第2話 アタシのいやらしい肉体が凌辱されてもいいって言うのね、この鬼畜!
少女の顔が思いのほか近い。それに何だかとてもいい匂いがする。
呼吸を忘れるほどの美しさを目の前にして、ミロンは頭の中までが熱くなってくるのを感じていた。
(うわ~これはもうダメだ!)と目を逸らそうとした時、少女はパッと笑顔を見せる。そして、すぐに照れを誤魔化すように頭をかきながら言った。
「やっぱり原因はアタシだったかぁー。いやいや、薄々そんな気はしてたんだけどねぇ。こりゃどうもまいったね」
少女の口調は、思わず拍子抜けしてしまうほど気取りが全く見られない。見た目のイメージと違い過ぎるのだが。
「随分と呑気な物言いだけど、アイツらの怒りっぷりからすると、相当のことをやったんじゃないのか。その……例えば、イカサマとか」
「あぁイカサマかぁ。てゆーか、それって悪いことなの?」
「何を言ってるんだ! イカサマなんて……人を騙すなんて悪いことに決まっているだろ」
「随分と決めつけるんだね」
少女は変わらぬ笑顔のまま言った。
「そりゃそうだ。ズルをするヤツなんてロクなもんじゃない……」
「あらあら、お兄さん。何か過去にひどい目にでもあったのかな?」
「……アンタには関係ない」
少女の目を見ると言葉が出てこなくなりそうなので、ミロンは視線を地面に落としてつぶやいた。
「ねぇねぇ、キミってさ、ひょっとしてバカ正直な人?」
「……俺はウソが嫌いなだけだ」
「それは奇遇。アタシもだよ~」
変わらず屈託のない笑顔のまま。ミロンが訝し気な表情を浮かべていることを気にもせず、さらに少女は続けた。
「まぁ無事にあの場から脱出できたことだし、これからどうする?」
「何、どうするって?」
「夜までまだ時間があるね。公園でも行って、将来のことでも語り合う?」
「はぁ、何だよそれ」
「鈍い子だねぇ、キミと一緒に行くって言ってるんだよ」
少女の突然の申し出に、ミロンは顔を真っ赤に紅潮させて、慌てて言葉を紡いだ。
「つつつ、ついて来なくていいッ!」
「なんで~?」
「知り合ったばかりだし、連れて行く理由なんてないだろ。それに……」
「それに?」
「旅に女は不要だ」
「えー! ひどいひどい! 男女差別じゃないか~」
「そうじゃないって。俺はその……」
ミロンがその場を取り繕おうと必死に言葉を探していると、少女は意地悪そうな表情を浮かべて、手を口に当てた。
「プププ……わかった。キミ、まだ女を知らないね」
「なっ!? なんでそうなる……」
「女の子と二人旅なんて緊張しちゃうってことでしょ。しょうがないなぁ。それなら、おねーさんがキミに夜のブラックジャックを決めてあ・げ・るっ。あ、もしかしたらバーストしちゃうかも♡」
「……普通に意味がわかんないんだけど。それに俺はこんなところで道草を食っている場合じゃないんだ。そんなに旅がしたいなら他のヤツについて行けばいい。アンタほどの美人なら喜んで
「えー、何それ~。
少女はそう言いながら服の上から大きな胸を両手でグイッと持ち上げると、ミロンに見せつける。
「いいい、言ってねぇし! てかアンタ、発想がいちいちエロい方にいくな!?」
「エロくないよ。可能性の話をしているだけだって。ねぇ、だからアタシも連れてってよぉ」
「無理。悪いけど他をあたってくれ。じゃっ」
ミロンはダッシュで逃げ出した。「あ!」と、少女が声を漏らした時にはすでに遠くへ行ってしまっていた。
「ちぇっ、振られちゃったか。さてと、これからどうしたもんかね……」
*
少女の申し出を断ったミロンは一度街を出て野宿をしていた。お金がなく、食べる物が無かったので、適当に道端の草を食べては腹を壊し、何とか回復したのは3日後。
王子だった頃は身の回りの世話はいつも世話係がやってくれていた。それが突然こんなことになって、予備知識もないままに城の外に放り出されたのだ。このままでは冗談ではなく、本当に野垂れ死んでしまう。早く頼りになる仲間を見つけないと。
今やるべきはとにかく情報収集。そして仲間を見つけることが優先だとばかりに、ミロンは再び賭博都市ギャンボーへと足を踏み入れる。
数日前と何ら変わらない光景。そこは人々の欲望と絶望が混在する、鬱屈とした空気が充満する場所。
道端では相も変わらず賭場が開かれており、人々は目の前の勝敗に一喜一憂。怒声や悲鳴があちこちから聞こえてくるのも前と変わらない。
ミロンは喧騒の中、道を奥へと進んでいく。すると、
「まさか……この間の女?」
変装をしていたが、骨格や輪郭は隠せない。(まったく何をやってるんだ)とため息をつくと、すぐにその後を追った。
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