第3話 誘拐

 藤田刑事と私は恵子さんのアパートを張り込んだ。もしかしたら山中が現れるかもしれない。美緒ちゃんに会いに・・・。そうなれば彼女の前で山中を逮捕しなければならない。それを考えると気が重かった。

 そんな時、美緒ちゃんが外に出てきた。あのお気に入りのうさぎのぬいぐるみと一緒にだ。一人でお留守番しているのに飽きたのだろうか、アパートの階段を下りて、楽しそうに歩いていく。近所の公園にでも遊びに行くのかもしれない。

 私は藤田刑事に合図して彼女の後をそっとつけた。声をかけようかと思ったが、


(もしかしたら山中に会う可能性もある。このまま様子を見よう。)


 と考え直して少し距離を取って彼女を見守った。ところが途中、彼女から目を離してしまったのだ。

 美緒ちゃんの後をつける私の目の前で、歩いてきた一人のおじいさんが転んで倒れてしまった。そのおじいさんは「いたた・・」と腰を痛そうに押さえている。私はすぐにそばに寄って助け起こした。


「大丈夫ですか?」

「ありがとう。年を取ると足腰が弱っていかんの。」

「立ち上がれますか?」


 私はそのおじいさんが立ち上がるのを支えた。けがもないようで歩けていた。


「ありがとう。もう大丈夫だよ。」

「気をつけてね。」


 私は笑顔でそのおじいさんを見送った。その時、「キューン!」と車が急発進する音が聞こえた。


(まさか!)


 私は美緒ちゃんが行った方向に走った。だがそこには彼女の姿はなかった。ただ道路の端にうさぎのぬいぐるみが落ちていた。私はそのぬいぐるみを拾いあげた。確かに美緒ちゃんのものだ。それから辺りを探し回ったがやはり彼女の姿はない。私が目を離した隙に、美緒ちゃんは何者かに拉致されてしまったのだ。ぬいぐるみはその時に落としたのだろう。


「誰がこんなことを・・・」


 うさぎのぬいぐるみはさびしそうな顔でこっちを見ていた。私は何の罪もない幼い少女を連れ去った者に怒りを覚え、思わずぬいぐるみを握りしめていた。その時、私はそのぬいぐるみに違和感を覚えた。


「ん?」


 ぬいぐるみの中に何か小さな硬いものが触れたのだ。ぬいぐるみをひっくり返してよく見ると縫い直された跡があった。


(何かが入っている・・・。美緒ちゃん、ごめんね。)


 あたしは美緒ちゃんに謝りながら、その背中を開いた。すると中にビニールに包まれた小さなUSBメモリが入っていた。


(これは一体、なに?)

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