第22話 ブラックスライムの性癖?
「ごべんなじゃいいいいいいいい」
大声で泣き始めたシホヒメに溜息が出る。
とりあえず脱がされたズボンを履いて、現状を整理する。
配信には規約違反があった場合、自動的に配信が停止になる。
今回引っかかった規約違反は、ズボンを脱いだこと。
魔物との戦いの最中に服が破けたり脱がされた場合は、黒いモザイクのまま配信されるのだが、本人や他人が故意的に服を脱いだ及び脱がされた場合に規約違反となる。
今回はシホヒメが俺のズボンを脱がしたからだ。
「はあ…………困った。配信じゃないとリンがガチャを回させてくれないし、風営法違反での配信停止は最短でも一週間はかかるからな……」
その時、リンがシホヒメの頭の上に飛び乗る。
「リン!? ま、待て! ここで刺したら色々めんどくさいことになる!」
「…………」
リンが手を二つ伸ばす。そして――――――シホヒメの頭を撫でた。
は?
「リン様……?」
「シホヒメ……よくやった…………」
「よくやったってなんだよ!?」
「!? えへへ~リン様のためならシホヒメ頑張ります!」
こいつら。俺が知らない間に何だか仲良くなってないか?
それにしてもシホヒメの目がガチャマークになっているんだが、大丈夫か?
「とにもかくにも配信ができなくなったから、一度戻って作戦会議だ」
「は~い!」
意外にもシホヒメが一番元気だ。
隣ではディンさんをボコボコにしている最強クランメンバーがいたけど、気にするところではないので放置して家に帰って行った。
◆
「さて、ひとまず現実の確認だ。規約違反で一週間の配信が停止された」
「あい!」
「となると、一週間か、それ以上に収入が見込めない」
「あいっ……」
「まずは配信できない期間中を何とか乗り切るために――――特大魔石を売ることにしよう」
そう話すと、シホヒメが絶望した表情を浮かべる。
特大魔石を大事そうに抱えて、俺から後ずさりしながら首を横にブンブン振る。
「これもシホヒメのせいだからな?」
より激しく首を横に振る。
「リン。頼む」
「うふふ♡」
人型となったリンがゆっくりとシホヒメに近づく。
「シホヒメちゃん~♡」
「ひい!?」
両手を伸ばしてシホヒメを抱き締めたリンは、そのままシホヒメを押し倒した。
「魔石ちょうだい~」
「だ、だめ……」
「悪い子はこうするの~♡」
リンの巨大なたわわがシホヒメの慎ましいたわわを襲い始める。
「ひゃん!? ん……やぁ……だめ…………っ……」
一体どこを触ってるんだ!?
「す、ストップ!! リン! それ以上やめろ! う、うわあああ! やめてくれえええええ!」
シホヒメと絡んでいるリンを見ていられなくて引き剝がそうとするが、中々剥がれてくれない。
「あら? ご主人様もする?♡」
「!? ま、待っ――」
今度は俺の顔面を襲う二つの巨大なたわわが呑まれてしまう。
いけない! 無心……無心だああああ! 何も考えるな! これはただの水風船。ただの水風船。ただの水風船――――
「ご主人様の♡」
ゆっくりと俺の下半身に伸びる感触を感じる。
「や、やめろおおおおおおおお!」
その日、俺は男としての尊厳を失った。
ただただリンの柔らかい手の感触で、俺の――――太ももをマッサージされ続けたからだ。
◆
ようやくリンの
いつも棘を伸ばして魔物を倒してくれるリンの戦闘力は高い。
それ以外でも物を飲み込んで保管してくれるし、姿も変えられる。
しかし俺はまだリンの一番の本領発揮を知らなかった。
リンが俺の前で両手をうねうねさせる。
「…………リンの特技は?」
「マッサージ♡」
「はあ……」
実はリンには一つ性癖と言うべきものがあるらしい。
それが【マッサージ】である。
彼女は誰かの全身をマッサージして悶えさせるのがとても好きらしい。
…………めちゃくちゃ気持ちよかった……。
シホヒメは既にやられていて、リンのことをリン様と呼んでいる。
俺の太もものマッサージを終えてご満悦になったリンは、そのままシホヒメのマッサージに移った。
もちろん、悶えるシホヒメを悲しい目で眺めながら特大魔石を奪い取った。
「シホヒメ。魔石を売りにいくぞ」
「い、いや……おねがい……私から奪わないで……?」
「そもそもお前のせいだろ!」
その時、家のチャイムが鳴る。
うちにお客さんがくるなんて珍しいというか、誰も来るはずがないんだが……。
玄関のドアスコープを覗くと、そこには白騎士の元仲間の二人が立っていた。
「シホヒメ様! 魔石をお持ちしました~!」
うわっ!? シホヒメ様? 魔石!? というかどうしてうちを知っているんだ!?
後ろからぬるっと起き上がったシホヒメが玄関を開けた。
「魔石」
「はいっ! こちらになります!」
「うん。よくやった。帰っていいよ」
「はいっ! 本日もお疲れ様でございます!」
二人は袋を渡して九十度直角で頭を下げて、迷い一つない足取りで帰っていった。
ニヤリと笑うシホヒメが玄関を閉めてすぐに俺を見上げる。
「エムくん? ほら、魔石だよ? 魔石なの!」
「お、おう……」
「私のあげる! エムくん!」
「お、おう……」
こいつ……目がガチャマークに…………はあ。もう何をツッコんでいいのかすらわからん。
ひとまず、その日は特大魔石を売りに行き現金に換えて奈々が入院している病院の入院費を先払いしておいた。
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