第3話 バレンタインチョコ

「……これやるよ」

「な、何だ……うわっ!」


 ある日の放課後。またまた隣の席の女子は、オレに何かくれた。しかも今回は、これまでと違うものだった。オレは頬が赤くなっているこいつの前で驚いて、つい大きな声を出してしまった。なぜなら……。


「どうしたんだよ、これ! 何だか高級そうな匂いがプンプンするぞ……!」

「バレンタインシーズンに買ったチョコだよ。自分へのご褒美に買ったんだけど、あたしは好きじゃないものだったって買った後に分かったから……お前にやる」

「えっ……それってもしや……!」

「な、何だよっ!」


 さっきまでしおらしかった奴が急に焦り出したが、それをスルーしてオレは言葉を続けた。


「賞味期限やべーじゃねーかよ!」


 バレンタインシーズンなんて、一ヶ月前のことだ。それなのに今更バレンタインチョコを渡されたって、もう不安しかない。


「……プッ……アッハッハッハッハッハッハッハッ!」

「笑うなっ!」


 こいつ……!

 押し付け女が、ついに笑い出した。


「あーあーそうだよそうだよ! 早く家に帰ってそれ食って腹壊せバカ野郎!」

「なっ……!」

「でも賞味期限、見てみろよな~!」


 笑いながら奴は、逃げるように教室から出ていった。廊下には、いつも共に下校している友人たちがいる模様。




「すげー……!」


 家に帰ってから、オレは身の丈に合わない上品な包みを開けた。大人っぽい箱の中には、やはり高級そうなチョコレートが入っていた。


「……うめぇ……!」


 ちなみに賞味期限はセーフだった。結構余裕があったのは意外だった。それを明日、奴に言ってみよう。あいつのことだ。きっと「だろー? 添加物しこたま入ってっから!」とか嫌味を言ってくるに違いない。

 ……それにしても、あいつ……。

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