11話目

 遼と二人で雅空と四宮を見送った後、メイドの一人がお風呂が沸いたことを知れせてくれた。


「じゃ、私はお風呂に入ってくるわ。着替えは選んどいて、黒」


「かしこまりました。ごゆっくりとどうぞ。」


 お風呂場に向かう遼も見送り、遼の寝間着を選ぶという仕事を完遂するべく動こうとしたとき、ある人から声を掛けられた。


「黒様」


「どうしたんだ、じいや?」


 声をかけた人とは執事長であるじいやであった。


「いえ、主様に変わりまして今日のお礼とお詫びをと」


「お詫び?何について謝るんだ?」


 お礼についてならわかる。きっと遼に指示された罰ゲームについてだろうが、お詫びについては本当に心あたりがないため疑問を持ってしまう。


「今日一日お嬢様のわがままを聞いてくださったお詫びをと」


 遼のわがままを聞いただけでお詫びされるとは思っていなかったので多少は驚いてしまったが、すぐに返事をする


「そんなことか。大丈夫だよ、じいや」


「ですが、、、」


 ここまでじいやが気にするのも仕方がないだろう。罰ゲームとは言え、強制的に執事服を着せれら、その上理不尽極まりないことを指示され、実行したのだ。今回の件で直接関わってないとしても夜桜家を任されているじいやからすればこの植えなく申し分けなさがあるのだろう。

 しかし、黒神はじいやが思っていることなど知らないし、本気で迷惑などと考えていないため謝られでも対応に困るだけである。


「大丈夫だって。あいつは、気を張りすぎなところがある。たまにはこういう風に息抜きをさせないとな。それをさせるのが幼馴染みのおれが仕事だ。それに、おれもいい経験になった。」


(この人は、こういうところを平然といえるからかっこいいんでしょうな)


「あ!!このことは、あいつに言わないようにな!知られたら、恥ずかしいから!」


「はい、わかっております」


 まだ年相応の反応を見せられたため思わずじいやも笑みをこぼしてしまう。


「じゃ、はやくあいつの寝間着をもっていかないと何されるかわからないんで」


「ええ、わかりました」




 時間は過ぎ、場所は浴室の前。そして、事件は起きる。


「お嬢様、失礼します。」


「え!!ちょっとまって!!ダメ!!」


 考え事をしていた黒神はそんな悲鳴にも似た声を、処理するのに少し時間がかかってしまった。そして、黒神が目にした光景は



 透き通るような白い素足、長い漆黒の髪を後ろで束ねタオルを巻いた頭、横に手を広げバスタオルを脱ごうとしている遼の姿だった。それを見た瞬間黒神は自身の最高スピードで後ろをむき、すぐさま扉を閉める。


「見た?」


 扉のむこうから震えた声で問う遼。


(どう答えたら正解なんだ?どう答えたとしても死ぬ未来しかみえない)


 いま黒神は今までにないほど頭をフル回転させて思考していた。


(確かに目には映った。しかし、大事な部分は見えていない。俺が見たのは遼の顔と足、、、、と少しのボディライン、、、、だけ。しかし、こんなことをいったとしても絶対に信じてもらえない。さぁ、どうする!!黒神!!)


「なんとか言ったらどうなの?」


 先ほどとは打って変わりあきらかに遼の声は怒気をはらんでいる。


「え、えーと、そのぉ」


(やばい!はやく言わないとどんどん不利になっていく)


「正直に言う。だから、信じてくれ。確かに俺は目に映った」


「ッ!!」


「しかし!!俺の目にはお前の足しか映っていない!!これは、ほんとだ!!!足をみた瞬間後ろを見た!!」


(さぁ、どうだ!!)


 多少の嘘を吐いたが遼からしたらそんなことは分からないはずだ。

 しばらくの沈黙の後、黒神の背にある扉が開く。そして、遼から一言。


「黒。こっちを向きなさい」


「はい」


 言葉の通り黒神が素直に振り向いたときには横に遼の左手と、もう一つ。耳まで真っ赤にした顔と少し涙ぐんだ遼の顔があった。

 そして、一秒後。


「この変態!!!!!!!」


 パシーーン。


 そんな声とともにビンタされた音が夜桜家の屋敷に響いた。


 見事なビンタを受けた黒神は最後にこんなことを思う。


(なんでこんなラノベみたいな展開になるんだよ。こんなことならしっかりみといたらよかった。)


 と後悔しながら意識が落ちていくのであった。

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