エリザベス決戦
奇跡いのる
第1話
わたしの名前はエリザベス。 10歳。
もちろん本名じゃない。わたしの好きなマンガのキャラクターから拝借しただけ。
あ、痛い寒い可哀想な子と言わないで。この名前を使うのはネットの中だけだから、心配しないで。
わたしの家では猫を一匹飼って育てている。
もっとも彼女はわたしと同い歳のベテラン猫なので、いわゆる人間換算すると56歳になるらしいし、育てているってのもおこがましい話だわ。
猫のエリザベスは、キジ猫。わたしのお母さんがその辺で拾ってきたって聞いたことがある。肉球が黒いのがチャームポイント。お母さんはピンク色の肉球が良いってよく言うけど、わたしはエリザベスの黒い肉球も味があっていいと思うの。
猫のエリザベスは10歳になってもまだまだ元気で、定期的に夜の運動会を開催する。夜になるとやたらと走り回って、タンスに登ったりテレビを倒したりとにかく騒がしい。
わたしの部屋には大きなライオンのぬいぐるみがあって、わたしはそれをエリザベスと呼んでいる。これはお父さんが遊園地のよくわかんないアトラクションで景品として貰ってきたものだ。今でこそわたしの方が大きいけど、それでもぬいぐるみのエリザベスもかなりの迫力がある。
猫のエリザベスの主な対戦相手はぬいぐるみのエリザベス。真夜中の運動会で壮絶なバトルを繰り広げる。どう考えても猫のエリザベスの方が体格的に不利だけど、そうは言っても相手はぬいぐるみなので、いつも猫のエリザベスがぬいぐるみのエリザベスを倒して誇らしげな顔をするのが、お決まりのパターン。
★★★★★★★★★★
「やぁエリザベス、今日こそ決着をつけよう」
「何を仰っているのエリザベス?いつも私が勝利しているじゃない?」
「今夜は年に一度のハロウィンナイト、ボクも自由に動けるのさ」
「エリザベス」
「エリザベス」
「そもそもなんであなたがエリザベスなのよ?」
「それはボクのセリフだ。ボクこそがエリザベスだ」
「所詮あなたは新参者じゃない、私はもう10年もこの家にいるのよ」
「年月は問題じゃないさ、彼女がボクに抱きついてくれてるのはボクが一番エリザベスに相応しいからさ」
「失礼しちゃうわね、私こそエリザベスなのよ」
ライオンのぬいぐるみエリザベス、
今年で10歳キジ猫のエリザベス、
いざ、尋常に勝負!!!
キジ猫エリザベスはそのスピードを活かして縦横無尽に駆け回り、ライオンぬいぐるみのエリザベスを圧倒。繰り出される猫パンチからは爪のオプションもついて、強力なダメージを与える。
一方のライオンのぬいぐるみエリザベスも黙ってはいない。年に一度のハロウィンナイト、彼にも自由に動けるチカラが与えられる。体格差で言えばライオンのぬいぐるみエリザベスの方がかなり有利。スピードは無いがその一撃はかなり強力で、キジ猫エリザベスを寄せ付けない。
エリザベスとエリザベスの激しい決闘に、本棚から本は落ち、写真立ては倒れ、ゴミ箱は宙を舞い、カーテンは外れて落ちてしまった。
「やるなエリザベス」
「あなたこそ、やるじゃない」
最後の一撃、決着の瞬間……
そのとき少女エリザベスが目を覚ました。
★★★★★★★★★★
「ちょっとエリザベス、暴れないで」
「ニャアニャア(ご主人様、こんな時間に起きて、朝寝坊しますわよ)」
「言い訳しないの。エリザベス、エリザベスをイジメちゃ駄目でしょう?」
「ミャオミャオミャーオ(イジメなんて、このデカブツが先に喧嘩売ってきたの、私は悪くないわ)」
「分かってくれたのね、やっぱりカワイイわエリザベス」
「ニャーオン(ご主人様、大好きっ)」
「……(……)」
「……(ズルい…)」
「はい、エリザベスたんもエリザベスと仲良くしましょうね」
ライオンのぬいぐるみのエリザベスはモフモフしてきて気持ちいい。わたしは抱き枕代わりにエリザベスを抱いて、また眠りに落ちた。
★★★★★★★★★★
「そもそもなんでエリザベス?」
「知らないわよ」
「というか、彼女もエリザベスを名乗っているらしいぞ」
「エリザベス…ご主人様の好きなマンガのキャラクターなのよ」
「でも君の名前を付けたのは彼女のお母さんだろう?」
「そうよ、だから親子揃ってエリザベス好きなのよ」
「ネットのことはよく分からないけど、ボクは彼女の名前の方が好きだけどね」
「私も、たまごが大好きだわ」
エリザベス決戦 奇跡いのる @akiko_f
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