第34話 配信復活

「ほら、リン」


 買っておいたソーセージをリンに食べさせる。


 最近は俺が直接食べさせる必要がある。


「美味しいか?」


「あい……美味しい…………」


「それにしても高いソーセージじゃなくて、こんな安いソーセージでいいのか?」


「うん……これが一番……好き……」


 生活費の観点からみたら、確かに安いソーセージが助かるんだけど、いつも頑張ってくれるリンのためなら食事くらい奮発してあげたいのに、リンが拒否するのでいつも同じソーセージを購入している。


「おはよう~!」


 キラーン☆


「お、おはよう。今日は眩しいな」


「えへへ~絶好調だよ~!」


 そりゃ……久しぶりの枕だもんな。




 あの試練から一週間が経過した。


 毎日ダンジョンに向かって魔石を集めてガチャを回した結果は、もちろん惨敗。


 けれど、今はこれでいい。


 今日も魔石を集めるためにダンジョンにやってきた。



 《アカウント名【エム】様。本日もコネクト配信を楽しんでください。》



「おお……何だか久しぶりだな。ようやくか」


 予約した通り、配信カメラのコウモリが久しぶりに来てくれた。


 規約違反をしてから一週間。どうやら意図的じゃないとして最低期間の一週間で再開できるようになった。


 さっそく今日から――――



 《配信が開始されます。》



『配信復活おめでとう~!』

『おめでとう~!』

『88888』


「みんな待たせて悪かったな」


『待ってねぇし』


「みんな、やっほ~☆」


『残念美女☆彡 残念美女☆彡』


「残念美女じゃないよ! これでも初日だから光ってるでしょう?」


 うわ……もはや自分で言うようになったな。


『シホヒメ! 今日は可愛いな!』


「今日はは余計だよ?」


 なんだかシホヒメがリスナーと仲良くなっている?


「それじゃ久しぶりだけど、そろそろ狩りに向かうぞ~? 今日からガチャは配信中しか回せられないからな」


「そうだった! ガチャが回したい~ガチャが回したい~」


「なんだその歌」


 思わず苦笑いがこぼれた。


『リア充爆発してくれないかな』

『俺も思った。あのエム氏がリア充してるぞ』

『そりゃズボンを下げ合った仲だからな』


「ズボン下げ合ってないよ! 勝手に下ろされただけだ!」


『wwwww』


「今日からは一層じゃなくて、より深くまで入るよ。この前の階層は十層で、今日も十層まで向かうつもりだ」


『おお! あのエム氏が十層だと!?』

『リン様がいれば無敵~!』

『リン様☆彡 リン様☆彡』


「その通り。リン様である~!」


 頭に乗っていたリンを持ち上げてカメラに向ける。


『リン様☆彡 リン様☆彡』

『リンちゃん今日も可愛い~』

『リンちゃん頑張れ~!』


 それにしてもリンの人気は相変わらずだな。


《視聴者数:3,187》


「視聴者数三千人越え!?」


「本当だね~これもリン様のおかげだね~」


「そうだな……まあ、シホヒメのおかげもあるさ」


「えっ? あ、ありがとう……」


 シホヒメが顔を赤らめる。どうしたんだ?


『ギルティ』

『ギルティ』

『ギルティ』


 リスナーもどうしたんだ?


 リンを再び頭の上に乗せて一層から十層を目指した。


 途中での狩りの度に『リン様☆彡』の弾幕が流れる。


 以前は狩り中は殆どコメントもなかったのに、リンの人気がそれくらい高まっているのが分かる。


 初めて引いたURがリンじゃなかったからこうはならなかったと思うと、全てはリンから始まったと言っても過言ではないな。


 数十分かけてようやく十層に辿り着いた。


『おお~初心者ダンジョンの十層か~エム氏も成長したもんだな』


「十層の魔物は、ダークワイバーン。小さな飛竜って感じだ。まあ、俺が倒す訳じゃないから強さはわからないが」


 と言い放った直後にリンの鋭い棘が伸びて空を飛んでいた黒い飛竜を刺して落とした。


「――――トルネード~!」


 シホヒメはシホヒメで一人で戦っている。


 初日のシホヒメは光っているだけでなく、身体能力も異常に高い。


 一体どれだけ体を鍛えたらこんなに機敏に動けるんだ? それともギフトでその類のスキルでも身に付けているのかも知れない。


 ダークワイバーンを倒すと――――中型魔石が姿を見せた。


『おお~! 中魔石!』

『極小魔石しか拾えないエム氏はもういない……』


「なんか寂しそうな言い方しながら、ディスってない!?」


『エム氏が賢くなった!?』

『エム氏だってレベルアップするもん~』


 こいつら…………。


 リンが倒してくれるダークワイバーンからドロップする中魔石を次々ガチャ画面に入れていく。


 以前は一連回すために魔物を百匹も倒さないといけなかったのに、一体に付き一連だ。


 これならいずれURを引ける日も近い。


『エム氏。配信時間残り十分だぞ~』


「おっと、もうそんな時間か。最近配信していなかったから感覚を忘れてしまった。サンキュー」


「ダ~リン☆」


「誰がダーリンだ!」


『ギルティ』


「はい。中魔石」


 コメントすら無視して俺に中魔石を大量に押し付けて来る。


 中型ともなるとゴルフボールサイズになるので、シホヒメのリュックに入った中魔石を大量に受け取った。


 見た目以上に軽いから重くはないけど、中魔石ともなれば、やっぱり大きいな。


「今日は――――全部で八十個か。昨日余った分で回せそうだな! 配信初の――――」


『百連☆彡 百連☆彡』


 ああ。遂に配信で百連を回せると思えば、嬉しいものだ。

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