第29話 目標
朝食の準備を始めると扉の外から人の気配がして扉を開くと、綾瀬さんが笑顔で手を振っていた。
「おはよう~」
「お、おはようございます。どうぞ」
「お邪魔します~」
「朝食食べますか?」
「!? 陸くんの朝食!?」
「は、はい」
「いただくよ! 楽しみにしているね!」
朝の女性って独特の香りがする。シホヒメも初日はいい香りがするんだよな。
綾瀬さんが部屋の中に入ってシホヒメと挨拶を交わす。二人とも声が暗い。
朝食の準備が終わったから部屋に運ぶと、シホヒメと綾瀬さん二人で妹の白い肌をタオルで水拭きしていた。
「わあ! サンドイッチ美味しそう~!」
満面の笑顔で俺が作ったサンドイッチを食べた綾瀬さんは何度も美味しいと言ってくれた。
自分が作った料理を誰かが美味しいと言ってくれるのは嬉しい限りだ。
「お、美味しい!」
「ん? お、おう」
ちょっと顔が怖いシホヒメがサンドイッチを頬張りながら声をあげた。
シホヒメが美味しいって初めて言った気がする。三日目だし、光も全て無くなっている。
「綾瀬さん。鍵渡しておきます」
三本目の最後の鍵を綾瀬さんに渡す。
「う、うん! だ、大事にもらうからね?」
いや、貸してるだけだが……。ちょっと目が怖いので言わないでおこう。女性ってみんなこんな感じなのか? シホヒメも綾瀬さんも似たところが多いからな。
「では俺達はダンジョンに向かいます。妹をよろしくお願いします」
「任せておいて!」
「奈々。行ってくるな」
少しだけ拗ねた感情が伝わってくる。
きっと、一人で待てるのに綾瀬さんにお願いしたことに怒っているみたいだ。
家を後にしてダンジョンに向かった。
◆
「エムくん」
「うん?」
「十層まで行けば、中魔石が拾えるから、魔物一体で一連が回せられるよ?」
「っ!?」
「私一人では無理だけど、リン様がいるなら何とかなるかも」
「リン! どうだ?」
「大丈夫……頑張る……」
胸が高鳴るのを感じる。
今でも五層で狩りができれば、毎日二十連が回せられるのに、もしかしたら百連が回せられるかも知れない。
「では十層を目指して行こう!」
「お~!」
「あい……」
一気に五層まで駆け抜ける。と言っても走ると体力的にすぐにばてるから急ぎ足で向かう。
ダークナーガの槍攻撃を掻い潜りながら六層に入った。
「う、うわあああ!? シホヒメがいっぱい!?」
「私じゃないよ!」
視界に映る魔物は、長い髪を垂らして壊れた人形のようで、まるで数十日目くらいのシホヒメそっくりだ。
「ここの魔物はダークバンシー。魔法が効きにくいから私はあまり役に立たないかも」
「わかった。リン。頼むぞ」
「あいっ……!」
ここまでと同じく棘を伸ばしてダークバンシーを刺すと、シホヒメが枕で眠るのと同じ動作で大の字となって倒れ込んだ。
「ほら、シホヒメみたいじゃん」
「…………」
どうやら魔物と比較されるのは嫌だったみたい。
魔石を回収しながら七層に向かう。
七層に入るとすぐに魔物が複数いて、リンが棘を伸ばして倒していく。
「七層の魔物はダークスケルトン。六層のダークバンシーとは逆で物理攻撃が効きにくいよ~」
「そ、そうか。リンの攻撃は物理攻撃じゃないのか?」
「物理攻撃のような気もするけど、一撃だね……」
リンの棘が当たったダークスケルトンはその場で全身が崩れていく。
七層のダークスケルトンは戦闘力というよりは群れで行動している点が脅威のようだ。
それもリンにとっては大した脅威ではなく、無数のダークスケルトンが魔石と変わっていった。
一体で落とす魔石が同じならここが一番効率良さそうだ。
七層を抜けて八層に着いた。
八層の魔物は黒い狼男だった。
「ここはダークウェアウルフだね」
見るからに強そうだ。二メートルくらいの強靭な肉体を持つ狼男。真っ赤な目がこちらに向くと一直線に走ってくる。
すかさずリンが棘を伸ばす――――が、当たる直前で狼男が避けた。
「避けた!?」
俺の目では終えない程の速度の狼男が懐に潜ってくる。
しかし、二つ目のリンの棘が刺さって、その場で力なく倒れた。
「ご主人しゃまは……私が……守る……」
「そ、そうか。ありがとうな。リン」
リンを撫でてあげるとポヨンポヨンと体を揺らす。
それからもシホヒメの魔法とリンが連携して狼男を倒していく。
俺達はそのまま八層を抜け、九層に辿り着いた。
「九層の魔物は――――ダークエルフよ」
ダークスケルトン程じゃないが、かなり数が多い。それより気になるのは人と違う点が真っ赤な目と耳が尖っていること。それと全員が女性の体という点。
次の瞬間、俺達を捕捉したダークエルフたちがこちらに向かって矢を放って来た。
「ひい!?」
リンが触手を伸ばして鞭のようにしならせて矢を全て叩き落とす。
「――――チェインライトニング!」
シホヒメが放った雷が次々ダークエルフたちを倒していった。
「ぷふっ!」
シホヒメが俺を見て笑う。
「どうした?」
「リン様が両方に触手を伸ばしているからツインテールみたいになってるよ?」
「うぐっ……」
確かに左右に長い触手がぶらりと下がっている。
きっと俺を一番に助けるためだろうと思う。
周りにはほかのパーティーもいなかったので気にすることなく進み――――十層への入口を見つけた。
「ここからが本番だな」
「そうだね。油断しないで行こうね」
「おう」
そして俺達は十層に降り立った。
――――《ギフト【ガチャ】への試練が開始されます。》
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