第21話 配信強制停止

「り、リーダぁああああああ~!」


 ダンジョン内に大きな声が響く。普通の女子の声。


「き、君達!?」


 あれか。パーティーメンバーとかかな?


 こちらに向かって全速力で走ってくるのは三人。女性二人と男性一人。


 一番前で声をあげるのは神官の服装の女性、後ろに小柄な女性が魔法使いの杖を持ち、その後ろを弓を担いだディンさんと同じく金色の短髪をなびかせたイケメンな男性だ。


『すげええええええ! 最上位の探索者クラン【栄光の軌跡】だあああああ~!』

『リリナちゃん今日も可愛いよ~!』


 …………これは配信ジャックと呼ばれるあれか?


「君達! どうしてここに……!」


「それは……リーダーが急にいなくなって……私達凄く心配で…………」


「そんなわけないじゃないか! 僕はこうして君達のた――――」


 涙ぐんでやってきた神官衣装の彼女が、ディンさんの顎にアッパーを喰らわす。


「それがあかんって言ってるねんんんんんん!」


「ぐ、ぐはあああああ!?」


『ディンが飛んで吹いたww』

『今日もマホたんが怖い……!』


 この神官衣装の彼女が【マホたん】で、後ろの魔法使いが【リリナ】で合ってそうだな。


 大きく吹き飛んでディンさんは地面に叩きつけられる。


「ディぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!」


 大きな美声をあげながら飛んでいった男性が、ディンさんを優しく抱きしめる。


「あぁ……こんなにボロボロになってしまって…………少し待ってくれ、マホたんにお願いしてすぐに回復してあげるからね?」


 いやいや、彼をぶっ飛ばしたのがその本人でしょう!? そもそも見てたよね!?


「このクソリーダーが! また変なことにパーティーのお金を使おうとしたんでしょう!」


「そうよ! 私の衣装代が減らされたのに納得いかないのよ!」


「リリナ。貴方の衣装代は高すぎるの」


「いいじゃん! 今日もアベンシスの新作が出るんだから! 超かわいいよ?」


 …………こいつら帰ってくれないかな?


 その時、こちらに向かって呪詛じゅそを吐いていたシホヒメの表情がどんどん強張り始めた。


「さっさと出て行きなさいいいいい!」


 シホヒメの悲痛な叫びがダンジョンに木霊する。


『シホヒメが怒るなんて珍しくね?』

『100連回したい人だからな』

『100連ってどうなるんだ? ボーナスが20連追加だっけ?』


 リスナーも待っているし、俺も薬を引きたいのでさっさと引きたいんだが……。


「ま、待たれよ…………」


 しつこいな……。


「羽根と腕輪を……二千万円で……」


「二千万円でそんなくだらないおもちゃを買うんじゃないよ!」


 倒れているディンさんの腹部をマホたんがパンチで叩き込む。


 回復魔法が使えるらしいけど、打撃系のギフトに思えるくらい生々しい打撃の音が周囲に響く。


「ぐ、ぐはっ……ぼ、僕は……みんなのために…………」


「いつも無駄遣いばかりして!」


「あぁ……ディン……少し待ってくれ。マホたんにお願いして回復してあげるからね?」


 …………こいつら本当に最上位クランなのか?


「エムくん」


「うわあ!?」


 目が血走ったシホヒメがいつの間にか近づいてきた。


「エムくん? あいつらは無視してガチャ回そう? ねえ? もう私限界なの! もうエムくんにしか私を満足させられないの!」


「ま、待ってえええ! ズボンが! ズボンが脱がされる!」


「お願いいいいいいいい!」


「パーティーのお金を無駄にするなああああ!」


「ディぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!」


「衣装代~!」


「ズボンがあああああああ!」


 次の瞬間、シホヒメがしがみついた俺のズボンのベルトが破裂して脱がされてしまった。


『パンツ降臨☆彡』

『終わった』

『さよなら。エム氏。また会おう』


「う、うわああああああ!」



 《配信中に規約違反を検出。風営法により配信を強制停止致します。本日から数日間配信禁止となります。》



 俺に絶望を知らせる画面が音声付き・・・・で流れる。


 それと同時にコウモリが帰っていった。


「シホヒメえええええええええ!」


「ひえ!?」


「ば、ばか野郎おおおおおおお!」


「ふええ!?」


 ふええじゃねぇんだよおおおおおおおお!


 ダンジョンの中にパンツ姿の俺の悲痛な叫びが響き渡った。

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