第13話 ブラックスライムと残念美女
放送事故も放送事故である。
リンを触ろうとしたシホヒメを棘で刺したら、シホヒメの全身が麻痺で倒れてしまった。
まさかの出来事に配信どころの話ではなくなったので、そのままリンに付着してもらい、彼女をおぶって病院に向かった。
「あ~全身麻痺ですね。意識はあります。このまま放置するか回復魔法があればいいんですが、残念ながら当院に回復魔法使いはいませんので、待つしかないですね。それにしても相当強い麻痺毒ですね」
「麻痺毒……?」
「神経の麻痺毒で、全身麻痺を起こすんだ。しかも超強力麻痺毒ですね。デッドホーネットからでも刺されたんですかい?」
「い、いえ……」
うちのスライムです……はあ。言えるはずもない。
「えっと、入院も大丈夫です……そのまま連れて帰ります」
「ゆっくりしてあげるといいです。麻痺が解ける直前は強烈に痛いですからね」
「痛いんだ……分かりました。注意しておきます」
せっかく病院に来たので、帰らずに妹の病室に入る。
シホヒメは麻痺しているので、そこらへんに置いておいて、奈々との時間を堪能する。
「お兄ちゃん……違う人の雰囲気が……ある…………」
ずっと眠っているからか、感覚が鋭くなっているみたいだ。
「ああ。以前話したパーティーメンバーなんだ。いまは………………ちょっと眠いみたいで部屋の片隅で寝てるよ」
「そう……なんだ…………」
「それよりも具合はどうだ?」
「大丈夫……最近は……寂しくないから……楽しいよ?」
「そうか。偉いぞ~」
両手を伸ばして奈々とリンの頭を撫でてあげる。
今日も色んなことを話して、未だ全身麻痺で動けないシホヒメをまたおぶって家に向かう。
体重が軽いので全く疲れないのが救いだ。
「なあ、リン」
「あい……」
「あまりシホヒメをイジメないでな? 配信もあれだけど、魔石を集めてくれるから俺も助かってるんだ」
「…………」
ちょっとだけ怒った雰囲気を感じる。
仲間とは言わないから、少しは仲良くしてもらいたいものだ。
家に着いて、シホヒメを布団に寝かせる。
魔法使いだからか服装は戦士らしいものではなく、可愛らしい女の子らしい服装だ。ふわふわした黒いスカートの中から綺麗な脚が伸びている。
眠っている姿だけなら美少女そのものなんだがな……眠れないことであそこまで変わるんだな……。
暫く待って夜が深くなった頃、ようやくシホヒメが起き上がった。
「い、痛かった……」
「うちの従魔がごめんな」
「う、ううん。私も
リンを手に持ってシホヒメに頭を下げる。
本人はあまり謝る気はないらしい。
「エムくん? 枕は出た?」
「あ~配信どころじゃなかったから、ガチャはまだ回してないよ」
「じゃ、じゃあ!」
「そうだな。今日の分を回――――」
「シャー!」
リンがシホヒメの頭の上に飛んで行き、棘を立ててシホヒメに目の前に見せる。
「ひい!?」
「リン!?」
「ガチャ……配信で……回すの……」
「いやいや! 半分以上はシホヒメが集めてくれた魔石だから、彼女にも回す権利があるというか……」
「回したら……刺す……」
「ひいいいい、え、エムくん……助けて……」
「お、落ち着け。ガチャを回さないと刺さないと言っているんだ。す、すまん、シホヒメ。ガチャは配信の時だけだって……」
「い、いいよ! うんうん。それで大丈夫です! お願いします!」
あの麻痺毒が余程きつかったのか、あのシホヒメは諦めた。
「わ、わりぃ。今日はできる限り美味しいご飯を作るから!」
急いで厨房に向かって料理を作り始める。
一人暮らしが長かったのもあり、素材を無駄にしたくないのもあって料理はそれなりに練習している。
ガチャ袋の中からハズレで出たお肉を取り出して細かく切っていく。フライパンにトマトジュースや調味料を加えて、お肉のトマト煮込みを作っていく。
トマトは酸味があるけど、ジュースだと甘さが際立つし酸味もあまりないのでそのまま料理に使えるのはとてもいい。
念のために夜遅くにお腹が空いたときのための分も作っておく。
その日はバタバタしながら眠りについた。シホヒメはずっと頭の上に乗ったリンに恐怖していた。
◆
家の主である榊陸が眠っている夜深い時間。
一度眠りについたシホヒメだったが、例のごとく起き上がった。
仰向けになって眠っている陸の胸の上に黒い物体――――ブラックスライムが見える。
一瞬、ドキッとしたシホヒメは逃げるように部屋からリビングに出た。
「はあ…………」
溜息を吐いたシホヒメは定位置の角に体育座りになる。思い出すのは今日体験した全身麻痺。ずっと意識があって動かない体で辛かったシホヒメは二度とリンには逆らわないようにすると誓った。
――――その時、部屋までの扉の隙間から黒い液体がリビングに流れてくる。
あまりにも自然で無音にシホヒメは目を疑った。
次の瞬間、溢れ出た液体はそのままスライムの形になった。
「り、リンちゃん?」
言葉は出さないが、凄まじい迫力を放っているためにシホヒメは真っ青な表情のまま正座でリンに向き合う。
「ひいぃぃ……」
恐怖に支配されたシホヒメだったが、彼女の前でとんでもないことが起きる。
「え、えっ?」
シホヒメは目の前で起きた事象にただひたすら目を奪われるだけだった。
「…………うふっ♡」
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