第28話 新しい仲間

 家に帰って来て、すぐに妹を布団に寝かせる。


 リンは伝えてくれないけど、多分何度も謝ってると思う。


 でもそれは違う。俺が薬を早く引けば済む話だ。


「リン。シホヒメ。お願いがある」


「あい……」


「はい」


「リン曰く俺のガチャから薬が出るらしい。だから何が何でもガチャを回し続けたい。当分の生活費はあるから二か月は家賃光熱費は問題ない」


 リンの入院費だったお金だ。


「二人に力を貸してもらいたいんだ」


「私、頑張る……」


「もちろん、ガチャを回してくれるなら私も頑張る!」


 シホヒメにはシホヒメの目的があるから、目的が一致しているからこそだろう。


「妹さんのお世話も私に任せておいて~! お兄ちゃんに裸を見られたら恥ずかしいと思うから~」


 俺があまり妹の世話をできないのにはそういう理由もある。


 昔は恥ずかしがって怒っていたからな。


「エムくん? これからどれくらいの時間潜るの?」


「そうだな…………朝から夕方まで潜ろうかなと思ってる」


「わかった。でもいいの? 妹さんを一人にすることになるんだけど」


 それが一番の心配ではある。


 体が動けないだけで、意識はあるから一人ぼっちで部屋にいるだけになる。


 誰とも話せず寂しくなるはずだ。


「…………」


 どうしたら…………。


 その時、うちのチャイムが鳴る。


「待って。エムくん」


「ん?」


「なんか悪い気配を感じるわ。出ない方がいいかも」


「は?」


 扉に向かって両手を開いて塞ぐシホヒメ。


 こいつ何やってるんだか。


「リン」


「あい……」


「ひい!?」


 リンが棘を伸ばしてシホヒメを麻痺させる。


 前回のような強烈なモノではないので、ほんの数十秒くらい痺れるはずだ。


 倒れ込むシホヒメを退かして、玄関口に向かう。


「はいはい~」


 ドアスコープを覗くとそこにいたのは――――――


「えm――――陸くん? 私だよ!」


「えっ!? 綾瀬さん!?」


 もう二度と会えないと思っていた人が立っていた。


 急いで扉を開くと、少し息が荒い綾瀬さんだ。


「え、えへへ~」


「どうしてここに!?」


「奈々ちゃんのことで困ってると思って。迷惑……かな?」


「迷惑!? い、いや、そういうことじゃないけど…………ひとまず中にどうぞ」


 色々ツッコミたいことがあるが、せっかく来てくれたから中に通す。


 部屋に入ると、倒れ込んだシホヒメをゴミを見る目で見下ろす綾瀬さん。


 綾瀬さんってこういう目もするんだな……。


「彼女は?」


「扉を塞いだからちょっと麻痺させてます」


「ふう~ん…………白魔法【エーテル】」


 綾瀬さんの手から白い光がシホヒメを包み込む。


 目がパッチリと開いたシホヒメが「とぉ~!」と声をあげてその場に飛び上がり立つ。


「ありがとう」


「どういたしまして」


 奈々を囲んでみんなで座り込む。


「陸くんってこれからダンジョンに潜り続けるつもりでしょう?」


「そうですね」


「そうなると奈々ちゃんがずっと一人でしょう?」


「そう……です……」


「じゃあ、私を雇ってくれない?」


「綾瀬さん!?」


「できれば奈々ちゃんを最後まで見届けたいんだ。彼女がちゃんと笑顔になるその日まで」


「綾瀬さん…………」


 思わず涙が溢れる。


 彼女には色んなことを助けてもらった。どうして俺達兄妹にここまでしてくれるのだろうか。


「お給料は出世払いでいいからね! 私も貯金があるし、しばらく生活には問題ないから」


「っ…………ありがとう……ございます」


 彼女の好意に甘えることにした。




 食材はガチャのハズレでたくさん集まるので食費は問題ない。リンのためのソーセージくらいか。


「綾瀬さん。帰りの時間大丈夫ですか?」


「ほへ? 大丈夫~!」


 外もそろそろ暗くなりかけているが……まぁ見送ればいいだけか。


 それから暫く奈々のことで色々話し合って、外が暗闇の時間を迎えた。


「じゃ、私はそろそろ帰るね? 朝にはまた来るから~」


「送ります」


「ありがとう」


 シホヒメと奈々を残して、家を出た。


「綾瀬さん」


「里香――――里香って呼んで」


「!?」


「これから仲間になったんだから、名前で呼んで欲しいな……」


「まだ心の準備が……」


「そればかりは仕方ないね~えへへ~」


 シホヒメもそうだが、綾瀬さんも綺麗な人で笑顔が可愛らしい。


 彼女が歩き始めた。そして――――――鞄の中から鍵を取り出して、扉の鍵を開ける。


「えっ?」


「陸くん! ありがとう! また明日ね~」


 そう言い残した彼女は中に入っていった。


 そう。


 隣の部屋だ。


 …………。


 …………。


 いやいやいやいや! 綾瀬さんって隣人だったのかよ! 今まで一度も会った事ないぞ!? 一体どこからツッコんでいいのかわからず、ポカーンとしている俺の頭をリンがポンポンと優しく叩く。


「ご主人しゃま……帰ろう…………」


「お、おう」


 歩いて十歩。


 近いな…………。

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