第18話 魔石大好きシホヒメさん
奈々が待つ病院に向かう前に素材買取センターにやってきた。
魔石や素材を買ってくれる場所だけど、フロアボスと呼ばれている魔物を倒すと低確率で宝箱が出て、その中から装備品が出る場合がある。
今のところ、剣と鎧だけしか出ないが、どちらも高額で販売されると聞いている。
「いらっしゃいませ」
可愛らしいメイド服っぽい制服の店員さんが挨拶をしてくれる。
「剣と鎧を売りたいんですけど」
「ご利用ありがとうございます。ではこちらに品を上げてください」
「リン。よろしく」
「あい……」
頭の上のリンがブルブルと震えると、白騎士の剣と鎧を吐き出した。
「!?」
「あはは……うちの従魔がすいません」
「と、とても可愛らしい従魔さんですね……黒いスライムですか?」
「ええ。ブラックスライムです」
女性は可愛らしいものが好きだという通り、彼女もリンに興味津々のようだ。
数秒リンを眺めた彼女はハッとなり買取を進めてくれる。
待っている間、俺の肩をツンツンと押してきたシホヒメは、とある場所を指差した。
そこにはガラスの展示ケースがあり、そこに向かうと魔石がサイズ順に並んでいた。
「シホヒメ~これが欲しいのか~?」
「はい! はい!」
「仕方ないな~少しだけだよ?」
「はい! はい!」
…………こいつ本当にもうダメかも知れない。
魔石の展示ケース前で興奮するシホヒメを放置して買取カウンターに戻る。
店員さんと目が合うとあからさまに視線を外された。
ううっ…………痛いのはあいつだけなんだけどな…………。
「お、お待たせしました! こ、こちらの額になります」
もう目も合わせてくれなくなった店員さんからレシート紙を一枚渡された。
そこには買取金額が書かれていて、剣と鎧合計で十二万円と書かれていた。
「売ります!!」
「は、はい!」
即交換した現金を持って、今度は魔石売場に向かう。
展示ケースの中には色々なサイズの魔石が並んでいる。極小魔石、小魔石、中魔石、大魔石、特大魔石の五種類だ。サイズも大きくなっていき、極小が小さなビー玉くらい、小が大きなビー玉くらい、中型がゴルフボールくらい、大がテニスボールくらい、特大は両手で覆えるサイズだ。
買い値は、極小魔石が十円、小魔石が百円、中魔石が千円、大魔石が一万円、特大魔石が十万円となる。
それに比べて売り値は全てが二割増しの値段になっている。なので買うとなると少し高い。
まあ、今日はシホヒメのためにも――――奮発してあれを買おう。
「これください」
「ひゃ、ひゃっは~!」
涎を垂らしている残念美女シホヒメが歓声を上げた。
日を追うごとに凄まじく豹変するな。
魔石売場の店員だけでなく店内の皆さんがシホヒメを白目で見つめる。
配信中だったら『残念美女☆彡』と弾幕が流れたに違いない。
購入した特大魔石をシホヒメに渡すと「ひゃっほ~!」と声をあげながら付いてきた。…………少し離れて歩いて欲しいくらいだ。
シホヒメはうるさいので家に帰らせて俺とリンは奈々のところに向かった。
◆
その日の夜。
「シャー!」
「ひい!?」
特大魔石を両手に持ち必死になったシホヒメと、俺の頭の上から両手を棘にして繰り出して威嚇するリン。
正直に言えば俺としても今すぐ回したい――――
「百連! はあはあ……」
極小魔石が魔石ポイント1で、小が10、中が100、大が1,000、特大が10,000。つまりシホヒメが抱きしめている特大魔石があれば、初の百連を回せられることになる。
「リン? 今日はさすがに回してくれないか?」
「や……配信で……回すもん……」
「はあ……シホヒメ。すまないがリンが許可してくれないと俺にもどうにもならないよ。ほら」
頭上のリンを引き離そうとすると、びよ~んと伸びるだけで剥がせられない。
「ほら。今日もお前が好きなソーセージ買ってきたから」
「!?」
ぴょーんと手を伸ばしたのは――――――まさかのリンだった。
「え?」
「……!?………………」
ゆっくりと手を離して何もなかったかのようにするリン。
「……リン?」
「今日は……いい……天気……」
「リンからいい天気とか言われたことねぇよ! ちょっと待って。今の手は何だったんだ!?」
「ひゅ……ひゅう……」
いや、それ口笛のつもりなのか……?
「リ~ン? 怒らないからここにおいで」
テーブルの上をトントンと叩いてソーセージを置く。
「…………」
ゆっくりと俺の頭から降りたリンが、俺を見上げる。
うん。可愛い。
だが今のを見逃すことはできない。
「リン? 正直に言ってごらん。ソーセージを盗み食いしてたのは、シホヒメじゃなくてリンなのか?」
「!?」
ビクッと動いて、ふにゅふにゅと揺れ動く。
「怒ってないよ。ただ真実を知りたいだけ。俺はシホヒメのためと思ってやってたけど、リンが欲しいのならリンのためにしたいんだ」
「本当に……怒らない……?」
「もちろんだ。約束するぞ? 俺はリンのご主人様だからな」
「ご主人しゃま……ソーセージ……リン大好き……」
「そっか。リンが好きだったんだな。ちゃんと言ってくれよな? リンのためにこれから毎日買うよ」
「!?」
ブルブルっと震えたリンは、次の瞬間――――――
「う、うわあああああああああ!?」
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