第4話 そんな役が揃う訳が無いんだよ!
「その豪運と勝負度胸たるや見事なものですな。ぜひ貴方のお名前を聞かせていただきたいのですが」
ディーラーがカードをシャッフルしている最中、リーゼントは少女に声を掛けた。
「アタシはルウシェだよ」
「ルウシェさま……ですか。ワタクシは……」
「知ってる。髭男色の
「ほぅ」
ディーニョと呼ばれた男は顎ヒゲを触りながらルウシェを品定めするかのようにじっとりと見つめた。手元に二枚のカードが配られるとディーニョはそれを手にしてルウシェに言う。
「どんな手を使ったのかは知りませんが、この状況でイカサマはできませんよ」
「イカサマねぇ。そっちがそれを言うんだ」
「何ですって?」
「べっつにぃ」
ディーニョはディーラーに目配せすると、ディーラーは右手で髪をかき上げた。ルウシェは視線だけを動かし、その様子を伺う。
一度目の
「おや、どうしました? さっきまでの勢いは無くなってしまいましたか」
ディーニョが言ったタイミングに合わせるように、ディーラーが軽快にカードを配る。
「うん、よし。今回は勝負できそうだよ」
「そうこなければ」
ディーニョはニヤリと口角を持ち上げると、ディーラーに再び目配せした。両者そのままフロップ、ターン、リバーと互いの様子を伺いながらチェックを繰り返す。ディーラーが5枚目のカードを開いたのを確認すると、最後のベットラウンドへ。
「
ルウシェの突然のコールにギャラリーから大きな歓声が上がった。
「おい、あの額っていくらになるんだよ」
「わかんねぇけど、ヤバいんじゃね? あんな色のチップなんて見たことねぇし」
「下手したら5億ゼニーとか」
横で興奮気味の若者二人の会話にミロンは思わず反応した。
「5億!? バカな。こんな一度のギャンブルで、そんな一生遊んで暮らせる金額を賭けていると言うのか?」
「あ、あぁ。髭男色が運営している賭場は賭け額の上限なしだからな。だが、もし髭男色の頭のあのリーゼントが負けるようなことがあったら、ただじゃ済まないと思うぜ」
「ただじゃ済まないって……?」
ミロンが尋ねようとしたところで、ディーニョの声がそれを遮った。
「ククク……受けて立ちましょう。コールです」
ディーニョはルウシェの
これで合計10億ゼニーの勝負が成立。その場にいる誰もが固唾を飲んで見守っている。
『ショーダウン』
ディーラーの掛け声とともにディーニョがカードを場にオープン。
「フォーカードです」
「「「「うぉぉぉ!!」」」」
場が歓声に包まれる。全てのカードが開かれた最終局面である〈リバー〉までに役が揃う確率はおよそ0.16%。1000回に1~2回揃うかどうかと言う非常に強力な役。
「さっすがぁ。イカサマしている店はここぞと言う場面で凄い役が揃うもんだねぇ」
「なっ! 勝負に負けたからと言って、つまらない言いがかりはやめてくれませんか――」
「ほいっ」
ディーニョの言葉を遮るように、ルウシェは場に手持ちのカードをひらひらと返した。
「ロイヤルストレートフラッシュ」
「ななななな、なんだとぉーーーッ!!?」
最終局面であるリバーまでに役が揃う確率はおよそ0.0032%。約30,000回に1回の割合で揃うかどうかのポーカー最強の役。
「バカなバカなバカな!! あり得ない! そんな役が揃う訳が無いんだよ! こんな勝負は無効だ!」
「えーっ? なんで揃う訳が無いの? この店がイカサマしているから?」
「~ッ! あぁ、そうだ! だから揃う訳なんてないんだよ!」
「あー、とうとうオーナー自らが白状しちゃったね。でも、勝負は勝負。10億ゼニーはいただいていくからね。お金ちょうだい♡」
「ふざけるな! お前ら、この女を生きて返すなよ! この場にいる客も全員人質だ! 部屋から出ようとしたら斬り捨てろ!」
ディーニョの指示で髭男色の屈強な男たちは腰から剣を抜いてルウシェの眼前に切っ先を突き出した。
客たちも髭男色のあまりの迫力に動くことができず、両手を挙げて服従の意を示していた。一人を除いては。
「キミ、出番だよ。コイツら、イカサマでお客さんから金を巻き上げては闇金で借金させまくっているどうしようもないクズなんだ」
「あぁ、言われなくてもわかっている! 俺はこういうヤツらが大嫌いだからな。喜んで助太刀させてもらう!」
「キャー! 頼もしいー!」
鼻先に剣を突きつけられている状況で言うセリフとは思えない。ピョンピョン跳ねながらミロンを応援するルウシェに苛立った髭男色の男は剣を振りかざし、その首を
「うらぁぁっ!」
ミロンが飛び込んできて、その剣をはじいた。【キィン】と金属音が響き、屈強な男がたたらを踏んで後退する。ミロンはその隙を見逃さず、一太刀で男を斬り捨てた。
大部屋内での大立ち回りはその後も続くが、ミロンは男たちを寄せ付けない。鮮やかな剣捌きで次々と髭男色の男たちを斬っていく。その場にいる誰もがレベルが違うと思えるほどの差があった。
「そこまでです!」
髭男色の配下の最後の一人に剣を振り下ろそうとした時、ミロンの背後から声が聞こえた。反射的に振り向くと、視界にはルウシェを人質に取り、その首にナイフをつきつけたディーニョの姿が。
サングラスをゆっくりと外して露わになったその目は、まさに狂人のそれであった。
白目に血管が浮き上がり、今にも人を殺しかねない。見た者すべてにそう思わせるだけの狂気をたっぷりと孕んでいた。
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