第14話 俺の従魔は最強かもしれない

 次の日。


 周りを見回すと相変わらず胸の上にリン、自分の布団の上でこちらに笑顔を向けているシホヒメがいる。


 眠れなくてまた目の下にクマが少しできている。


「おはよう。シホヒメ」


「おはよう~エムくん」


 まだ一日目なので余裕はありそうだ。


 朝食の準備をする。昨晩用意しておいた夜食用の食事は全部食べている。ちょっと多めに作ってあげたけど、全部食べてしまった。普段からあまり食べないはずなんだけど、夜はお腹が空くのか?


 朝食を食べて今日も配信に向かう。




 ダンジョンに着いて手を伸ばして頭上のリンを撫でてあげる。


「リン。今日もよろしくな」


「あい……」


 配信はスマホで事前に場所と時間を指定しておくと、配信用カメラであるコウモリが探索ギルドから送られる仕組みになっている。


 十時丁度に予定しているので、五分前にコウモリがやってきた。


 《アカウント名【エム】様。本日もコネクト配信を楽しんでください。》


 コウモリの前に表示された画面に手で触れる。


 感触は全くないけど、触れるだけで反応してくれる仕組みだ。


 配信前の時間が残り5分と表示されて、一秒ずつ減っていく。


 もう何度目の配信か忘れてしまったけど、手慣れたものだなと自分でも驚く。


「シホヒメ。挨拶したら二層に向かうのか?」


「うん!? そ、そうだね! そうするよ」


「さて、配信開始まで五分だから少し待つか」


 配信までの時間経過を眺めながら準備運動を行っていた時、残り時間が数秒と表記されると同時に奥から人影が一人現れた。


「おい貴様あああああ!」


「ん?」


 急にこちらに向かって大声をあげる男が現れた。


 金髪のチャラい雰囲気の男は、三日以上眠れていないシホヒメみたいに凄まじい形相だった。


 どこかで見た事があるような……?


 《配信が開始されます。》


 まさかのタイミングで配信が始まってしまった。


「どなたでしょう?」


「なっ!? お、俺を覚えていないだと!」


「はい」


「く、クソがああああ! 貴様なんかにシホヒメを渡すものか!」


 ん? シホヒメ? 金髪男……? どこかで…………。


「なあ、シホヒメ。知り合いか?」


 一緒に並んでポカーンとしているシホヒメに聞いてみる。


「え? ――――――知らない人だよ?」


「ええええ!?」


「何か驚いているぞ? 本当に知らない人か?」


 シホヒメは何一つ迷いなく首を縦に振った。


「お、おい、シホヒメ! 俺だ! 白騎士だ!」


 シロキシ……。


『白騎士だってww中二病かよww』

『急にシリアスが始まったから黙っていたのに名前に吹いたwww』

『ワレ、ホワイトナイト』

『カタカナはやめてやれww可哀想だろwww』


 空気を読んでくれてコメントを我慢していたようだな。


「白騎士だって。分かる?」


「え~知らないよ~? 私の事、あまり馴れ馴れしく呼ばないで! 私はエムくんの女なんだからっ!」


「おいやめろ!」


「な、なっ!? 俺もまだ抱けてないのに……き、貴様あああああ!」


『シホヒメはエム氏のものに夢中です~』

『ものとはまた生々しいな~』


 怒り狂っている金髪男が誰なのか思い出せそうで出せない。


 剣を抜いて、俺に向けてくる。


「シホヒメを返せええええ!」


「あのさ、ああ言ってるけど、帰る?」


 するとシホヒメが俺の右腕に絡んできた。


「え~私はエムくんの隣が帰る場所だよ?」


 キラーン☆


 ちょっとクマが見えるけど、まだ一日目は輝いているな。


「お、おい! 腕に絡むな!」


「え~ちょっとくらい、いいじゃん」


『シホヒメのような美少女に言い寄られているエム氏が一切羨ましくないぞ?』

『エム氏クオリティだからな』

『残念美女☆彡 残念美女☆彡』

『リン様☆彡 みたいに言うなwww』


 また世界に新たな言葉が誕生したようだ。


 コメントや俺達を見た金髪男の顔が真っ赤に染まる。


「シホヒメは……俺がずっと面倒を見てきた存在なのに、それを横取りするなんて! 許さああああああん! シホヒメを取り戻す!」


 次の瞬間、彼から圧倒的な気配が放たれる。


 底辺探索者とはいえ、一年以上ダンジョンに通っているからわかる。彼もギフトをもらっている探索者だ。それも戦闘系だと思う。


「っ!?」


 魔物と同じくらいの殺気が俺を襲う。ここまで嫌われることをしたつもりはないが、向けられる増悪は気持ちいいものではない。


 剣を構えて、一気に俺に向かって飛んでくる男は、あまりの速さに驚いてしまった。


 少なくとも罪のないシホヒメを傷つけてしまうわけにはいかないので、彼女の手を引いて俺の後ろに隠れる。


 男の剣が俺に向かって斬りつけてきた。











 ズブシュッ――











「ズブシュッ?」


 斬られると思って両手で顔を隠していたから見えなかったけど、何かに刺さる音が響いてゆっくりと目を開ける。


 目の前の金髪男が立ったまま白目をむいていた。


 男の額の中心部に俺の頭の上から黒い棘が真っすぐ伸びていた。


 直後『リン様☆彡』のコメントの弾幕が溢れた。




 ◆




「犯罪行為により逮捕させて頂きます」


 ダンジョン外で警察に容疑者を引き渡す。容疑者の名は白騎士らしい。本名は知らない。


 探索者だろうと殺人未遂罪は重い。彼はこれから探索者のライセンスも破棄され犯罪者になるのだろうな。


「なあ、シホヒメ」


「うん?」


「あの人、本当に誰だ?」


「さあ~? 私も初めて見る人だったよ?」


「でもシホヒメのことは知っていたみたいだしな」


「う~ん。う~ん。私、エムくん以外は興味ないから」


 お前もブレないな……。


 急な乱入から、斬り掛かった彼をすぐに通報してくれたリスナーのおかげで、すぐにコネクト運営から連絡及び警察の件となった。


「あ!?」


「うん?」


「し、シホヒメ……すまん……」


「どうしたの?」


「今日も配信でガチャを……」


「っ!?」


「な、なあ、リン。今日くらい回してもいいんじゃないか?」


 俺とシホヒメはリンに注目する。


「ダメ……」


 ですよね~。


 今日もシホヒメは眠れなかった。

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