第32話 試練③

「危ないっ!」


 隣からシホヒメが飛び込んできて、ギリギリのところで黒い刃を避けることができた。


「し、シホヒメ、ありがとう!」


「黒い刃は吸収できないっぽい! 気を付けて!」


「わかった!」


 すぐに体勢を整える。


『エム氏とシホヒメがいい雰囲気だぞ?』

『そりゃ……ズボンを下ろした仲だしな』

『残念カップル☆彡 残念カップル☆彡』


「残念カップル言うな!」


 それにしても今の一撃危なかった。当たっていたらどうなっているやら。


 シホヒメの様子を見ると、彼女も当たっていないみたいで本当によかった。


「黒い刃のせいでポイントを貯めるのは時間かかりそう!」


「うん! また十連回してレアで攻撃しても攻撃が追加されるだけかもしれないから、今度は百連回そうよ!」


『百連☆彡 百連☆彡』


「そうだな。気合を入れて一万ポイント貯めるぞ!」


「お~!」


『エム氏。黒い刃は全てが爆炎の後ろに配置されているぞ!』


「まじか! サンキュー!」


 今まではこちらに飛んでくる爆炎を正面から受けていたが、後ろに黒い刃があるなら話は別だ。


 今度からは爆炎を横から飛んで吸収させる。こうすることによって後ろからの黒い刃を簡単に避ける事ができるからだ。


「――――チェインライトニング!」


 シホヒメは黒い刃に向かって魔法を撃ってみるが、全く効かなかった。


『あれか。試練だとガチャ産アイテム以外は効かないとか』


「その可能性はあるかもな。シホヒメ! 最後に鳥かごを狙ってくれ!」


「わかった!」


 リンが入っている鳥かごを狙って撃つが、やはり効かない。


 中ではリンが必死に暴れている。


 あんなに動き回っているリンを初めて見る。相当怒っているのがわかるし、ずっと「ご主人しゃま!」と声をあげている。


「リン! 心配するな! すぐに助けてやるからな!」


 全力で魔女ポイントを集め続ける。


 百回ともなると中々にしんどくて、全身が汗まみれとなった。


 こうなるとわかっていたら事前に体でも鍛えておくべきだった。


 普段からダンジョンに通っているから最低限鍛えてはいたけど、休み休みに戦っていたからスタミナの鍛錬は行っていない。今はそれは悔やまれる。


 へとへとになりながらも、ようやく一万ポイントを集めきった。


「はあはあ……やっと……集まった…………」


「エムくん……ガチャを……!」


「わかった!」


 急いで百連を回すを押す。


 すると虹色に輝く魔女っ子筐体が現れた。


『UR確定~! UR確定~!』

『確定演出キタァァァァァ!』

『胸あつ!』


 ハンドルが回り、ガチャカプセルが落ち始める。


 ただ、その間も魔女の攻撃は止まらず、全力で避け続ける。


 シホヒメがタイミングを見計らって、落ちたノーマルのアイテムを投げ続ける。


 色んな食器が空を飛んでいくのは少しシュールにも思える。


 食器による爆発が起き、魔女が怯んだ。


「URがまだ出ないよ~!」


 百個も落ちるからか、カプセルはまだまだ落ちない。


 その時、魔女が雄たけびをあげる。


 全身に禍々しいオーラを放ち始めた魔女は、もはや食器の爆発なんて全く効かないようで、立ち上がりこちらを睨みつける。


 シホヒメからそれなりに離れているからアイテムは問題ない。


 俺が全力で避け続ければいい。


 そして、魔女の攻撃に黒い槍が追加された。


「っ!?」


 来ると思ったタイミングで横に飛ぶと、俺が立っていた場所に槍が刺さった。


 ものすごい速度だ。


 ガチャがどんどん進み――――最後に虹色に輝くカプセルが落ちた。


「エムくん! 私ではURウルトラレアは触れないみたい!」


 シホヒメが必死に虹色カプセルに触れるが、触れることができずにいた。


 URカプセルを目掛けて全力で走り込む。


 シホヒメの安全のために離れていたのがあだとなった。


 何度かこちらに飛んできた黒い槍を避けながら、何とかURカプセルまでたどり着いた。


 急いで右手で触れたURカプセルが開き始める。


 眩しい虹色の光が周囲に広がり――――中から現れたのは虹色の炎が灯っているトーチだった。オリンピックとかで聖火が灯っているようなトーチだ。


 急いでそれを持つ。


「ぬあっ!? お、重っ!?」


 想像よりも百倍は重い。


 普通こういうのって一キログラムとかじゃないのか!? シホヒメよりも重いんですけど!?


「エムくん! 早く!」


「っ!? う、うああああああああああ!」


 俺は全力で両手で抱えたトーチを投げようとした。




 ――――その時、




 魔女から黒い槍の光が見える。


 魔女の黒い槍は一瞬で飛んで来ては俺を貫くはずだ。


 ――――死んだ。


 そう思ったその時、俺の前に影が現れ、俺の足下に黒い槍が刺さる。


 それと――――赤い液体が。




「シホ……ヒメ?」


「エム……くん……大丈夫?」


「っ!?」


「エムくんは……私が守るから……リン様の代わりに…………」


「シホヒメええええええ! くそがああああ! 何が試練だ! リンを悲しませて俺の仲間を傷つけて、こんなものが試練とかふざけるなあああああああ!」


 心の底から怒りが沸き上がる。


 俺は両手に持ったトーチを投げ飛ばした。


 トーチはクルクルと回りながら魔女に直撃する。


 直撃したトーチから虹色の炎が引火し、魔女の全身が虹色の炎に包まれた。


 甲高い雄たけびをあげて魔女が消滅していく。


「し、シホヒメ!」


「エムくん……ケガはない?」


「ば、ばか! 俺はお前のおかげで無事だ! 傷一つないぞ!」


「そうか……よかった…………」


 魔女が消えると同時に、シホヒメの腹部を貫いていた黒い槍も消える。


 腹部から大量の血液が地面を染めていく。


 黒い地面に赤い血液が広がる。


「志保! 待ってろ、絶対に助けるから!」


「うん……待ってる…………えへへ……やっと……名前で…………あの時と同じ……」


「待って! 行くな! シホヒメえええええ!」


 その時、俺の頭に柔らかい感触が伝わる。


「ご主人しゃま。これ」


「っ!?」


 リンが両手で大事そうに抱えたのは、虹色に輝いている一枚のチケットだった。



《UR指定チケット:試練を突破した者に贈られる》



 UR指定チケット?


 俺の中に色んな感情がぐちゃぐちゃに広がる。


 URで好きなものを選べるってことだろ?


 十年間も起き上がることができずにいる奈々の顔が思い浮かんだ。


 奈々の病気を治すために俺はここまで来た。


 喉から手が出るほど欲しい。


 でも…………。


「エムくん……妹さんの……薬………………良かった……ね…………」


 シホヒメは最後まで笑顔でそう告げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る