第25話 愁雨

あれからリビングデッドの大きな危害も起こっておらず、

またアルファの能力でもう一度アルカラの本拠地に乗り込んだ郁達だったが、建物は跡形もなく消えていた。

草木が生い茂っていた。

只、草木の中で一か所だけ地の地面がむき出しの場所があり、建物が建っていただろうと形跡は確認できた。

現在ノアの箱舟内部は修復作業が進んでいる。

内部の病室一室から廊下からでも聞こえるような肺を痛めているような咳き込む音が聞こえた。

雨宮は激しく咳をすると、ラヴィは雨宮の背中を擦った。


「あー……やばいな。

もう限界近いかもしれないな」


雨宮は自身の手の平を見ると、ふっと笑った。


「雨宮、俺は間違っていたのかな……あの日何か違う選択をしていればこんな風にならなかったのかなって考えてしまう」


「どう選択しても今と近しい結果になっていたさ。

それにあの話をしても変わらずついていくって言ったあいつらを信じてやれよ」


「……うん」


「本当今まで色々あったな……長く生きるのも意外によかったかもな。

だって普通に寿命まで生きてたら知ることができなかったことまで知ることも体験することも出来たんだぜ?

会えなかったであろう奴らにも出会えてさ、得した感じだよなー」


「……うん」


「……泣くなよ。ちょっと遅めのお別れが来たと思ってさ、笑って送ってくれよ。

辛気臭い別れ方は嫌なんだよ。なぁ、ラヴィ」


「……ありがとう、兄さん」


「…ははっ、今、兄さん呼びするの反則だろう。

……じゃあな、ラヴィ。今度こそ後悔するなよ」



雨宮は拳をラヴィの方に向けると、笑った。


「うん」


ラヴィは差し出された雨宮の拳に自身の拳を軽くこつんと当てた。


「失礼します……雨宮先輩あの……っ! 」


部屋に入って来た青柳はその場で崩れ落ちるように倒れると、泣き出した。

後から着いてきていたチガネもその光景を見ると、唇を噛み、眉を下げるとそっぽを向いた。

只、そこには先程まで誰かいたかのように、布団の皺が残っているだけだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る