第7話 シホヒメの目的
放置するわけにもいかず、家に連れて来てしまった…………しかもおかげでまた奈々に会いにいけなかった。
まあ、まだ時間はあるからシホヒメが目を覚ましたら向かうとするか。
それにしても、美女なのは間違いないな。整った顔、綺麗でサラサラした髪、程よい肉付きの体…………間違わないように言っておくと決して触りたくて触ったんじゃねぇ! ここまで運んでくるために仕方がなかったんだ!
…………はあ。最近配信慣れすぎて俺は誰に向かって言い訳しているんだ。
その時、全身がビクッと波を打った彼女は、まるで機械のように起き上がる。
「よ、よお……頭は痛くないか?」
「ここは…………っ!? エムく――」
「待った。落ち着け。俺は逃げない。まずちゃんと話せ。じゃないと叩き出す。警察呼ぶからな」
どちらかというと、警察呼んだら俺が捕まりそうだが。
「…………ごめんなさい」
「まず、事情を話してくれ。あれを譲ってくれって一体あれってなんだ?」
「!?」
【あれ】を話すと目が大きく見開く。――――いや、だから、それ怖いって。
「落ち着け。ゆっくり話してくれていいから」
「う、うん……ごめんなさい……」
ガチャ袋からリンゴジュースを取り出して彼女の前に出す。中に入れたガチャ産食材は劣化することなく、まるでいま作ったかのような鮮度を誇る。
俺もオレンジジュースを取り出して、先に飲んで安全であることを伝える。
彼女も手を伸ばしてリンゴジュースをひと口飲んだ。
「実は……私ってずっと昔から不眠症だったの」
「不眠症?」
彼女はコクリと首を縦に振る。
「ダンジョンが現れてからずっと不眠症で、全然眠れないの。さっき見ていて分かったと思うけど、寝ていてもすぐに全身がロボットみたいに起き上がってしまって、いつも起こされてしまうの。だから熟睡なんてしたのはもう何年も前になるわね……」
ふと、奈々の事が被って見えた。
奈々もダンジョンが生まれた日からああなってしまった。彼女もダンジョンが生まれた日の被害者の一人だったんだな。
「じゃあ、学校でずっとボーっとしていたのは……」
「うん。ずっと寝不足で、周りが何言っているのかよくわからなかった。その時、とある人にダンジョンに潜れば、呪いを解く装備品が手に入るかもと言われて、それからずっと探索者になるために頑張ってきたんだ。でも全然見つからなくて…………そこでエムくんの配信をずっと見ていたんだ」
「え!? 俺の!?」
「たまたまだったけど、【ガチャ配信】を見かけて、説明欄にスキル【ガチャ】を使いますって……。だからもしかしたらエムくんがいつか呪いを解く装備品を引かないか、ずっと――――――」
彼女の口角がにやりと上がる。
「見張ってたの」
怖い怖い怖い! 目がマジなんだよな!?
「それで、昨日引いた枕が……絶大安眠効果だって言ったよね? もしかしたらそれで私は救われるかも知れないの! だからお願い! 何でもするから、それを私に使わせて欲しいの! 私は貴方のが欲しいの!」
「最後の紛らわしい言い方すんな! それならそうとちゃんと言えよな。別に俺にとってはハズレだからいいよ。それにもしかしてずっと俺の応援をしてくれたんじゃないか?」
「大した額じゃないけど、諦めずにガチャを引いて欲しかったから」
まさか毎日応援してくれた人の一人に直接出会うとはな。
配信探索者で顔を出さない人もいるけど、俺はあまり気にしていない。こっちの方が親近感が湧くと思ったからだ。
それに広い日本で俺をピンポイントで見つけられたらそれは逆に凄い。
「まあ、それは分かった。枕はやるが、一応言っておくが一回しか使えない使い捨てタイプだからな?」
「うん! うん! それでもいいです! はい!」
可愛い顔が台無しだよ……残念美女と言われても仕方ないなほんとう。
ガチャ袋から枕を取り出す。すぐに彼女の充血した目が見開いた。
もう怖いという感情より、なんか不思議な安心感を覚えるぞ。
「これあげるからもう帰れよ。俺は妹に――――って! おい! ここで寝――――」
シホヒメは枕を貰った瞬間にその場で大の字になって枕に頭を付けた。
まさかの早業。枕に頭を付けるまで流れ作業のように一秒もかからなかった彼女の速さは凄まじい執念を感じる。
まあ、数年も熟睡できなかったからそりゃこうなるか。
それにしても眠っている姿は可愛すぎるくらいだ。
やっぱり人って目の印象って大きいよな。あの充血の開いた目の時は怖かったのにな。
ひとまず気まずいのと、妹にまた怒られてしまうから彼女を眠らせたまま病院に向かった。
はあ……いつ起きるんだろう……俺の布団大丈夫かな?
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