第11話 査読家と円陣

 魔力異常を起きている人を探す。それがとりあえず私の思いつく最善手であった。最善手というか、手はそれ以外には思いつかなかっただけなのだけれど。魔力異常に、現況がいると分かったところで、仮定したところで、その手掛かりは1つもないわけだし、どうしようもない。

 いや、手掛かりはあると思っていた。ロイラなら、手掛かりになると思っていたけれど、今彼女は学校に来ていないらしい。そういう噂をきいた。実際古びた教室には一度も来ていない。聞いたところによればあの朗読会、最後になるはずだった朗読会以降来ていない。最後になるはずだったと言ったのは、最後にならなかったからである。いや、最後ではあったのだけれど、あれが最後になるかはまだ決まっていないというのが正確なところだろうか。朗読会自体は、あれ以降も許可されているというか、許されてはいるのだけれど、唯一の部員であるロイラが学校に来ていないから、開催されていない


 私が殺したセグシアさんも、もちろん学校には来てなかったのだけれど、どちらも大して話題にはなっていなかった。いや、一部の人の間では話題にはなっていたのだけれど、それも数日かそこらで消えてしまうような話題でしかなかったようである。この学校ではそれぐらいのことは普通というか、当然のことなのかもしれない。気づけば、私の学級にも幾人も恒久的と思われる欠席がでていたし、多分そうだと思う。


 その手掛かりが消えて、私の手札は手当たり次第に探すというものしかなかった。手札を探すための行為といってもいいかもしれない。このままではなにもできない。けれど、初日は、そう決意した一日目は、特に何も成果はなく、放課後を迎えた。

 いつものように読書同好会に顔を出すけれど、そこには人影はほとんどなかった。人ではない彼女もおらず、とても寂しい教室のように感じる。そこにいたのはコトリだけだった。


 いつも隅にいるコトリ。そして、昨日は私に声をかけてくれたコトリ。姿は見えなかったけれど。結局あれは幻覚だったのだろうか。


「わからない。覚えていない」


 直接彼女に聞いてみると、そんな風な答えが返ってきた。

 覚えていないなら、それは仕方がない。まさか、思い出せというわけにもいかない。姿は見えなかったのだし、結局は私の幻覚だったと片づけるしかないのだろうけれど。


「それよりどうしてこんなところにいる? 魔力異常を持つ人には特徴があったはず。異常な行動していたはず。朗読家は周りを病気にさせた。精読家は正義をおしつけた。次の異常な行動は、あれでしょ?」


 コトリは窓の外を指さす。そこには多くの人を集めている人がいた。

 それだけなら異常とは言えないかもしれない。けれど、その人数は尋常ではなかった。おそらく生徒の半分以上がいるんじゃないだろうか。それだけじゃない先生も混ざっている。しかも生徒の種類も様々で、今から帰ろうとしている人に、部活をしようとしている人、音楽や、書道、勉強をしようとしている人も見える。いや、しようとしていたであろう人たちが見える。


 それだけ多種多様な人が集まって何が行われるのか。それとも何かが起こったのか。教室の中から様子を見ていたけれど、何が行われているかはわからなかった。それがおかしいと気づいたときには、遅かった。

 集まっている彼らは何もしていない。何もすることはなくそこに居続けている。おかしいと言えば、コトリの言葉もおかしい気がするけれど、問い詰めようにもコトリはすでに帰ったのか、教室内にはいない。それよりも今はあの集団のほうだ。


 何をしているのかわからない。それは何が起きているのかわからないということでもある。集団の意思が見えない。ただ何もしているように見えないのに、集団がただ集まっているというのは、明らかに異常だろう。

 そう思って外に出たけれど、彼らはすでに何かをしていたのである。何かをするというか、何かを見ていた。私は集団の中心にいる彼女を見落としていた。


「私達はサクちゃん軍団です! よろしくお願いします!」


 彼らの中心にいる彼女はそう言っていた。そう自らを名乗った。正確には彼女達だったが、彼女達の中で重要なのは1人だけに見えた。その一人を中心にこの集団ができていることは、見るからに明らかだった。


「サクちゃん……?」


 私はその名前に聞き覚えがあった。聞き覚えがあったというより、私の数少ない交友関係があった人なのだから、とても知っている名前であるのだけれど。


 サクちゃんというのは、同じ読書同好会の一員である。多少問題はあれど、とても愛嬌のある子で、みんなからはサクちゃんと呼ばれていたし、自分でもサクちゃんとよんでいたはずだ。けれど、そんな彼女が中心にいた。


 少しの間、ここにいただけで、私もこの集団の一部のようになってきた。その間も中心からの声はサクちゃんを中心に4、5人の女達がこの集団を仕切っているようである。サクちゃんはその中でも象徴的な存在のようで、周りの女は彼女の意思を伝えるための手足のようなものらしい。多分、彼女に近づかせないようにする警護的な役割もかねているのだろう。


 中心からの声の言い分によれば、この集団はサクちゃん軍団というらしい。なんて名前だと思ったけれど、一応は仮決定であるらしく、改名の予定があるとかないとか。軍団といったけれど、特に何か目標や目的というわけではなくて、ただの集まりらしい。いうなれば、あの読書同好会と変わらない。

 けれど、その割には人数が多すぎる。どんな高尚な目的を掲げたって、こんなに人が集まることはないだろう。やはり、中心にいる彼女が何かをしているのだろうか。まぁでも、実害がないというのであればそんなに急ぐこともないか。


 そう思ったけれど、次の瞬間にはとんでもないことを言い出した。


「この軍団には階級があります! 階級が上のものは、階級が下のものに何をしてもかまいません! 階級は貢献度によって決まりますので、そのつもりで!」


 そのつもりで! と言われても、そんなの意味が分からない。

 階級? 貢献度? 

 彼女は一体何を言っているんだ。


 私は大層疑問に思ったのだけれど、それは私だけのようで他の人は当然とばかりに頷いていた。それがさらに私の戸惑いを加速させた。そうやって、私が混乱している間にも色々な事が言われていく。


 貢献度というのは、集団への、つまりはサクちゃん軍団への貢献度を指すらしい。いろいろ上げる手段があるらしいけれど、一番簡単で誰でもできることはお金を渡すことである。上納金というらしい。

 貢献度が上がれば、階級も上がる。階級が上がれば、様々な特権を得ることができ、一番の特権は、サクちゃんと話せることらしい。サクちゃんに言葉を聴いてもらい、それに返答ももらえるのが、特権と言っていた。


 正直何を言っているのかはわからなかったけれど、私以外の人は疑問を抱いてすらいない。それどころか、すでにそれを受け入れ、階級を上げることを目指している人が多かった。階級は何階層かに分かれているようだったけれど、どんな階級であろうと、軍団に入っているだけで、サクちゃんの話を聞く権利が与えられるらしい。けれど、階級が上のものには逆らえない。それが規則だと、彼女達は言った。


 そして最後に参加者名簿に記入させて、その日は解散ということになった。

 こんなのに、誰かが記入するのかと疑問だったけれど、そこにいる全員が記入した。つまりは正式にサクちゃん軍団に加入したということである。全員が。おそらく全校生徒の半分程度が、その軍団に。ばかげた規則に同意したということである。そしてすでにお金を渡している人はいた。

 

 階級を上げるためにすべての人が何かをしていた。その恐ろしい集団に私が参加することはなかったけれど、これで確信した。彼女も、サクちゃんも魔力異常が起きている。それが原因でこうなっている。

 サクちゃんがどれだけ魅力的だったとしても、こんなことはありえないはずだ。流石におかしい。全校生徒の半分が、いや、本当に半分で収まるのだろうか。たまたま、今校舎に残っているのが半分程度だっただけで、実際の効力はもっと広いのではないだろうか。


 そしてその恐れは現実のものとなる。

 次の日になれば、サクちゃん軍団に入っていない人のほうが少数派になった。少数派どころか、数十人程度だったんじゃないだろうか。そして、その少数派に学校での居場所はなくなった。

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