プロローグ 第三話
どすん! ――
雷が近くに落ちた。おぼろげな意識の中でそう思った。それは自分の真後ろで起こったのだろうことも、なんとなく把握する。
目を開けるよりも前に、頭の中で状況を整理した。
ここに捨てられて何日経ったかはもう覚えていない。
朝は老人のたまり場に、昼以降は子どものたまり場になっていて、各々が各々のコミュニティーに集中しているから、誰も、自分がここに住み続けていることに気づかない。
夜の公園に誰かが訪れて、事情を話せば何かが変わるかもしれない。だけど、真っ暗な夜の公園が与える、恐怖と不安という心理的ストレスのせいで、知らない人に声をかけるという勇気の一歩が踏み出せなかった。
何日か経って初めて雨が降った。当然公園に来る客足は減り、自分も雨に濡れたくないから行動を制限した。日中行っていた公園周辺の散策も、公園内に屯する人たちの観察など暇つぶしができなくなった。
雨が降って、
雨風をしのぐために東屋へ向かって、
雨音はだんだん大きくなって、
腹部から出る音も大きくなって、
もうこのまま死ねば楽かもと思うけれど、ごくりと喉を鳴らして雨水を飲む。
ちょこんとベンチに座って、体全身を預けて、
意識はだんだん薄れていって、
今だ。
目を開けると、寝る前と変わらない光景が広がっていた。まだ雨が降っていて、なんなら寝る前よりも勢いが増しているように感じる。
視覚で得た情報を整理し終える前に、次は体が危険を訴えかけてきた。空腹よりも、寒気と節々の痛み。ただでさえ寒い夜に雨が降って、布団も被らずにこんな硬いベンチの上で長時間眠っていたのだ。当然である。
節々は痛む。けれど――そう思った。
雷が真後ろで落ちたのかもしれないという興味と、事実の確認をしたい欲求がごちゃ混ぜになって、体を反対方向へ向けると同時に起き上がり、目を丸くした。健康的な体であったら、脳が驚いた衝撃で筋肉が膨らみ、立ち上がっていただろう。
雨が降る夜の公園にお客様が来たのだ。
自分と同じくらいの背丈の子どもがいた。
お互いが、お互いの顔を見つめあう。
視線は虚空で重なって、狭い一車線の道路を譲り合うように空中で交差する。交差した視線は同じ速度で両者に向かって、その情景をお互いの瞳に映した。本来、視線の先にはブランコがあるはずだが、二台あるはずのそれは、今は人影で遮断されていて一台しか目視できない。誰も乗っていないはずのブランコが風に吹かれて、ひとりでに揺れて――見えた。ブランコに乗っている、自分の抜け殻が見えた。
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