第8話 初コラボ?

 次の日。


 やはり最悪のパターンだった。


 枕の効果はてきめんで、彼女は俺が帰ってもずっと熟睡していた。


 起きる気配がなかったのはいいが、俺の布団で眠ってしまって、俺は家にある座布団を布団にして眠りについたのだ。


「おはよう~!」


「お、おう……どなた様でしょう?」


「やだな~私だよ? シホヒメだよ?」


 眩しい。輝いている。超美女。もはや女優さんにもなったらいいんじゃないかな? と思えるくらい綺麗な人。


 そして、満面の笑顔。


 そんな綺麗な人が笑顔で俺を迎え入れてくれる。


 だが、俺は知っている。彼女の充血して見開いた怖い目を。


「はあ……まあいいや。よく眠ったみたいでよかったな」


「うん! もう何年ぶりなのか分からないくらい、本当に嬉しい! エムくん。ありがとうね!」


「おう。じゃあ、そろそろ帰ってくれるか? 今日も配信があるからな」


「えっ? 帰らないよ?」


「…………はああああ!?」


「だって私達はもう同じ夜を一緒に過ごした仲だよ?」


「いやいやいやいや! ま、待ってくれ。それには色々深い事情が」


「それともエムくんは一緒に一晩を同じ部屋で過ごした私を捨てる・・・んだ?」


 なぜ捨てるをそんなに強調する!?


「そもそも何もしてないだろ! お前がただ眠っていただけじゃん!」


「うふふ。もう私の事は、お・ま・えって呼んでいいよ」


「しまった!? いつもの癖で……そうじゃねええ! ひとまず――――」


 その時、隣の部屋から壁を強く叩く音が響いてくる。


 くっ……うるさくて悪かった…………安アパートだからな。


「はあ……あのな。俺はこれからガチャを引きにいかないといけないんだ。分かるか?」


「うんうん! 私のためにね!」


「…………はあ!?」


「私……もう……貴方のとりこなの」


 この子ってなんでこうも紛らわしい言い方をするんだ! と叫びそうになるのを冷静に我慢する。また隣人に怒られてしまうからな。


 もうなんかどうにでもなれ……支度していつものようにダンジョンに向かった。当然、付き人ありで。




 ◆




『美女キタァァァ!』

『エム氏。今日から応援なしな』


「待ってくれ! 誤解だ! 俺とシホヒメは何もない!」


「みなさん~初めまして~シホヒメです~エムくんの女です~」


「紛らわしい言い方すんなあああああ!」


『ギルティ』

『ギルティ』

『ギルティ』

『ギルティ』

『ギルティ』

『ギルティ』


 今までで一番コメント多いなおい。


 ふと視聴者数の画面を覗くと、《視聴者数:217》と書かれていた。


 うわあああ!? えっ? 視聴者数が……バグってる?


『リン様キタァァァ!』

『リン様可愛すぎる~!』

『おい。奴隷どれい。今日もリン様のために頑張ってくれ』


 誰が奴隷だ!


 それにしてもリンの人気が凄まじいな。もしかしてリンを目当てに?


『ブラックスライムちゃん可愛い~!』


 ん? いつもとは違う雰囲気のコメントが流れる。


『最近SNSで、すげぇ従魔だって噂が流れていたぞ~』


 ああ……そういうことだったのか。


 まぁそれで興味持ってくれて応援者数が増えてくれれば万々歳だ。


「ひとまず、今日もガチャを回していくよ。シホヒメは気にしないでくれ」


「うふふ~冷たいエムくんも好き♡」


「なんで配信になるとそうなるんだよ!」


「えへへ~」


「褒めてねぇよ!」


『美女と……野獣?』

『どちらかというと、美女と盗賊だろ』

『美女と盗賊www大草原すぎるwww』

『なんかいつものエム氏らしいな。色気一つ感じない安心感ww』


 本当にシホヒメとは何もないからな! それでお前らが納得するならいいけどさ!


『それにしてもシホヒメって今日はなんだかツヤツヤしてないか?』


「あら~昨晩は……熱かったから」


『今すぐチャンネル登録を解消する』


「ふざけんなああああ! シホヒメとは本当に何もしてないから! ちゃ、ちゃんと説明するから!」


 せっかくの配信が始まったのに、すぐにシホヒメとのことで十分間説明を行った。


『な~んだ~そんなことだよw』

『さすがエム氏wまさか美女と二人っきりで手を出さないなんてw』

『意外と紳士じゃねぇか』

『いや、わからないだろ。手出してるかも知れないじゃん』

『え? エム氏が手を出す? ありえないだろう。だって俺達……一年以上M氏を見てきたんだぞ?』

『違いね~』


 お前ら…………めちゃ貶されてるけど、凄く嬉しいぞ。Mではないがな。


「てなことだからな! チャンネル登録解除すんなよ! そもそも俺は女とかどうでもいいんだよ。ガチャを回したいだけだ」


「え~シホヒメも?」


「おい。シホヒメ。このままだとガチャを回せなくて枕が出る確率が落ちるぞ?」


「それはいけない。さっさといこう。リスナーも黙ってて」


 切り替えはやっ!


 ひとまず、シホヒメと狩りに出かけた。


 彼女は魔法使いらしく、遠距離から魔法で魔物を倒しては魔石を大事そうに持ってきてくれた。


 俺はダークラビットにリンを投げ込んで、いつものウニ爆弾作戦で倒していった。


 どうやらリンの愛くるしい姿からウニ爆弾になるのが癖になったらしく、新しく増えた視聴者が発狂していた。


 そんな中、不思議とシホヒメの人気は高くない。まあ、元々俺のチャンネルなのだから当然だろうけどな。


 彼女が笑顔で魔石を持ってくると決まって『リア充爆発しろ』と弾幕が流れる。


 その日はたっぷりと二時間近く狩りを行った。いつもなら百個集めたら終わるが、今日はシホヒメとリンのおかげでいつもよりもたくさん集めることができた。


「さて、今日は人生初の、一日三連を回そうと思う」


 『8888888』と弾幕が流れる。


 シホヒメもキラキラした視線でこちらを見守っていた。


「では一連目――――――野菜ジュース……」


『野菜ジュース久しぶりじゃんw当たりおめでとう~』


 確かに野菜ジュースは久しぶりだ。いつも果物のジュースとかだからな。


「二連目は――――――サツマイモ一本かよ!」


 蒸したら美味いけど、そうじゃない!


「三連目は――――――白菜…………」


 白菜が現れた瞬間、見守っていた金髪美女シホヒメがその場で崩れて絶望した表情を浮かべた。


『残念美女乙~!』

『明日に期待するよ~!』

『エム氏。頑張れ~!』


 そうしてシホヒメとの初コラボ(?)配信は終わりを迎えた。


「ねえ。エムくん」


「うん?」


「魔石さえあれば、ガチャ回してくれるんでしょう?」


「お、おう。でも俺も体調とかあるから、配信が終わる時だけだがな」


「いつも何時に寝るの?」


「…………十時」


「わかった」


 わかったじゃねええええ! めちゃ怖いんだけど!?


 シホヒメの怒りに染まった目から恐怖を感じずにはいられなかった。





――――【後書き】――――


 ここまで『底辺探索者は今日も配信でガチャを回す~苦労して引いたURブラックスライムですが、どうやら怠惰スライムだったらしくて動いてくれません。ですが何故かバズりました~』を読んで頂きありがとうございます!


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