第6話 乱入者
次の日。
今日もガチャと配信のために通っているダンジョン――――漆黒ダンジョンの入口にやってきた。
ダンジョンというのは日本中に無数にできて、今ではダンジョンを中心に町が栄えたりするのだが、数が多くて廃れてしまうダンジョンも中にはある。
その代表格なのが
一層はダークラビットしか出現せず、二層はダークウルフ、三層はダークゴブリンと探索者にとっては初心者御用達のダンジョンとなっている。
俺は未だ一層だけどな。
「さて、リン。今日からよろしく頼む」
「あい……」
俺は新たな希望を抱いて一層に入る。
相変わらず人もいなくて、ダークラビットの姿が見える。
早速配信が始まった。
『投擲マスター頑張れ~!』
『今日はどんなハズレを引くのか楽しみだぜ~』
『新しい武器を手に入れたんだから、今日こそ二連期待☆』
そう言われてみると、今まではダークラビットと対峙して精神的肉体的に疲れて百体で限界だった。
でも今はリンがいる。
「行け! リン!」
ダークラビットに向かってリンを投げるとウニのように棘を出してダークラビットを倒してくれた。
『ブラックスライムつえ~!』
『ブラックスライムに名前付けたん?』
「そういや紹介がまだだったな――――」
俺はリンを両手に抱えてカメラに向かう。そして――――跪いた。
「こちらは『リン様』である~!」
『いや、さっき思いっきり、行け! リン! って言ってたよな』
『リン様☆彡 リン様☆彡』
『リン様可愛すぎ~! ぽよんぽよんして柔らかそうだな』
『感触はおっ〇いみたいなもんか?』
「知るか! 触ったことないわ!」
『童〇告白キタァァァ!』
「来てねぇ! それより、今日も頑張って魔石を集めるぜ。そういや、昨日お前らから貰えた応援ポイントが遂に百を超えたぜ。ありがとうよ!」
『おうおう。ハズレ引いたら応援考えてやる~』
「当たり引いても応援してくれよ!」
『メシマズ撲滅~メシウマ配信はよう~』
くっ……こいつら……どいつもこいつも…………。
それはともかく、配信時間がもったいないので、リンと共にダークラビットを倒し続けた。
数十匹倒した頃、時間はずっと短縮できてるし、疲れも全然少ない。昨日の疲れが嘘のようだ。
その時だった。
とある影が俺の前を塞いだ。
『美少女キタァァァァ!』
と凄まじい数の弾幕が流れる。
俺の前を塞いだのは、他でもない同級生だった如月志保だった。
相変わらず目の下のクマが凄いけど、赤く充血した両目がめちゃくちゃ怖い。美少女が台無しもいいところだ。
『いや、目の下のクマすげぇな~』
『金髪美女だと思ったら魔女か?』
『魔女にしては可愛すぎるだろ』
『ふっ。童〇は女なら全員可愛いとか言うんだろ?』
『何を!? 普通に可愛いじゃねぇか!』
なんかコメントで喧嘩が始まったぞ? そんなことよりも今は目の前の彼女だ。
「えっと、久しぶり? 今日は俺に何か用か?」
彼女はふらふらした足つきでゆっくりと俺に向かって近づいてきた。
怖っ!? 可愛いのに目が充血していて目の下が凄まじく真っ黒いクマで、めちゃくちゃ怖いぞ!?
「エムくん……久しぶり……」
「ひい!? お、おう! えっと、なんて呼べばいいんだ?」
実は探索者が配信を行う時は、実名は絶対に出さないようにしている。全員がペンネームを名乗っているのだ。俺が【エム】と名乗っているように。
「シホヒメだよ……」
うわぁ……自分で姫って言っちゃったよ……。
「あいつが勝手に付けたけど、もうめんどくさいからそれはいい…………ねえ、エムくん」
「お、おう。どうしたんだシホヒメ」
『シホヒメ様~! ファンになりました!!』
『金髪残念美女降臨☆彡』
残念美女と言うな!
次の瞬間、彼女は目にも止まらぬ速さで――――
「お願い! 私に
「う、うわああああ!」
土下座する勢いで飛んできた彼女は俺のズボンを両手で掴み、凄まじい目力で見上げながら何かを嘆願してきた。
「あれってなんだよ!」
「お願い! 私にはあれがないと、もう生きていけないの!」
『あれってもしかして……』
『ざわ……ざわ……』
「お、おい! 紛らわしい言い方すんな! そもそも俺とお前では何の関係もないだろ!」
「酷いっ! 私……あれのためなら何でもするわ! 体が欲しいなら体で支払ってもいい! お願い! あれを私に譲って! お願いいいいいい!」
『体!?!?』
『童〇くん遂に卒業か!?』
「や、やめろおおおお! あれが何かも分からないし、体もいらねええええ! 俺はガチャを回さないといけないんだから邪魔すんなあああああ!」
「お願いいいいい! あれを! あれをおおおおお!」
「怖えええええ! 一体あれってなんだよ! あれが何か分からないかr――――」
俺の頭の上に乗っていたリンが、飛び降りてシホヒメの頭に直撃し――――鈍い音を響かせた。
『うわぁ……痛そう…………』
『人の頭ってあんな音するんだな……』
『シホヒメが可哀想すぎる……エム氏……なんて罪深い男……』
「ちげぇよ! そもそもあれってなんだよあれって!」
リンの頭突き(?)によってその場で気絶したシホヒメをどうすることもできず、リンをその場に護衛として残して、俺はまたダークラビットを狩りに出た。
こんなことで邪魔されてたまるか……!
『女子を放置していくなんて悪魔か!』
『いや、むしろ襲わないんだから紳士じゃねぇ?』
『エム氏が襲えるはずもないし、そもそもいま配信中だし』
『そういや配信中だったな。毎日見てるから忘れていたわ』
忘れるなよ!
「そもそも俺はガチャを引かなきゃいけないんだ! だから今日もガチャのために魔石を取る!」
『ガチャ廃人乙~!』
『それでこそ我らのエム氏だぞ~』
そして、残り数十匹を元のスタイルで倒してリンのところに戻ってきた。
どうやら誰も通りかかっていないようで、まだ倒れたままだった。
配信が終わる直前だったので、急いでガチャを回す。
「ちくしょ!」
目の前に現れたスリッパ片側のみを投げつけた。
『今日もハズレ乙~』
『彼女に変なことするなよ~』
『おい。おっ〇いとか触るんじゃないぞ?』
お前ら…………俺がそんなことできるはずないやん。
そして配信が終わった。
前回は偶然にも応援が百を超えたけど、今日は40しか貰えなかった。
まぁ毎日もらえるほど配信は生易しいものではないし、彼らだって投げ銭なんだから限界があるだろうからな。
それよりも……この女をどうしたらいいものか…………。
気持ちよさそうに気絶しているシホヒメをどうするべきか悩んだ。
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