第15話 夜食

「え、エムくん!」


 家に着いて、少し困ったような表情を浮かべたシホヒメが俺を呼ぶ。


「どうした? シホヒメ」


「あ、あのね……夜食は多めに作ってくれる?」


 ん? 普段からあまり食べないシホヒメにしては珍しい頼みだ。


「わかった。何か食べたいものはあるか?」


「食べたいもの…………あ! そ、ソーセージが食べたい! いつもそのまま食べられるやつ!」


 …………こいつ。俺が買っておいたソーセージを食べているな?


「シホヒメ……ちゃんと白状しろ。俺が買っておいたソーセージをいつも盗み食いしているのはお前だな?」


「違――――ひい!? う、うん! ご、ごめんなさい!」


「はあ……食べたかったらそのまま言えな? 少なくとも魔石を毎日あれだけ集めてくれるシホヒメには感謝しているんだから、食事くらい任せてくれ」


「エムくん……」


 何故か目を潤わせて嬉しそうな笑みを浮かべる。


「あ! エムくん。このまま妹さんのところに行くんだよね?」


「そうだな。警察沙汰になってしまったけど、この時間なら間に合うから」


「じゃあ、私も狩りに行ってくるね? また魔石集めておくよ」


「そうか。でも無理は禁物だからな?」


「うん!」


 家を出て途中でシホヒメと別れて病院に向かう。


 まだ真っすぐ歩けるので心配はないか。


 奈々のところに向かい、今日の出来事を報告した。


「リンちゃん……ありがとう…………あい……」


 自問自答しているようでリンが可愛い。


「リン。いつも助けてくれてありがとうな。いや~今日は本当に訳がわからなかった。それにしてもシホヒメの知り合いだったみたいだけど、一体誰だったんだろう……?」


「お兄ちゃん……誰かに……恨まれないようにね……」


「恨まれるつもりはなかったけど、シホヒメに関わった以上厳しそうだ。最近コメントも色々凄いしな。まあ、大丈夫だ。俺には――――相棒がいるから」


 そうやってリンを優しく撫でると、いつもぽよんぽよんした体が激しく揺れ動く。


「うふふ……リンちゃん……喜んでる…………やぁ……言わないで…………」


 一人二役コントみたいで面白いな。それにしてもリンも照れるんだな。


「さて、そろそろスーパーのタイムセールの時間だ。今日は帰るよ」


「あい……お兄ちゃん……無理しないでね……」


「おう」


 リンと共に病室を後にして外に向かう間、向かいから見知った看護師さんが俺に向かって走ってきた。


「え――――陸くん!? 大丈夫?」


「はい? ええ。何ともありませんよ?」


「そ、そうか……よかった…………奈々ちゃんにあまり心配かけないようにね?」


「もちろんです。いつも奈々の世話をありがとうございます」


 動けない妹だから、入院していても色々世話が必要だ。いくら体は成長するとはいえ、汚れだったりあるから、いつも妹が綺麗さを保っているのは綾瀬さんたちが頑張ってくれるおかげだ。


 奈々曰く、殆どの世話を綾瀬さんがしてくれるらしく、他の看護師さんよりも熱心に世話してくれるらしい。


 本当にありがたい。


「私にできることはそれくらいだから……」


「それで十分です。綾瀬さんのおかげで安心して頑張れます」


「うん……応援してるよ!」


「ありがとうございます!」


 綾瀬さんに挨拶をして、シホヒメが欲しがっていたソーセージを買いにいく。


 頭上に乗っているリンがまた少し激しい動きを見せる。普段じっとしているのに珍しいな?


 ソーセージコーナーでいつものソーセージを取ろうとしたら、隣にワンランク上のソーセージが見えた。


 ん~シホヒメが不憫だから、ここは一つワンランク上のソーセージにしてやるか。――――と思って手を伸ばしたら、リンが俺の顔を覆ってきた。


「リン!?」


「いや……右のがいい……」


「おいおい。ソーセージはお前のじゃなくてシホヒメのものだぞ?」


「いや……いや……」


「今日は珍しくわがままだな。くう~剥がれねぇ~!」


 リンは一度付着すると、俺の力では剥がせられない。びよーんって伸びるけど剥がれない。


「はあ……わかったよ。リンはシホヒメのこととなると気が強くなるな。まあ、少しは仲良くしてあげなよ?」


「あい……」


 顔の上部がリンによって隠れていたが、もにょもにょと頭の上に移動して視界がクリアになった。


 周りで心配そうに俺を見ている客が見えた。


「な、何でもありません! すいません!」


 ちょっと顔が熱くなるのを感じながら、いつものソーセージ四つ入りを二パックを手に持ってその場を足早に離れて会計を終わらせて家に帰って行った。




 今日は少し時間があるから肉を焼いたり、ソーセージを焼いたりと時間がかかる料理を進める。


 意外だけど、ガチャ産Nハズレの野菜たちって、すごく美味しくて生でも食べられるんだけど、ここにもう一つの工夫をするとさらに美味しい。


 同じくNハズレの一つである――――ふりかけ。それをドレッシング代わりに掛けると意外に美味しい。


 サラダやお肉料理、卵焼きなどを作って準備しておく。帰りは夜遅いだろうから多めに作っておく。


 …………。


 …………。


 やべ……余計に三食分も作ってしまった。


 う~ん。まあ、余ったら明日の朝にでも食べるか。


 ガチャ産素材も調理してしまって料理として完成してしまうとガチャ袋には入れられないからすぐに食べないともったいない。


 先日試した肉を薄く切ってベーコンの代わりに使う作戦が意外に美味しかったので、食べ残しがなかったからそれでもいいか。


 夕飯を食べて眠るまでシホヒメは帰ってこなかったので、少し心配しつつ眠りについた。

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