入って、入口でレジャーシートを敷いて食事を取る。


 入口の脇に影になった場所があって、ここだと魔物が寄ってこないので意外にも安全地帯にもなっている。


 三人くらいしか座れないスペースだが、俺達は二人しかいないから十分な広さだ。


 綾瀬さんが作ってくれたお弁当を食べながら、初めて引いた武器を眺める。


「シホヒメ。ダンジョンでも武器って手に入るんだよな?」


「そうだよ~鎧とかブーツと兜も手に入るよ~」


「となると全部で四種類か?」


「盾も入れて五種類だね」


 剣と盾、鎧、兜、靴の全五種類か。


「それって魔物を倒したら出るのか?」


「基本的には出ないよ。通常魔物からは魔石と素材だけ。素材は鍛冶師の才能を持つ人が新しい武器とか防具を作れるよ。ダンジョン産装備はフロアボスを倒した時に稀に出て来る宝箱から出るの。そもそも珍しい装備が出るってエムくん知ってたよね?」


「お、おう。ただどうやって出るかまでは書かれていなかったから。ダンジョンに入れば珍しいアイテムが拾えるとしか知らなかったんだ」


「そういうことか。知らないのが変だなと思ってたよ」


 昔から調べてはいたけど、それよりも自分の才能をどう使うべきか、初心者はどうするべきかばかり注目していて、フロアボスなんて倒そうとすら思ってなかった。


「そういや、ここもフロアボスっているのか?」


「いるよ? 十層の最奥からフロアボスの部屋に行ける。だから漆黒ダンジョンは十層が最奥だね」


 他のダンジョンは百層もある場所もあると聞いたことがある。


「だから帰還の羽根はとても貴重だよ。以前来た最強クランの人達とか、喉から手が出るくらい欲しいはず」


 そういや、そんなやつらいたな。一千万円で買うとかなんとか。


 今のところ売る気がない。


「今日、せっかくならフロアボスに挑みにいく? フロアボスは倒してから168時間――単純に丸々一週間が経過しないと再戦出来ない仕様になってるから」


「一週間か。じゃあ、もしフロアボスを倒せるなら一週間に一度はフロアボスを倒した方がいいのか」


「そういうことになるね。でも、正直にいうと、リン様が戦ってくださらないならフロアボスは目指さない方がいいかも。それとせっかくなら配信の方がいいかも?」


「それもそうだな。じゃあ、リンの許可が出たらフロアボス配信をやってみようか」


「う……」


 リンを持ち上げて、俺の胡坐の中において両手ももみもみしてあげる。


 もみもみしている俺も気持ちいいけど、リンが一番好きなことでもある。


 マッサージするのもされるのも大好きらしい。


 暫く機嫌取りをして、十層を目指――――そうとした。


「おいおい。こんなところにいたのかよ」


 五層への出口から現れたのは、六人の目つきの悪い男達だった。


 六層に降り立ってすぐに俺達に殺気を向ける。


 その目的が狩りではなく、俺達なのは明白だ。


「何か用でもありますか?」


「おうよ。ここで殺されたくなかったら、その剣と腕輪を置いていけ」


「…………」


 以前シホヒメも言っていたし、師匠も言っていた。それを考えれば簡単に分かることで、爆炎剣の効果は分からなくても腕輪二つの効果は配信で証明済みだ。


 漆黒ダンジョンは良くも悪くも魔物が分かりやすい。出て来る魔物が全部黒いからだ。


 日本の数多あるダンジョンの中でピンポイントで来れたって事は、恐らく彼らも初心者時代にはここを通っていて場所を特定できたんだろう。


 まだ帰還の羽根は常備しているので、いつでも逃げられる。


 その時、リンがビクッと動く。


「リン様。ダメ!」


 棘を伸ばそうとした瞬間に後ろからシホヒメが止める。


「先に攻撃してはエムくんが処罰対象になっちゃいます!」


 男の一人が舌打ちをする。元々そういう狙いか。


「シホヒメありがとう。リンもありがとう。ということは、こいつらは俺達に手を出せないってことか」


「おいおい。貴様ら如き、俺達ブリアッククランが一瞬で片付けてやるよ!」


 男達が俺達に向かって走ってくる。


 それぞれ手に武器を握っていて、今にでも斬りかかって来そうだ。


「今なら大丈夫!」


 正当防衛。それが許されるなら、リンも容赦なく棘を伸ばして探索者六人をその場で麻痺させた。


 たった一瞬で制圧したが、このまま放置していくわけにもいかない。


 リンの触手を伸ばしてもらい、彼らを引きずりダンジョンから出て警察署に向かった。

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