第20話 ガチャ品の真価

 影から飛び出して来た男の人が、俺達の前に出てきた。


「初めまして。エム殿!」


 金色に輝く少し長い髪をなびかせた男は、日本人から掛け離れた顔をしている。


「えっと……どちら様でしょう?」


『すげええええええ!』

『なんつう人が来たんだ!?』

『エム氏の配信で現れていい人物じゃなくて草』


 えっ!? リスナーのみんなはどうやら彼がどういう人なのか知っているみたいだ。


「これは失礼した。僕は――――ディンと呼んでくだされ!」


「でぃ、ディンさん」


『ディンキタァァァァ!』

『まじかよ……違和感半端ねぇ~』

『底辺探索者vs最強探索者が面白すぎるww』


 ん? 最強探索者?


「シホヒメ。ディンさんを知っているか?」


「知らない。早く帰って」


 こいつ……もはや目にガチャマークが描かれている。


「これは手厳しい。お二人のデートをお邪魔してしまい大変失礼した」


 頭上のリンが激しく動く。二人のデートってところに反応したようだ。


「デートとかじゃありません。ディンさんがどういう方がご存じはないのですが、どういう用件でしょうか?」


「ぬはは~これは失礼。配信中であまり時間がありませんでしたな。では早速になりますが用件を伝えさせて頂こう。単刀直入に――――腕輪と羽根をお売りくだされ」


 腕輪と羽根?


 この前ガチャで排出した品か。


『すげええええ! やっぱり最上位クランでも欲しがるくらい凄い当たりだったんだな』

『一番の当たりはリン様☆彡』

『リン様今日も可愛い~』


 お、おう…………そういや、以前そんなことをコメントしていたリスナーがいたな。


 装備と言えば、剣と鎧しかドロップしないから、腕輪に特殊な効果があるなら欲しがる人はたくさん出そうだな。


「売らない。帰って」


 ディンさんの前に立つシホヒメが一瞬で決着を付ける。


「待ってくだされ、うつ…………くしいレディー」


『いまの間www』

『ダークシホヒメは怖いよなww』

『ダークシホヒメ吹いたwめちゃ納得したわw』

『もしかしていま鬱って言いかけた?』


 ダークシホヒメ。言い得て妙だ。


「待たない。時間がない。早く帰らないとリン様にお願いして刺すから」


 ん? リン様・・・


「ぬはは~これはまた手厳しい~ですが、僕はどうしてもあの腕輪と羽根を売ってもらわないといけません。あれがあれば今まで行けなかった深層にも行ける。僕はここで諦める訳にはいけないのです!」


 なんか一々喋り方が大袈裟というか、劇場的? 演劇っぽい? まあ、それはいいか。


「それでいくらで買いたいんですか?」


「羽根は一度切りですが緊急時に全員で脱出できるし、腕輪は性能まではまだわかりませんが魔法耐性が得られる優れもの…………二つとも一千万円でどうだろうか!?」


『帰れ!』

『底辺探索者から安く買おうとするな卑怯者!』

『買いたたきをする最強探索者の図』


「これは失礼。ただ、お言葉ですが、そのアイテムが本物なのかどうかまだわかりません。本当に逃げられるかわからないものを買うのですし、腕輪の魔法耐性もどれくらいのものかわかりませんから」


「なるほど……それもそうですね。なので売りません」


「ぬはは~これは一本取られちゃいましたね。お待ちくだされ! 二千万円でいかがだろうか!?」


 こいつ……最初から倍吹っ掛けるつもりだったな!?


 まあ、売ってもいいけど、不良品として文句言われるのが一番まずい気がする。


「すいませんが、こちらの装備は本当にその効能があるか確かめてから売らせてください。売る側としても不良品を売る訳にもいきませんから」


「ぬうっ…………むむむ。それではいつ確認できるかわかりません。ではこうしましょう。羽根を一千万円で買いましょう。その後、すぐに僕が使います。それで証明できたら次に出た時に僕に売ってくだされ!」


 一千万円という魅力的な提案に心が揺れ動く。しかし、本当にそれでいいのか?


『エム。よく聞け。一度売ったら、自分達にも売ってくれという輩も現れる。値段も吊り上がっていく。買えなかった者からは恨みを買うこともあるだろう。しっかり考えて判断しろ』


 長文コメントが流れる。


 リスナーが送れるコメントには制約がある。内容と長さと頻度だ。


 内容に関しては禁止ワードが存在し、送った際に禁止ワードが入っていると送れないし、ペナルティもある。


 頻度は一度コメントを送ったら、次のコメントが送れるまで十秒のチャージタイムがある。


 最後のコメントだが、一度に送れるコメントは四十文字までとなっている。


 では今回流れる長文タイトルは何かというと、いわゆる【課金コメント】と呼ばれているコメントだ。課金することで一度に送れるコメントが二百文字まで書けるようになり、一文字ずつの課金となるので文字数分にポイント(お金)が掛かる仕組みになっている。


 そして、俺に課金コメントをよくくれる人物が一人だけいる。


 通称――――【師匠】。


 というのも、俺が勝手に師匠と呼んでいるからだ。


「師匠……。わかりました。肝に銘じます」


『師匠降臨☆彡 師匠降臨☆彡』


 お前らその☆彡流星好きだな。


『底辺探索者が一千万円~!』


 そ、それは……確かにもったいない。


「ディンさん。一つ聞きたいんですが、どうしてそこまで羽根を欲しがるんですか?」


「それはとても簡単ですぞ。僕達は常日頃難易度の高いダンジョンに潜っているのです。となると一番困るのは、アクシデントです。思わぬ事故がパーティーの壊滅に繋がります。僕はクランマスターとしてメンバーを守りたい。その保険として帰還の羽根を持っておきたいのですぞ」


 メンバーを思うからこその羽根か……。


「今は一千万円だけど、もし効果が本物なら――――、一億円を出してでも手に入れたいくらい貴重な物なんですぞ」


 俺が知らなかっただけで、腕輪と羽根はとんでもない効果を持った品のようだ。


「となると、個人的には俺が持っておきたいのもあるので、やはり売るのは一旦やめておきます」


「ぐう……ぼ、僕はメンバーのために諦めませんぞ!」


 その時、入口から土煙が上がって何者かが俺達に向かって走ってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る