共同作業は宝探し

石田空

共同作業は宝探し

 ふわふわの綿。つぶつぶのペレット。ガラスビーズにステンレスボール。

 ぬいぐるみの中身はさまざまで、それによりぬいぐるみの手触りが変わってくる。

 それがよれたり経年劣化で古くなったりすると、ぬいぐるみはへしゃげてしまい、一般人ではなかなか元に戻すことができなくなる。

 そんなぬいぐるみを限りなく元に復元するぬいぐるみ修繕師は、最近はフレンドリーにぬいぐるみのお医者さんと呼ばれている。

 各地から受注した修理……治療予定のぬいぐるみたちを集めたぬいぐるみ病院において……ひと組の男女が必死にぬいぐるみの修繕と中身の確認が行われていた。

 既に終業時刻は過ぎていたが、ふたりはサービス残業万歳状態であった。


「馬鹿っ、色ボケっ、馬鹿っ! そんな大事なものをどうして職場に持ってきちゃったの!?」


 髪をシュシュでひとつにまとめた女性は、がなりながらもぬいぐるみの中のガラスビーズを除けて中身を確認しては、それを縫い直して元に戻していく。修繕は完璧で、確認のために開いたあとは残っていない。

 それに涙目になっているのは、人のよさそうな顔をしているメガネの男性だった。こちらはステンレスボールを掻き分けて量を調整し、ぬいぐるみを元に戻していっている。


「だって、今日プロポーズする予定だったし! 仕事終わりに!」

「馬鹿っ! そんな馬鹿なプロポーズがありますか!」

「だって、最近の人って、婚約指輪を持ってのプロポーズはしないんでしょう? となったら、プロポーズのあとに指輪をつくりに行くしかないじゃない」

「馬鹿っ! そうじゃない!」


 男性は直人、女性は万梨阿。

 ぬいぐるみのお医者さん同士、日々依頼で送られてくるぬいぐるみの治療を行っていれば親近感も沸き、付き合い出すまでにそう時間はかからなかった。

 付き合って三年。そろそろいい頃合いだろうというときに、実家に戻って生前分与が行われることとなった。

 古臭い家にそんないいものなんてないだろうと思っていたが、意外なことに大きなダイヤが贈られることとなった。


「ええ……こんなものもらっていいの?」

「いいよ、いいよ。どうせ焼いたら燃えちまうし。それにこれで婚約指輪つくって贈ったら、お前に万が一のことがあっても奥さんも困らないだろ」

「そうなのかなあ……」


 既に婚約指輪は給料一か月分なんて概念は、ほぼほぼ薄れている。でも今のご時世、こんな大きなダイヤをお金で買おうと思っても無理なため、これを持って直人は万梨阿にプロポーズすることとなったのだが。


「そんな大事なもの、仕事が終わって気が抜けたからって、私に声をかける前に持ってくる馬鹿がどこにいるの!?」

「今ここにいるからしょうがないだろう!? あ」

「あ?」

「あったぁぁぁぁぁぁ!!」


 ふたりが治療を施したぬいぐるみは、既に明日の作業の分も含まれていた。その中のひとつの拓かれてペレットを詰め直す直前だったテディベアの中に、たしかにゴロリと大粒のダイヤが転がっていたのだ。

 それを見て、直人はおいおいと泣いた。万梨阿はなんと言えばいいのかよくわからなかった。


「ええっと? おめでとう」

「ありがとう! ああ、これ万梨阿にあげるけど、どうしよう!?」

「今渡されても困るから、ちゃんとしまっておきなさい! 指輪もさっさとつくる予約に行きましょう! あと」

「うん?」

「……ちゃんとプロポーズしてよ」


 気丈な万梨阿がボソボソと言う言葉に、直人はカクカクと首を振る。


「お、れと……結婚……してください」

「はい……なんですぐ婚約指輪つくりに行く癖に肝心な部分がしまらないの!?」

「だってぇ、断られるかと」

「断りませんー」


 うだうだ言いながら、ようやくふたりは作業場を後にする。

 たくさんのぬいぐるみに囲まれてのプロポーズ。

 本来ならもっとロマンティックなものになるはずなのだが、どうにもしまらないふたりであった。


<了>

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共同作業は宝探し 石田空 @soraisida

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