季節を今
みちづきシモン
暖かさ
穏やかな天気。それを示す言葉は意外と多くあると思う。ここでそれをあげる必要は無い。とりあえず言えることは、僕は晴れた日が好きだという事。
十二月、それは冬の季節。だが、この日本では本格的な寒さがやってくるのは一月や二月だ。
十二月のこの季節は勿論寒いは寒い。だが、天気の良い日、ゆらりと歩いてみて欲しい。
七月や八月とは違う、少しほっこりするような感覚。寒さを感じつつ、陽光のポカポカとした暖かさを感じる小春日和。
自動販売機のブラックコーヒーを選択し、ガコンという音と共に、缶コーヒーを取り出す。
時代と共に、缶が小さくなってる気がするのは気のせいだろうか? 値段は変わらないのにな。いや、もっと昔ならもっと違っただろう。時代の変化と共に一服する時の気持ちも変化するだろうか?
一気にコーヒーを飲み干し再び歩き出す。太陽の光が気持ちいい。今日は日曜日、僕は休みだ。休暇をウォーキングで軽く運動する僕からしたら、良い天気というもの程素敵なものはない。曇っていたり、雨なんか降っていたら、ただでさえ低い気温の数字が小さくなっていく。
小春日和の今日、この陽気な天気は僕にはピッタリだ。
信号が赤で立ち止まり、ふぅっと息を吐く。爽やかな風が駆け抜ける。隣の緑が見える奥には公園があり、元気な声が聞こえる。
今は騒音やボールの危険などで、遊べる公園が少ない。そんな中で、あまり禁止されてるものがない公園。子供の声が騒音に聞こえる人もいるだろうが、元気な声は僕にも元気をくれる。何故なら、その日が走り回るほどいい天気なことの証明にさえなりそうな感じがするからだ。
前を自転車が走っていく。どうやら気づかぬ間に青信号になっていたらしい。再び歩む。
強風であれば困ったものだが、今日は本当にまるで春のような穏やかな日だ。ここ最近では珍しくもある。
天気が荒れることが多い気がする。そんな中でのゆったりとした素敵な天気。
こういう日が休みと重なると、非常に助かる。毎日の仕事に疲れ穏やかな休日を過ごしたい時に荒れた天気だと気が滅入るのだ。
とはいえ、天候は操れない。スーパーマンなら天候すらも変えられたかもしれないが、一市民の僕には天候は変えられない。せいぜいスマホで雨雲レーダーを観測し、雨に濡れないように対策を練るくらいだ。
道は基本的に真っ直ぐか、せいぜい直角に曲がる程度。整備された道というものはそんなものだ。ぐねぐね曲がり道なんてなかなかない。ここは都会ではないが、田舎でもない。歩行者道路はきちんと整備されており、暴走車なんかが来なければ安全だ。
雨や雪の日に暴走する車はあるかもしれない。荒れた天気なら事故もあるだろう。
だが今日は違う。晴れやかなこの空間に事故なんて似合わない。真夏なら熱中症で倒れてる人がいたかもしれない。だが暑いわけでもなく、気持ちのいい気温の今、それもない。
時間も空間も穏やかに流れている。誰も邪魔することなく、何も邪魔するものがなく、ゆっくりと時が流れていく。十二月という月は師走と言われ、誰も彼もが慌ただしく動く季節だ。だが、休日くらいはいいだろう? 今この時くらい、穏やかな日の光を浴びていたい。
世界は今この時も動いている。あの国ではああなった、こうなった。今いるこの国では与党がどうの、野党がこうの、そんな話題できっとネットは盛り上がっているだろう。そんな世からも離れ、ただ歩く。日光を浴びてこの小春日和を楽しむ。
「ああ……、春が待ち遠しい」
小春日和ではなく、本当の桜咲く春が待ち遠しい。何故なら明日にはまた気温が下がりそうな雰囲気を醸し出しているからだ。これからもっともっと空気が冷たくなっていく。そんな中でも生きていかなくてはいけない。だからこそ、早く暖かくなってほしい。
家に着き、上着を脱ぐ。窓辺の椅子に座ると、太陽の光で暖かい。少し日の傾く時間、ゆるりと船を漕ぐ……。
……少しの間眠ってしまった。いや、まぁ狙ってやったと思う。それだけ気持ちのいい陽射しだったのだから。ふと明日の天気予報が気になってスマホをチェックする。どうやらやはり気温が下がり曇りのようだ。雨ではないため出勤に傘はいらないだろう。
念の為来週の日曜日の天気予報も見てみる。今のところ晴れで気温は少し回復するようだ。これは来週の休みも気持ちよく過ごせそうだ。
電話をかける、友達へ。
「もしもし? あのさ……、来週空いてる?」
相手は空いていると答えてくれた。カフェでデートする予定が決まる。お昼のランチの時間。
気分陽気に鼻歌交じりに晩御飯を作る。来週も今日のように素敵な日になるといいな。
出来上がったオムライスを皿にのせて頬張る。これで明日からの仕事も頑張れる。
一週間が経つのは早いような遅いような。待ち遠しく、なかなか休みはやってこない。
それでも確実にやってくる。今日がその時だ。約束の一時間前に軽い荷物を持って家を出た。一番近い駅のカフェまで歩いて一時間はかからないくらいだ。
歩いていると眩しくて思わず目を瞑る。どんな季節でも太陽の光は眩しい。
「今日もいい天気」
僕はそう呟き、歩を進める。するとあの公園の傍で、コンとボールが足に当たった。
「すみませーん!」
謝ってくる少年に、サッカーボールを拾い渡す。少年の笑顔に、こちらも笑顔で返す。
やがて駅に着き、待ち合わせの時間の少し前に来れたことを確認する。少しして遅れてきた彼女に手を振り、カフェに入り話をした。他愛のない話、仕事の話。楽しそうに笑う彼女にも今日という日を感じて欲しくて、歩いて話さないか? という提案をしてみた。戸惑う彼女に、今日がいい天気だからと説明すると納得してくれた。
コーヒーとケーキを食した後、外に出て近くの大きな公園まで歩いてみる。話しながら歩くと、彼女の顔が一層輝いて見えた。
寒い季節の中のほんの少し暖かな空気がピッタリと肌に合う。それを彼女も感じているようだった。二人で公園に着いたあと、ベンチに腰掛けて伸びをするとお互いに笑いあえた。
カフェにいるのとは違う、外の空気。新鮮な、それでいてほだされる空気を存分に吸い、少しの間お喋りをした。そして、日が暮れる頃帰路に着いた。
夕暮れの赤を見ていると穏やかな時間も過ぎ去るのを感じる。
ああ……、春が待ち遠しい。春よ来い、早く来い。
これから冬の寒い時期がやってくる。十二月が終わればより一層寒くなってくるだろう。暖かさとは無縁の季節がやってくる。
春を待ち望みながら僕は、今日のこの小春日和を楽しみ、明日からの仕事の支度を始めようと思った。
───────
三月終わり、四月。桜が咲く季節がくる。待ち望んだ春がやってくる。去年の冬、感じた太陽の光を今感じている。また新たな季節に向けて、僕や世界は回っていくだろう。
暖かい気候を表す言葉は本当に沢山あると思う。秋晴れも中々いい。だが、冬のあの温もり、小春日和もまた素敵なんだ。なんとも言えない気持ちになる。あえて言葉にするなら、ふわっと小さく風船が少しずつ膨らんでいく、そんな感じ。
風に晒されればすぐ飛んでいってしまいそうな感覚だからこそ、大切にしたい。そう思えるのだ。
今を大切にしながら、あの頃の感覚を思い出しつつ、また歩んで行こうと思う。
季節を今 みちづきシモン @simon1987
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