第10話 残念美女はやっぱり残念美女
シホヒメが帰って来たのは、俺が眠る直前の時間だった。
どうして自分の家に帰らないのかは分からない。ご両親が心配していないといいけど。もしかしたら一人暮らしをしているかも知れないしな。
「ただいま~」
「おかえり。随分と頑張ったみたいだね」
「今日もたくさん倒してきた。多分明日はもっと動きが鈍くなっちゃうから……」
眠れないってことは、その分、体力の回復もなければ、精神的にも疲れてしまうのだろうな。
「とりあえず、お腹空いた」
「飯くらい食べてから来なよ……まぁガチャ産でよければ何か作ってあげるけど」
「お願いします」
「昨日も今日もガチャのハズレはもらってるしな。少し待ってて」
「それなら先に風呂入って来るね」
「おう――――――って! うちの風呂に入るのか!?」
「そうだよ?」
その時、隣の家から何かが倒れる大きな音が響いた。
隣人さん大丈夫か? 会った事はないけど。
「い、一応さ。男子がいる前で無防備に風呂に入っていいのか!?」
「? エムくんの前なんだから何か問題あるの?」
「それって俺を褒めてるのか貶しているのかよくわからないぞ」
「そもそも襲うなら――――先日眠ってた時に襲っているだろうし、今更だよ~」
そう言われればそうだけど……はあ、まあなるようになるか。
諦めて溜息をつきながらリビングで彼女用の料理を作る。
最近はあまり料理をしなくなったけど、誰かのための料理なら普通に作ったりする。
ガチャ産の調味料はガチャ袋に入れておけば劣化することがないので、賞味期限とか心配しなくてもいいのが素晴らしい。
色々な野菜からお肉などを取り出して野菜と肉の炒め物を作ったり、パックご飯をレンジに入れて作る。
風呂場からは水が流れる音が聞こえてきて、思わずにドキッとしてしまう。
いくら残念美女とはいえ、れっきとした美女であることは間違いない。まあ、あの見開いた充血した目は恐ろしいんだけど。
「シホヒメ~」
「あい~」
「料理はテーブルに置いておくから勝手に食べてくれ。あと部屋の中にシホヒメ用の布団も用意しておいたから。眠れないかも知れないが、リビングでうずくまるなよ」
「ありがと~」
「じゃあ、俺は寝るから。おやすみ」
「おやすみ~」
俺はそのまま部屋に戻り眠りについた。
そういえば、いつもよりも体が疲れているのか重い。リンを引いた時は酷かったけど、今日も中々に疲れが溜まってる。
そもそも今日はリンのおかげで魔物も簡単に倒しているのにどうしてこんなに疲れているのだろうか。
考え事をしていたらすぐに眠ってしまった。
◆
「うわあああああ!?」
「おはよう……」
眠れないのは分かるけど、目の下のクマがより酷くなって、笑顔までぎこちなく壊れかけの人形みたいな笑みで俺を見るシホヒメが怖すぎる。
「お、おはよう……今日も眠れなかったんだな」
「うん。私、あの枕がないともうダメかも知れない」
「今日は十連を回すから、予想通りに行けば、追加分はR確定かも知れないから」
「それだといいなぁ……」
数年間も眠れなくて、久しぶりに熟睡してからのまた不眠だから、よりしんどいのかも知れない。
早速ダンジョンに向かうために、簡単におにぎりを作って、それを食べてから部屋を出た。
少し歩いていくと、正面から見知った顔の女性が俺達に挨拶をしてくれる。
「おはようございます。綾瀬さん」
「おはよう。陸くん。そ、そちらは彼女さん……かしら?」
「いえ?」
「私。エムくんの女です」
「おい! 紛らわしい言い方やめろって!」
「や、やっぱり彼女…………り、陸くんだって男の子だもんね……うん……」
何故か肩を落とす綾瀬さん。
いつもは看護師の服装だけど、私服の彼女は少し新鮮だ。
「今日はお休みですか?」
「う、ううん。ちょっと忘れ物で家に戻ってるの。これから出勤するよ」
「そうですか。今日も妹をよろしくお願いします」
「うん。任せておいて!」
綾瀬さんと別れて俺達はダンジョンに向かう。
「あの女は?」
「妹がいる病院の看護師さん」
「妹さんがいるの?」
「ああ」
「そっか……ガチャ回してる理由ってそれなんだ?」
何も言ってないのによくわかったな。
「だから正直にいえば、俺は枕よりも薬が出て欲しい」
「それはダメ。でも薬も大事だから両方出そう」
「それはそうだな。まあ今日も頑張ろう」
そして、今日もダンジョンに辿り着いた。
◆
『シホヒメの本領発揮だなw』
『先日の美女は何処へ~』
『シホヒメちゃん~今日も可愛いよ~!』
シホヒメもすっかりレギュラー出演だな。コメントでも結構な数がシホヒメに声を届けている。
『リン様☆彡 リン様☆彡』
『リンちゃん頑張れ~』
『リン様。今日も奴隷をよろしくお願いします』
だから誰が奴隷だっての!
「今日は初めての十連を回すと思うので応援よろしく!」
『ハズレは引いて欲しいが、ぜひR枠は枕よろ~』
「引けるなら枕は引いてあげたいが、まあそれは運だからな」
今日も二時間の配信と共に狩りが始まった。
リンを投げつけるのも様になってきて、しっかり魔物を狙えるようになってきた。
実はリンを投げ失敗すると、魔物と直接戦う羽目になるので、常にコントロールを意識して投げている。
軽いし手にフィットしているのでそう難しくはないが、もうちょっと楽に飛ばしたいものだ。
今日のシホヒメは二層に向かわず、一緒に一層で狩りを続けている。
このままでも十連を回せられるし、どうやら眠くて魔石を拾うのもめんどくさいらしい。
リンを投げて魔物を倒しながら、シホヒメが倒した魔物の魔石も回収しながらどんどん狩りを継続して、遂に魔石ポイントが1,000を超えた。
『待ってました~!』
『初十連~! 枕以外はハズレでしょう~!』
さすがのコメントでも眠れないシホヒメは可哀想らしい。
目に見えて日々黒くなっているからな。
「ではこれから十連を回すぞ!」
『88888』
拍手のコメントが大量に流れる。
《10+1連を回す》
初めて1連以外のボタンを押す緊張感に胸が鳴る。
ゆっくりと手を伸ばして、ボタンを押した。
いつも通りに目の前には、地面から二メートル高い上空にガチャ筐体が現れる。
ただいつもと違うのは、今までの色が黒だった筐体に対して、今回現れたのは白い筐体だ。
『筐体の色が白だ!』
『Rって白じゃなかったっけ? やっぱり十連ってR確定なんじゃね?』
ゆっくりと時計回りにハンドルが回ると、ガチャ筐体の口からカプセルが出始めた。
黒、黒、黒、黒…………Nが十回落ちてくる。そして最後のボーナスの一つは――――狙い通り白いカプセルだった。
『白キタァァァァ!』
『十連は白確定っぽいな! もしかして百連はその上の確定だったりするのかな?』
そういやあまりにもポイントが高すぎて気にすらしなかったけど百連ボタンもあるんだったな。
それはともかく、今はハズレたカプセルよりも、最後に出てきた白色カプセルだ。
「枕……! お願い!」
白いカプセルの前で両膝を地面に付けて両手を合わせて祈るシホヒメ。目が強張っててめちゃ怖い。
ゆっくりと白いカプセルが開いて――――空中に眩しい光り輝くU字枕が現れた。
「キタああああああああ!」
『キタ~!』
『ハズレの当たりきたかw』
『良かったなシホヒメw』
枕が現れた瞬間にシホヒメが枕に向かって飛びついた。
あまりの一瞬の出来事に俺が反応できる間もなかったのだが、不思議とシホヒメが枕を貫通して抱きしめたはずの枕はないまま地面に転がった。
へえ……ガチャ産のものって俺が触る前には誰も触れない仕組みだったんだな……知らなかった。
ムクっと上がってシホヒメが絶望に染まった表情で枕を見つめると、幸せそうな笑みを浮かべてまた飛びついた。
『シホヒメが可哀想すぎるww』
『何やってんだ残念美女はww』
宙に浮いている枕に向かって飛びついて抱きしめるが、触れずに貫通して通り過ぎては地面に全身を叩きつける。
『痛そう……』
またムクっと起き上がると、枕に向かって飛びつこうとしたその時、俺の頭の上に乗っていたリンが飛びついて飛びつこうとするシホヒメの頭に頭突き(?)をした。
強烈な打撃音を響かせてその場に崩れるシホヒメと、シホヒメの頭の上に乗ってドヤ顔するリン。
『リン様☆彡』の無数の弾幕が流れたのは言うまでもなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます