第15話二人の未来

 「やっぱり、運命だと思うんです」

根拠などあるはずもない自信に満ちた声音で、私は自分の意見を明言した。

「だって、翡葉さんが毎回私達の同伴監督官になるなんて、もう偶然の域じゃないですよ」

静かに興奮している私の隣で、慧奴は関心無さげに車外を見遣りながら、ぼそりと言う。

「運命よりは呪いかもな」

翡葉さんは、後部座席で好き放題に言っている問題児達を放任して車の運転に集中していたかと思うと、赤信号で停止した際に口を開いた。

「同伴監督官は、当事者達の意思とは無関係に、第三者によって公平に選出されている」

堅物な彼らしい生真面目な説明に、私は失笑した。彼には本当に冗談が通じないようだ。

「他に監督官がいないだけじゃないですか?」

態度も言葉も無礼な少年が、疑ったように彼を詰る。

「常任監督官は存在しない。兼務だ」

「それじゃあ、翡葉さんは普段何をしてるんですか?」

「清掃員だ」

「道理でお呼びが掛かるわけだ」

慧奴はこう言って嘲笑を浴びせたが、翡葉さんは動じなかった。逐一他人の言動に左右されない彼の態度と比べると、慧奴が酷く子供っぽく見えるのがちょっと可笑しい。

「でも、私は翡葉さんが監督官で嬉しいです」

私の言葉に、寡黙な彼はやはり何も答えてくれないまま、無言で車を走らせ続けた。


 慧奴と二人で外出をするのは、市立博物館に行った時以来の事だった。制度上は外出と見なされていない園田先生との一件を除くと、正式に施設側から許可を得た外出は、今回が三度目になる。折角なので、今回の行き先は二人で相談して決めないかと慧奴に提案したのだが、「勝手に決めて良い」とあっさり丸投げされてしまったので、話し合いにはならなかった。外出計画を拒否されなかっただけでも良しとして、気を取り直した私は、お言葉に甘えて自分の行きたい場所を申請書に書いて提出した。

「そういうわけで、今日は遊園地です」

運転手と別れて入場口までやって来たところで、私は改めて本日の外出先を紹介した。授業があるので平日には来られず、諸々の検査やら講習会やらで潰れる土曜日も避けた結果、必然的に日曜日の訪問となってしまった。世間の休日と被った場合の混雑はある程度予想していたけれど、現実は私の希望的観測を遥かに上回っていた。入場するまでに、既に何十分かは列に並びそうな気がする。だがここまで来て入りもしないわけにも行かないので、不快感丸出しの慧奴を連行し、人混みの中に加わった。

 何とか入場を許可されて門を潜り抜けると、目の前には一気に開けた空間が広がった。絶えず入り口から押し流されて来る人々は、皆思い思いに好きな方向へ歩き出して散って行く。

「慧奴は、何か気になるものある?」

受付時に手渡された場内の地図を広げながら、満足な返答は期待せずに彼に聞いてみた。案の定彼は質問には答えてくれず、「聞かれても分からない」と言いたげな眼差しを私に向けただけだった。

「じゃあ、ジェットコースター乗ろう」

ここで悩むのも馬鹿らしいので定番の乗り物に決め、私は彼の手を取って歩き出す。

「ここも来た事あるのか?」

「うん。家族と一緒にね」

長蛇の列と無為な待ち時間から解放されて生気を取り戻したのも束の間、どの乗り物の前にも程よく人が分散しているさまを見て、彼の表情は再び一気にかげりを見せた。


 最終的に三分の一は待ち時間に費やしたであろうと思われる壮大な実験の結果、靄繕慧奴はおよそ全ての遊園地の乗り物には関心を持たないと言う残念な結論が得られた。彼曰く、「敢えて重力や遠心力でもって暴力的に嬲られる事を目的とした乗り物に身を任せる事によって、恐怖と興奮の入り乱れた複雑怪奇な感情に浸りたいと言う趣向には全く共感出来ない」との事で、要するにこの手の乗り物の醍醐味は完全に理解不能だったらしい。そんな彼が「振り回されないものに乗りたい」と言うので、私は恐らく一番安定していて静かな乗り物だと思われる、巨大な輪の下に彼を連れて行った。ゴンドラに乗り込んだ直後に、「これは何の為の乗り物だ?」と早速存在意義を問い質されたので、「名前の通り、景色を眺めるものよ」と答えて視線を外へ向けた。高度が上がって行くにつれて視界が開けて行き、眼下には模型みたいな街並みが広がると共に、遠くには霞む稜線が見えた。

「ごめんね。今日の外出は失敗だったみたい」

ぼんやりと外の景色を眺めている彼の横顔に、私は苦笑いをしながらお詫びをした。彼はその言葉を聞くと、姿勢を直して私の方へ向き直った。

「やはり俺は遊園地と呼ばれる類の施設が好きではないらしいと言う事実が判明しただけでも、無意味ではなかっただろ」

回りくどく捻くれた物言いで、彼は言う。

「慧奴は、最初の頃よりずっと優しくなったよね」

「気のせいだろ」

「そんな事ないよ」

私は彼の向かいの席から立ち上がると、彼の左隣に移動した。

「一緒に出掛けてくれて、ありがとう」

そっと手を握って肩に凭れ掛かると、私は彼の耳元に囁いた。緩やかに一周する観覧車の中での一時が、一番安穏で心地良かった。


 三鷹山にある暮れ時の森は、秋になると一面が燃えたように赤く染まる事で知られており、この見事な紅葉が、夕焼けを思わせるその名の由来となっている。自然の只中に聳え立つ《第十一再教育施設》の唯一にして最大の美点が、風光明媚であると言っても過言ではないくらいに、施設を取り巻く樹木が織り成す季節毎の絶景は、どれも筆舌に尽くし難い美しさを誇っている。施設の殺風景な灰色一色が気分を沈ませる代わりに、植物達の鮮やかな色が目を楽しませてくれるのだ。

「春はお花見をしましたから、秋は紅葉狩りでもしましょうか」

この国の風流な文化を尊重し、愛好している園田先生が、ある朝生徒達の前でそんな提言をした。

「施設職員の方達との合同と言う形なら、暮れ時の森を少しの間散策するくらい許可が下りると思いますし、みなさんにとっても、良い気分転換になるのではないかしら?」

良い意味でも悪い意味でも従順な生徒達は誰も彼女に反対せず、乗り気な先生は今日にも職員達に相談してみようと意気込んでいた。どんな時でも遊び心を忘れない、陽気で前向きな彼女の考え方を、私は密かに尊敬していた。

「紅葉狩りかぁ。慧奴はどう思う?」

右隣で机の上に伸びている秀才に尋ねてみる。

「あの人らしい計画で良いんじゃないか?」

相も変わらず投げやりな返事が返って来たが、否定しないところを見ると満更でもないらしい。

――私が慧奴と一緒に脱獄出来るとすれば、慧奴にとっても、私にとっても、これがここで過ごす最後の秋になるんだろうな。

それなら、存分に楽しんでおきたい。この施設を出た後には、きっともう二度と私達がこの場所を訪れる機会は無いだろうから。

「それじゃあみなさん、勉強を始めてください」

手を打ち合わせながら担任教師が告げると同時に、私の隣人以外は正直に筆記用具を握ってワークブックを開いた。


 それから数日後の日曜日に、施設職員達と参加を希望した居住者達合同の紅葉狩りが行われることになった。クノマ君とカナミさんも参加すると言っていたし、翡葉さんも職員として否応無しに駆り出されると聞いた。こうした施設全体での交流行事は時々行われていたけれど、施設外へと繰り出すと言う計画は初めてだった。それ故職員側には楽しさよりも緊張が大きかっただろうが、私はこの《第十一再教育施設》史上初の試みに期待を寄せていた。胸を躍らせつつベッドから起き出して、いつものようにパンをトースターに入れてタイマーをセットし、その間にコーヒーを準備する。ドリップ用の中挽き豆が入った瓶の蓋を開けると、中に充満していた香りが空気中に解き放たれて辺りに漂った。

――あれ?こんな香りだったっけ?

嗅ぎ慣れた大好きな香りのはずなのに、何故か妙にきつく感じる。コーヒー豆が劣化したのかとも考えたが、そんなに長期間保存していた覚えは無い。たぶん私の勘違いだろうと思い直し、通常通りの手順で淹れて、一口飲んでみた。しかし、やはり何処か違和感があって、美味しいとは感じなかった。

――新しいの買おう。

結局残りは流しに飲ませて、代わりに冷たい牛乳を飲んだ。


 思えば朝のその一件が、体調の異変を警告していたのかも知れない。だがそうとは気が付かなかった私は、楽しみにしていた紅葉狩りに予定通り出掛けた。その日は朝から天候にも恵まれ、樹木が生い茂る森の中は、澄んだ涼気に包まれていた。

「綺麗!!」

緋色の木の葉で着飾った、数えきれない木々の群れ。

地面を覆い尽す落ち葉の絨毯。

木漏れ日越しに見える青い空。

絵画の中を思わせる圧倒的美景に、その光景を目にした誰もが感嘆の声を漏らしていた。無口な翡葉さんでさえも、自然が作り上げた驚異の芸術に口を開けて見入っていた。クノマ君とカナミさんは、頭上から落ちて来る赤い葉を捕まえようと戯れ合っている。そんな無邪気な彼らの様子を和やかな気持ちで見つめながら、私は近くにあった倒木の上に腰を下ろした。理由は判然としないが、頭がぼんやりして全身が気怠い。熱でもあるみたいだ。

「大丈夫か?」

各々が浮かれている中で、冷静に私の異常に気付いて声を掛けて来たのは、慧奴だった。

「具合でも悪いのか?」

「ちょっと、熱っぽいみたい。最近急に寒くなったから、風邪でも引いたんだと思う」

私はこう言うと気丈に笑って見せたが、平気なフリが続けられたのは、自分の部屋へ戻るまでだった。


 無事自室へ帰還するなり耐え難い吐き気に見舞われた私は、脱いだ靴を投げ出してトイレへと駆け込んだ。その時になって漸く、自分でも大丈夫じゃない気がして来た。そもそも風邪なんて滅多に引かない私なのに、こんなに突然調子が悪くなるものだろうか?そう言えば、いつも必ず周期通りに来ていた生理も来ていない。

――まさかね……。

そんなはずはないと自分に言い聞かせて立ち上がると、私はベッドの上へ倒れ込んだ。仮に私の予感が正しかったとしても、一体誰に相談出来るだろう?カナミさんでは色々不安だし、園田先生に打ち明けるのは恥ずかしい。そうかと言って、慧奴に言っても仕方がないし、翡葉さんは力になってくれそうもない。

――それに、どの道もう直ぐ慧奴の誕生日だ。

成人したその日に出所が可能とは思えないが、せめてその時までは黙っていても問題は無いだろう。まだそうとは決まったわけでもないのだし、今後どうなるのかも分からない。

――でも……もし、本当に私が妊娠しているとしたら……?

その時私はどうすべきだろう?その時彼はどうするのだろう?

見えかけていた未来の光は、再び隠れて見えなくなった。


 私の切実な祈りは届かず、体調は日増しに悪くなって行った。

食べ物も殆ど喉を通らなくなったので、食事は固形物ではなく液体に変えた。それでも摂取出来ない時は幾度かあって、でもそれはもう仕方がないと諦めて安静に過ごした。問題は、私生活よりも学業の方だ。誰にも事情を説明していないから、休むわけにも行かないし、そうは言っても平静を装おうとしても限界がある。あれだけ理由も無く頻繁に訪ねていた慧奴の部屋へも近付かなくなったから、不審に思われるのは必至だった。学舎棟での一日を何とか耐え抜き、逃げるように自分の部屋へ戻ろうと席を立ったその時だった。

「待って」

思いもかけない人物が私を呼び止め、腕を掴んで引き止めた。

「何?カナミさん」

「ちょっと来て」

真面目な顔で彼女は言うと、私を連れて学舎棟を後にし、居住棟にあるあの談話室へと引き入れた。

「具合が悪いの?」

扉を塞ぐように背を凭れ、責めるような冷めた瞳で彼女は問う。私は「少しね」と、自分でも分からない内に微笑を零すと、視線を落とした。カナミさんの突然の行動の真意は気になるけれど、今はそんな事よりも早く帰って休みたかった。

「ユーヒも、あたしも、園田先生も、みんなあなたの異常に気付いてる。でも、あなたが黙って平気なフリをするから、誰も本当の事が聞けない」

「心配してくれてるのなら嬉しいけど……大丈夫よ」

「アイゼンエヌは知ってるの?」

「知らない」

「そう」

カナミさんは失望したように呟くと、扉から離れてその脇に立った。

「あたしは、園田先生が心配してるから聞いただけ。あなたが話したくないなら、これ以上は何も聞かない」

くるりと私に背を向けて、金髪美少女は扉に手を掛ける。

「でも、隠し通す事なんてムリだと思う」

最後に一言釘を刺すと、彼女は部屋を出て行った。私は彼女が突きつけた忠告に胸が痛むのを感じながら、顔を伏せて部屋へと戻った。


 二週間前に慧奴と遊園地へ行った時には、こんな事になるなんて思いもしていなかった。だから、あの日の帰り道の車の中で、私と彼は次の外出についての約束を交わしてしまっていた。申請書はもうとっくに提出した後で、その許可証が届いたのは、奇しくもカナミさんと話した翌日の事だった。予定を中止する事は、不可能ではない。外出予定日の前日までに、外出予定を取り消す旨を事務員に告げれば良いだけだ。そんな簡単な事なのに、恐れる事は何も無いはずなのに、結局私はその一言を連絡する事を怠った。

 監督官は例によって翡葉さんで、私達はいつも以上に重苦しい沈黙に包まれながら、目的地へと車で向かった。慧奴は私に何も尋ねなかったから、そのせいでより一層私の心は苦しくなった。慧奴は口が悪いし、捻くれ者だが、決して鈍感ではない。私の異変に気付いていないはずがない。それなのに彼が尋ねようとして来ないのは、私が自分から話そうとしないからだ。

――何か、嘘を吐いているみたい。

話さないでいるよりも、話してしまった方がきっと幾分も楽になるのだろうとは解っている。でも、臆病な私は、まだそう決心するだけの勇気が持てない。

――この外出が無事に終わったら、慧奴に話そう。

祈りを込めて心に誓うと、私は顔を上げて真っ直ぐに前を見据えた。


 私達がやって来たのは、動物園と水族館が併設された、寿杜芽市内にある複合施設だ。前回の失敗から、五感に訴えかける系のものは喜ばないと判断したので、飼育されてはいるが生身の動物の姿を見せたら、少しは知的好奇心を擽られるかと思い、この場所を選んだ。私のその選択は、どうやら正しかったらしい。彼は、初めて間近に目にする動物達に対して大いに興味を示し、子供のように目を輝かせて彼らの姿をまじまじと観察していた。そんな慧奴の反応に私は心から嬉しくなったが、その思いに反して体調は最悪だった。最初の内はそれでも笑ってごまかしていたけれど、直ぐにそんな余裕は無くなった。手洗いに行って戻って来た時には、もう立っているのもやっとだった。やむを得ず慧奴を引き留めて、私達はベンチに座って一休みすることにした。

「今日はもう帰るか?」

彼が発したその質問には、勧告の音が滲んでいた。

「いいよ。だって、珍しく慧奴が楽しそうにしてるし……」

私は折角の時間が空しい結末を迎えるのが嫌で、意地を張った。でも、正直もう彼の顔を見上げる気力も無かった。彼は「また来れば良いだろ?」と諭すように言うと、「こう言う時にあの人が居ないのは、大変迷惑だな」と愚痴を零して立ち上がった。

「救急車でも呼ぶか」

冗談なのか本気なのか分からない物騒な一言を残し、彼は辺りを見回しながら、人混みへ向かって足を踏み出す。私が彼の服の裾を抓んで制止しようとしたまさにその時、雑踏の中から声が聞こえた。

「絵夢?」

聞き覚えのある声に、思わず私の身体が反応して頭が持ち上がる。

「やっぱり絵夢だわ!!」

「本当だ!!!」

嬉々とした声を上げ、三人の人影がこちらに駆け寄って来る。

「お姉ちゃん!!!」

泣きながら私に抱きついて来たのは、私の記憶よりもずっと大きくなった幼い女の子。

「……お父さん……お母さん……絵真……」

不調も思考も一瞬にして何処かへ消し飛んで、あの頃に戻ったような錯覚に捕らわれる。

「ずっと心配してたのよ!!あの日、あなたが家を飛び出して、施設で保護されたって聞いてから、ずっと……!!!」

「本当はお父さん達の所に帰って来て欲しかったけど、自分から家を出て行った絵夢を追いかけて行って連れ戻すのが、本当に良い事なのか分からなくて……ずっと、悩んでいたんだ」

ただ茫然とする私を前に二人は語ると、そこで傍らに突っ立っている慧奴の存在に気が付いた。

「彼は、靄繕慧奴君。同じ施設で暮らしてるの」

ひとまず二人に慧奴の事を紹介すると、私はそのまま慧奴に向き直った。

「慧奴。こちらは高山さん夫妻と、その娘の絵真ちゃん。四年前に私が施設に入るまで、五年間一緒に暮らしていた家族なの」

こんな所でこんな風に再会するとは思ってもみなかったから、私は感動と言うよりは動揺していた。高山夫妻と絵真が、戸惑いながらも仏頂面の慧奴に愛想よく挨拶をすると、彼はそっけなく「初めまして」と言葉を返した。まだ愛想笑いは出来ないらしいが、メイナの時よりは感じが良くなった気がするのを見てほっとする。

「ところで高山さん。一つ、お願いしても良いですか?」

再会と新たな顔合わせが済んだところで、慧奴が再び口を開いた。


 施設に住んでいる私達の殆どが、この情報化社会の時流に逆らって携帯電話を所有していない。その最大の理由は利用する機会が無いからだが、外出の事を考えると、外出時だけでも緊急連絡用に持たされていても悪くはないと思う。特に、よく私達の監督官になる無口な男性は、外出先では同伴しない主義なので、何か問題があった時に迅速に駆けつけてくれなくて困る。今回瀕死の状態だった私を救ったのは、高山家との運命的な邂逅と、靄繕慧奴の機転だった。いつも通り一度施設に帰っただろう翡葉氏を呼び戻すのではなく、高山家の車で施設まで送ってもらったお陰で、私の苦痛は長引かずに済んだのだ。施設に帰るよりもその足で最寄りの病院へ行って診察を受ける事をその場の全員に勧められたが、そうなると高山家まで私の問題に巻き込んでしまうことになるので、断固として拒否した。私のせいで高山家の団欒を台無しにしてしまった事には気が咎めたけれど、これ以上周りに迷惑を掛けない為には、最善の処置だったと言えるだろう。この件に関して、後で翡葉氏に苦情を申し立てておかなければならない。

 久し振りに会えたのに、面倒と心配だけを掛けて申し訳ない気持ちで一家と別れると、私は慧奴に手を引かれるがまま医務室へ連行された。

「以後、全快するまでの外出は断る」

突き放すように冷たく言いながら、彼は私の手を強く一度握り締めてからぱっと離すと、ゆっくりと歩いて部屋に帰って行った。

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