第9話 突きつけられる確率の壁
「奈々ぁぁ、疲れたあああ」
「はいはい……よしよし…………」
リンが触手を二つ伸ばして、一つは妹のおでこに、もう一つは俺の頭を優しく撫でてくれる。
ふわふわした感触が優しく感じられる。
「あいつ……めちゃくちゃ怖い表情でさあああ」
「あいあい……大変だったね…………」
奈々の優しさに触れて癒される。いや、リンか。
暫く奈々との時間を過ごして家に帰っていった。
◆
時計が九時を回った頃、チャイムが勢いよく鳴った。
うわぁ……これ絶対にあの女だよな…………。
暫く放置しているとチャイムが聞こえなくなった。
そもそもこんな夜中に来るなんて非常識にも程があるだろ。明日にして欲しいものだ。
あわよくば、配信の種に…………。
その時、ぞわっと殺気を感じる。
ど、どこだ!?
と思った次の瞬間、ベランダからトントントンって扉を叩く音が聞こえてきた。
ほ、ホラーかよ!?
恐る恐るカーテンを開くと、ベランダに満面の笑みを浮かべたシホヒメがこちらを見つめていた。
「ひええええ!?」
「エムくん~ただいま~」
「ただいまじゃねぇだろ! 不法侵入だろ!」
「嫌だな~
誰が自分の家だ!
そのまましておく訳にもいかず、ベランダの扉を開いて彼女を中に入れる。
丁寧に靴を玄関口に置いてきたシホヒメはすぐに袋を前に取り出した。
「な、なあ、シホヒメ」
「うん?」
ずっと満面の笑顔のままでいる彼女が逆に怖い。
「一応念のために聞くけど、
「…………」
「わ、わかったよ。どれくらい取って来たんだよ――――ひええええ!?」
袋の中には黒色のビー玉の大きさの魔石が大量に入っていた。
「こんなに集められるなんて凄いな……もしかして数百個はあるんじゃ?」
「どうだろう? 多分五百個はあるんじゃないかな?」
「この短期間で……さすが上位探索者……」
彼女が強い才能を持っているのは明白で、上位探索者と呼ばれる存在だと思われる。
「ひとまず、全部回していいのか?」
「お願いします。枕以外は全ていらない。お願いします」
「本当にいらないのか? URでも?」
「熟睡できるもの以外は全部いらない」
「わかった。じゃあ――――入れる」
ガチャ画面を開いて、画面に向かって袋に入っている魔石を全部入れ込んだ。
《現在の魔石ポイント:4》からどんどん数字が上がっていき、やがて739で止まった。
魔石735個も集めたのかよ……すげぇな……俺が頑張っても一週間かかる量だな。
彼女は座布団の上に正座して、目を光らせて見つめていた。
「じゃ、じゃあ、回すからな?」
「お願いします!」
そして、初めて七回連続でガチャを回した。
当然、Rカプセルすら出ず、全部Nでハズレだった。
「わ、悪いな……」
「…………今から」
「ダメに決まってるだろ! 明日の配信のために俺は休む」
「じゃあ、私も一緒に寝る」
「やめろ! また誤解されるぞ!」
「…………私とエムくんの間柄でしょう?」
「まだ一日しか経ってないがな」
「酷い……私はもうエムくんのに夢中なのに……」
「ただのガチャが目当てだろ!」
「体でたくさん支払ったのに……」
「紛らわしい言い方すんな! はあ…………ひとまず、俺はもう寝るから勝手にしろ。布団は渡さないから」
「…………」
部屋の電気を消して、布団の中に潜り込んだ。
…………。
…………。
…………。
「そんなに見つめられると寝れないんだけど」
「いいの。私はエムくんの寝顔を堪能するから」
「そういう問題じゃないし、お前はガチャが目当てなだけだろ。てか、安眠枕は今日はもう無理なんだから家に帰れよ。明日も十時から配信やるから」
「…………」
彼女が部屋から出たのを確認して、俺は眠りについた。
色々精神的に疲れすぎて、すぐに眠ってしまった。
◆
次の日。
「うわああああああ!?」
「おはよう」
「な、何やってるんだ!?」
「うん? エムくんが起きるまで待ってた?」
部屋からリビングに出た俺を待っていたのは、リビングの端っこで体育座りして目の下に黒いクマができたシホヒメだった。
「てか、なんで帰らないんだよ」
「いなくなったら困る」
「いなくならねぇよ!」
「…………家に帰ってもどうせ寝れないから」
「っ…………はあ……とりあえず飯食べたら向かうぞ」
「!? うん!」
寝れないって余程辛いのか、それとも安眠を求めているのか、はたまた両方かは分からないけど、彼女も被害者の一人として俺が助けられる道があるなら助けられたらうれしい。
食事を終えて、配信前だけど狩りを始める。
彼女は倒しまくってくると、一層から二層に向かった。
俺も少し早いけど先に狩りを続ける。リンのおかげで魔物を倒すのに全然疲れない。
配信が始まるとすぐに『リン様』コールと、『残念美女』コールが流れる。
「シホヒメは二階で魔石を集めてくるって潜ってたぞ」
『昨日枕は出たのか?』
「いや、残念ながら出なかったぞ。七連じゃそう簡単には出ないな」
『あのエム氏がガチャをたくさん回せるようになったんだな~』
『女の尻に敷かれるタイプやん』
『あれ? その計算だと、一日十連回したってこと?』
「ん? 言われてみれば、そうだな?」
『それまとめて回したら10+1連できるんじゃ?』
ガチャは、魔石ポイント100で1連を回せるけど、魔石1,000ポイントで11連が回せられる。お得になっているのだ。
「……十連か。たしかに魅力的だな」
『なあ、エム氏。普通のガチャって、十連回したらボーナス1連はレアが出る仕組みとかあるぞ?』
「なにっ!?」
『ゲームならな~スキルは知らんが』
全くの初耳だ。
暫く狩りを続けてシホヒメが満面の笑顔でやってきた。
魔石を全部入れてみると、全部で469ポイントとなったので、十連までは半分も届いていない。
「十連はひとまず置いといて、今日の配信では四連引くわ」
『ハズレ~ハズレ~』
『応援が欲しくないか? ハズレはよう』
流れるコメントにシホヒメが睨みを利かせる。
「安眠枕。それ以外はいらない」
『たった一日なのにまたクマできてるじゃん。シホヒメちゃん』
「だって、眠れないから」
『エム氏~頑張って彼女に安眠枕引いてやれよ~』
俺に言われてもガチャだからランダムなんだぞ。そもそもRなんて、一年のうちに一回しか出たことがないのに、次でるのって何か月後だよ。
そして、配信で四連を回したが、相変わらず全部Nでハズレだった。
配信が終わり、がっかりするシホヒメに視聴者からの情報を伝える。
「シホヒメ。どうやらゲームでは十連を回してボーナス一連の部分はRが確定で出る仕組みがあるらしい。明日試してみない?」
「っ!?」
「昨日今日で分かったと思うけど、このままではいつRが出るか分からないけど、十連を回せば、Rが一つ確定なら枕の確率もぐっと上がると思うんだ」
「うんうん! そうする! 明日十連を回せるように、今日も集めてくるね?」
「おう。一応渡した合鍵は失くすなよ」
「あいっ!」
眠そうなのに、まだ頑張っているのか。多分昨日よりは数が少ないかも知れない。
彼女に協力はしたいが、奈々のことが一番優先なので、俺はダンジョンを後にして今日も奈々とリンに癒された。
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