第18話 魔女
同日夕方。夜の藍色がオレンジに溶け込み始めた空の下。路上で3公演を終えたルウシェとメルル。ルウシェは公園のベンチにぐったりと腰かけて水筒の水を飲んでいた。
「一日3公演に加えて調査もするってのはさすがに疲れるねぇ」
「ボクはほとんど疲れを感じませんからまだまだいけますよ」
「ありがたいけど気持ちだけもらっておくよ。メルルが行くとその姿を見慣れていないせいか、ほとんどの人がちゃんと話を聞いてくれないんだよね」
「うぅ、お役に立てずに申し訳ないのです」
「気にしなくていいんだよ。それに結構情報も集まったじゃないか」
「ですねー」
「……この都市の闇。思った以上に根深そうだ。一旦宿に戻ろう。今日の話を報告しないとね」
二人は後片付けを終えると足早に宿へと向かった。駅前の商業エリアを抜けると急に視界から人がいなくなり、閑散とした住宅街が姿を現す。
住宅街を抜けて細い川に架かった橋を越えると宿がある。しかし、橋の手前で二人は立ち止まることに。目深に
集団の中から、ひと際派手な瑠璃色の
「……なんだい、キミたちは?」
「女。随分色々と嗅ぎ回っているようだな」
「なんのことかな?」
「とぼけるな! いいか、これは警告ではない。最終通告だ。これ以上怪しい行動を取るようであればその命の保証はできぬぞ」
「初対面でそんな物騒なこと言われたのは初めてだよ。でも、アタシはじっとしていられない
「……やれ」
先頭の男の命令を受け、
「メルル!」
「はいです!」
すぐにルウシェは口にウォッカを含むと、指をパチンと鳴らす。その合図とともにメルルは肉眼で見えるかどうかの小さな火の玉をルウシェの前に飛ばした。
タイミングを見計らってルウシェが全力で口内のウォッカを吐き出すと、ボワッと音を立てて大きな炎が発生。炎は数人の男たちの
「なんだこの女はァ!? 魔法使い? いや、妖術使いか!?」
「へへー、今度はこんなもんじゃ済まないよ。手を引くのはアンタたちだ。じゃあねー」
「待てぇ! この魔女め!」
全力で走り去り、橋を渡っていくルウシェとメルル。
*
「おい、どうして何の相談もなく宿を変えた? ギルドの宿屋なんて高いだろうに」
バイトを終えたミロンがギルドの宿屋に戻ってきたのは夜の11時過ぎ。ソファでうとうとしていたルウシェはその声で現実に戻る。
「んん~。あぁ、ちょっとストーカーみたいなのに絡まれちゃってね。あそこにいたままだと危なそうだったから」
「なに!? それで大丈夫だったのか? 怪我は?」
「とりあえず無事だよ。それよりもキミの方は何か情報を掴めたかい?」
「いや……俺なりに聞いてみたのだが特には……」
ミロンは上着をハンガーにかけながら歯切れの悪い言葉を並べた。
「……ふ~ん、そっか。まぁいいよ。こっちは結構色々聞けたからキミにも報告しておくね」
ルウシェはミロンに集めた情報を伝えた。
「この都市では最近急激にマルチの会員が増えてきているんだって。その理由まではわからなかったけど、どうやらカルト教団が裏で動いているということまでは見えてきた。だから明日からカルト教団についてもう少し調べてみようと思うんだ」
「カルト教団?」
「そう。キミは何か聞かなかった?」
「……いや、そんなことは一言も」
「ん?」
「いや、何でもない」
ミロンの顔色は優れなかった。そのうち口に手を当ててトイレに駆け込む始末。すぐに嘔吐を繰り返す苦し気な声が聞こえてきたのだった。
「そんな無理しなくていいのに。ウソが大嫌いな元王子……か」
疲れ切っていたのか、ルウシェはミロンを待っている間に眠りに落ちてしまった。戻ってきたミロンはソファで横になっているルウシェに気づくと両手で抱え、ベッドに寝かせて上掛けをそっとかける。
「おやすみ。あんまり無茶をしてくれるなよ……」
ミロンは部屋の明かりを消すとソファにゴロンと横になる。
明日はウソをつかなくてもいい日になることを願いながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます