第38話 運気上昇?

「おはよう」


「むう……」


「むう。じゃない。リンのせいで昨日は大変な目に遭ったからな」


 頭の上に乗って怒っているリンを本来なら宥めるだろう。


 でも今日はリンのせいなので、撫でてあげずにいる。


 朝家に戻ったら、爆睡しているシホヒメと、起き上がったリンが妹の隣でぶるぶると震えていた。


 どうやら俺がいなくなって、怖くなったらしい。そして、拗ねた。


「さあ、まずはご飯だ。今日も配信があるからな」


 俺が朝食を作っている間、隣で綾瀬さんがお昼弁当を作ってくれる。


「綾瀬さん。ソーセージ大盛りで」


 一瞬、拗ねているリンがびくっと動く。


 連続安眠のシホヒメは、太陽のように輝いていた。本物の太陽のように。


「シホヒメ。光り過ぎでしょう」


「えへへ~安眠最高~♪」


 利用したら枕が消えるので、消えてなくなった枕の跡を愛おしく撫でている。傍から見たら少し危ない人みたいに見える。


 朝食を食べ終えていつも通りにダンジョンを目指した。




 ◆




「今日は久しぶりに一層で狩りをするぞ」


『どうしたwww』

『配信乙~』

『初心に戻るのか?』


「まあ、ちょっと色々あってな。今日はリン様は休息日だ」


『リン様☆彡 リン様☆彡』


 まだ拗ねているリンは、戦いを拒否した。


「戦わないっ……」


「はいはい。いつも頑張ってくれてるし、今日くらいゆっくりして」


 手を伸ばして撫でようとしたが、直前に止める。


 リンからますます拗ねる思いが伝わってくる。


『エム氏。昨日のSRは何だったんだ?』


「ああ。そういえばそうだったな。昨日出たのはこれだ」


 右手を突き出して、リンが付けてくれた腕輪をカメラに向ける。


「物理耐性腕輪らしい」


『また腕輪か~』

『当たり? ハズレ?』


「どうだろう? 性能次第だろうけど、ちょっと試してみようか」


 俺としてもそろそろ腕輪の性能を確認しておきたい。少なくとも耐性というからには、攻撃に対する耐性を得ているはず。


 一層のダークラビットが俺に向かって飛び込んでくる。


 一撃喰らえば体が大きく吹き飛ぶくらいに一層のダークラビットの飛び蹴りは強い。


 今まで散々苦労した。一年以上も前になるけど。


 師匠が配信中に色々教えてくれたおかげで、あれからケガはしなくなったけど、久々に自分から当たりにいくのが辛い。


 ダークラビットの飛び蹴りが俺の体に直撃した。


 その瞬間、俺の体に不思議なバリアのような波が広がって、一切の痛みを感じないし、吹き飛ばされない。


『おおお~! 兎の攻撃を簡単に防いだ!』

『当たりじゃん。これならなら兎狩り放題だぜ!』


「そ、それはそうだが……この音は慣れないな」


 暴れ狂うダークラビットは何度も俺に飛び込んでは蹴ったり殴ったり噛みついたりを繰り返す。


 それでも痛みは全くなくて、音だけが虚しく響き渡る。


「これどこまで効くんだろう?」


「ずっと……」


 リンが答えてくれた。


「ずっと効くんだ?」


「ぷ、ぷいっ!」


 ぷいって…………お前リン。本当に可愛いな。


「どうやら効き目はずっと続くらしい。かなりの大当たりかもな」


『当たりかよ! てか今までNだと微妙だったのにな~』

『毎日缶ジュースのためにボロボロになった我がエムくんは何処へ~』


「な、懐かしいな! もうそこまではならないよ!」


『エム氏。どこまで効くのが見せてくれよ~』


「おう。俺もそのつもりだった。このまま下層を目指すぞ」


 それから二層へ、三層へと進みながら、わざと攻撃を受けてシホヒメが倒してを繰り返した。


 それともう一つ。シホヒメの軽めの魔法にも耐えることがわかった。これは【魔法耐性腕輪】の方だな。


 俺が魔物を集めて、そこをシホヒメの魔法で一網打尽にしていく。


 いくら痛くなくても音は響くので、精神的なダメージは続く。


 そのまま五層に辿り着いた。




「ひえっ!?」


 こちらに飛んできた槍を全力で避ける。


『へっぴり腰だな。エム氏』

『当たらないと耐性が確認できないぞ~』


 い、いや! 分かってるけども!


 また二体目のダークナーガが投げた槍を全力で避ける。


 防げるかも知れないと分かっているけど、どうしても心がそれを許してくれない。


 それからも全力で槍を避けた。




『今日はガチャ回さないのか』


「す、すまん……できれば、このまま百連を回したい。多分明日には回せると思うから今日はガチャなしだ」


『エム氏。それなら十連だけ回したらいいんじゃ?』


「そう言われればそれでもいいな」


 リスナーの意見通りに十連だけ回すことにした。


 今日はリンが戦ってくれなかったので集まった魔石は今までよりも少ない。ギリギリ三十連回せるかってところだ。


 まあ、明日には機嫌を直してくれるだろう。


 十連を回す。


 目の前に眩しい光が溢れ、そこから赤い筐体が現れた。


『SR確定~!』

『今日も当たりかよ! 応援はなしな』


「ううっ…………まじか。最近運がいいな」


 嬉しいんだけど、今までの事を思えば、ここに来て運気が上がったのに納得がいかない。何か別の原因が……?


 赤いカプセルが開いて出て来たものは――――




『燃える剣キタァァァァ~!』


 全身が赤色で刀身が炎で燃えている赤い剣だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る