第35話 百連

《100+20連を回す》



 薄い青色の画面に黒い字で書かれたボタン。


 夢にまでみたボタンでもある百連ガチャ。


「では……これから百連ガチャを回すぞ!」


「「ぱちぱち~!」」


「!? びっくりした!」


 いつの間にかシホヒメの両隣に白騎士の元仲間たちがやってきた。


「俺はキタ!」


「俺はミナミと呼んでください! 兄貴!」


「誰が兄貴だあああ!」


『リョウスケええええええええ!』


「「「名前で呼ぶな!」」」


『ホワイトナイト……あやつは懐かしき記憶……』


 ポエムみたいにいうな!


「まさかお前らも来ているとはな。どうりでシホヒメがくれた魔石に小魔石が混じっているわけだ。しかも大量に」


「シホヒメ姉御のためなら何でもやりますから!」


 お前ら……元々仲間でそういう呼び方じゃなかったよな? まあ、気にするだけ無駄そうだ。


「とにかく百連回すぞ。早くしないとシホヒメが暴走しそうだからな」


「ガチャが回したい~ガチャが回したい~」


 また変な歌を歌ってるよ。


 少し震える手で画面に映っているボタンに触れた。


 上空からいつものガチャ筐体が現れる。色は――――だ。


SRスーパーレア確定演出キタぁぁぁぁぁ!』

『確定演出☆彡 確定演出☆彡』


 これも初めてみる演出だが、十連の場合はレア以上が確定だから白色なのだが、もしかして百連だとSR以上確定なのか? 初めてだからまだ確証はない。


 ハンドルが時計回りに回ると、大量の黒いカプセルが無造作に流れてくる。


 四十個程落ちると白いカプセルが落ちて、見守っていたシホヒメが「枕あ~!」と嬉しそうに声を上げた。


 まだ初日とはいえ、枕の在庫はぜろだからな。


 それからまた黒カプセルが大量に落ちたが時々白カプセルが混じっていた。


 丁度百個落ちた後、事件は起きた。


 百一個目からなんと――――


『すげぇ~! ボーナス全部レア以上じゃん~!』


「枕ああああ~!」


 白いカプセルが連続で十九個落ちてきた。


 そして最後に赤色のカプセルが落ちる。


「シホヒメ。あからさまに赤だけ見なかったことにしただろ」


「えっ? そ、そんなことないよ?」


 こいつ……目が泳いでいるぞ。まあ、目当ては枕だけだものな。


 それから全てのカプセルを開いてどんどんガチャ袋の中に入れていく。


 この一週間ずっと思っていたけど、ガチャのハズレであるノーマルだけで生活できるんじゃないか? 食材から飲み物、日常品まで落ちるからな。


『二個目のゴム~☆彡』


「っ!」


 シホヒメがジト目でこちらを見つめる。


「し、仕方ないだろ! 出たんだから!」


「や。近づかないで」


「リンの真似をすんな!」


「「や」」


 本当に仲良くなってんな。


 黒カプセルは全部回収して、今度は白カプセルを開ける。


 高級牛肉、高級豚肉、高級鶏肉、高級鍋用野菜セット、お酒。どれも美味しいけど、お酒だけは本当に困る。


 そして落ちた枕数は――――


「枕が……三つも落ちたよ~! みんな! やったよ~!」


『よかったな! シホヒメ』

『枕☆彡 枕☆彡』

『シホヒメ。ちゃんとエム氏に枕営業しないとな』


「誤解を招く言い方すんな! 別に枕は必要ないし、全部シホヒメにやるつもりだぞ」


「やった~! エムくん、大好き!」


 シホヒメが目にも止まらぬ速度で俺の腕に抱き着く。


「うわっ!? や、やめろ!」


 当たってる! 当たってるって! さすがに初日のシホヒメは目と肌の毒だって!


 視線の向こうで羨望せんぼうの眼差しで見つめるキタミナミが見える。


 お前ら……ひょっとして…………。


「そういう、帰還の羽根も三枚落ちたんだな。これは助かるな」


『帰還の羽根使ってみたのか?』


「ああ。ちゃんと使えたぞ。一瞬でダンジョンから出られた」


『おおお~! 一千万円で売れるぞ~!』


 そういや、そんなこともあったな。すっかり忘れていた。


「まあ、使えるとは言え、売るのはやめておくことにするよ。何だかリンを売るみたいで嫌なんだ」


『なるほど。あの金の亡者エム氏が』


「あはは……実はもうお金は必要なくなってな。今までみんなたくさん応援してくれてありがとうな。これからも配信は続けるし、リンが配信でしかガチャを引かせてくれないのでガチャも引くが、無理して応援はしてくれなくてもよくなったからな」


 魔石を購入すればもっと可能性が増えるのはわかっているが、試練の時に焦った時こそ冷静になるべきだと学んだ。焦り過ぎないでガチャを回そうと思っている。


『エム氏本当にいいのか? シホヒメとの愛の巣を……』

『愛の巣☆彡 愛の巣☆彡』


「シホヒメとはそんな関係じゃねぇよ~! なあ? シホヒメ」


 同意を求めて彼女に振り向くと、綺麗な顔が悲しそうで肩を落としていた。彼女を守るように立っているキタミナミはちょっと安堵した表情だ。


「えっ?」


『エム氏が女の子を泣かせた~!』

『エム氏のいけず☆彡 エム氏のいけず☆彡』

『女の子を泣かせるとは、なんて最低な!』


「う、うわあああ! ち、違う。愛の巣ってあれだよ。うちには妹もいるしさ。そもそも今まで何もなかっただろ!」


『えっ? まさか二人暮らししてるの?』

『エム氏、妹?』


 あ。


「は~い。私、エムくんの女だもの。一緒に住んでいるよ~」


「こ、こらっ!」


 その後は地獄のようなコメントが流れた。

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