プロローグ 第四話

 いつも通り、お日様が昇り始めるより前に仕事場から家に帰ってきたと思えば、珍しくニマニマとした表情をして、「ドライブに行きましょう」と普段なら絶対に言わないセリフを言った。


 今思えば、その時から嫌な予感はしていた。


 家の外に一台の車が止まっていて、その車の助手席へ先に乗り込むと手招きされたため、後部座席に乗り込んだ。運転席には見たことない男が乗っていて、「だれ?」と訊くと、男の方から説明を受け、新しい彼氏であることが分かった。


 運転は非常に荒かったが、出発して十分もしないうちに眠ってしまった。


 目的地に着いたからと起こされ、車から出ると、さっきまで長く伸びていた自分の影がとても短くなっていることに気づいた。影に見入って立ち止まる自分をよそに、並んで先先と歩いていく二人に気が付き、慌てて追いかける。


 どこにいくの? ――返答はなく、二人は周囲を見渡しながら歩く。大人の歩幅で歩く二人に置いて行かれないように、駆け足を続けた。


 そして再び立ち止まった。駆け足を止めたのは、二人が足を止めたからでなく、疲れたからでもない。目の前に公園が見えた。子どもらしい立派な理由であった。


 立派な東屋を中心に、左右へ広がる大きな公園。老若男女たくさんの人がいて、活気づいた印象に「うわぁー楽しそう」と見入ってしまった。だから、二人がひそひそと話して結論付けた「ここにしようか」という言葉は聞こえなかった。


 さっきまで頭上にいたはずの太陽に、大きく分厚い雲がかかって、周囲に影が生まれた。公園に羨望の眼差しを向けて立ち止まった自分に、二人は「どうだいここでピクニックでもしようか」と言った。その言葉に当然、目を光らせて、大きく縦に頷く。太陽を覆っていた分厚い雲が流れて、二人の後ろから光が差したからか、二人が神様に見えた。


 じゃあお弁当を買ってくるから、ここで待っていなさい――それが最後の会話であった。


 一日二日経って、最初は遊びに誘ってくれた近所の子どもたちも、毎日変わらない服装や、日に日にきつくなる体臭に嫌気を刺したからか、この公園に来なくなった。子どもたちがなぜ来なくなったのかに気づいた時、自分が母親に捨てられたことに気づいた。それに気づいた時に乗っていたのが、


 あのブランコだ。

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