第2話 イチ殺

「はぁ〜。やっぱり琥珀くんの料理はおいしいな〜」

「ありがとうございます。」

「それにしてもさ、やっぱり琥珀くんってすごいよね。だってこの家にあるほとんどのものは魔法を使って作っちゃうんだもん。」

「まあ、そうですね。」

 そうなのだ。この世界には科学というものがほとんど存在しない。そのため、科学技術と呼ばれるものはほとんど発展していないのだ。しかし、俺の場合は違う。俺には現代知識がある。だから、俺は前世の知識を利用して様々なものを作り出すことができるというわけだ。ちなみに今食べている食事も俺が作ったものだ。

「ところでさ、今日は何を作ってくれるの?私、楽しみにしてるんだけど。」

「はい。今日のメニューはカレーライスですよ。

「おお!それはまた美味しそうだね。」

「はい。それでは準備を始めますね。」

「うん。お願いね。」

 そして、数分後。

「よし完成しました。どうぞ召し上がってください。」

「いただきます。」

「どうですか?」

「うん!すごく美味しいよ!」

「良かったです。」

 こうして楽しい夕食の時間が終わった。

「ごちそうさまでした。」

「お粗末様でした。」

「ねえ琥珀くん。ちょっと話したいことがあるんだけどいいかな?」

 突然、アリスがそんなことを言ってきた。

 一体なんの話だろう? まさか…………別れたいなんて言わないよな!?︎ もしそうなったら生きていけない自信があるぞ!!︎ でも大丈夫だよな? きっと大丈夫なはずだ。

 大丈夫じゃないと困るんだよ頼むから別れたいとか言い出さないでくれーーー!!! そんなことを考えながら恐る恐る返事をする。

 すると、彼女はとんでもない言葉を口にした。

 その内容は予想していたものとは全く違っていたのだが。

 彼女から出たその言葉とは————— デートのお誘いだった。

 えっ?マジで?これ夢じゃなくて現実なのか? だとしたら嬉しすぎるんですけど!!! やったぜ!神様ありがとうございます! 心の中でガッツポーズを決める俺であった。

 翌日。

 待ち合わせ場所である王都の入り口まで行くと既にアリスの姿があった服装はもちろんいつも通りのメイド服である。

 しかし、いつもと違っているところが一つだけあった。それは髪型だ。普段は長い髪を後ろでまとめているのだが、今は髪を結んでいるゴムを外しているため、綺麗な銀髪が風に揺れていた。その姿はとても美しくて見惚れてしまうほどだった。「おはようございます。アリスさん。」

「あっ!琥珀くん。来てくれたんだね。嬉しいよ!」

 満面の笑みを浮かべながらこちらに駆け寄ってくる姿はとても可愛かった。こんな笑顔を見せられたらどんな男でもイチコロだろう。かくいう俺もその一人だが。

「もちろん来るに決まっていますよ。だって約束したのですから。」

「ふふっ。そうだよね。」

「それでどこに行くのですか?」

「とりあえず街に出てショッピングとかしてみたいなと思ってるんだけどどうかな?」

「わかりました。行きましょう。」

 こうして俺たちは街の中へと出掛けた。

「うわぁ〜。人がいっぱいですね。」「本当だね。人混みの中に入るのはあまり好きではないけれど、こういう光景を見るとなんかワクワクするよね。」

「確かにそうかもしれませんね。」

 それからしばらくの間、二人で色々な店を見て回った。そして気がついた時には日が落ち始めていた。

「そろそろ帰りますか?」

「そうだね。もう暗くなってきたことだし帰ろうか。」

 そして屋敷に帰ろうとしたその時————

「きゃあああああ!!」

 悲鳴が聞こえきた。声の方を見てみるとそこにはガラの悪い男たちがいた。どうやら女性が絡まれているようだ。おそらくナンパされているのだろう。「チッ!面倒くせぇな。おいお前たち!その子から離れろ!」

 俺は咄嵯に声をかけた。

「ああん?なんだテは?」

 男が凄んでくる。怖い……正直めちゃくちゃ怖くて足が震えているがここで引くわけにはいかない!

「その子は嫌がっているでしょう?早く離してあげてください!」

 精一杯勇気を振り絞って言ったつもりだったのだが……

「はぁ?何言ってんのか全然わからんな。それにさあ、お兄ちゃんは黙っていてくれないかな?」

 どうしよう……全く聞く耳を持ってもらえていないぞ。このままではマズイ!何とかしないと! 必死になって考えているとアリスが口を開いた。

「あなたたちは何をしているのですか?」

「おっ!お嬢ちゃん!いいところにきたな!実はこのお兄ちゃんが邪魔してくるんだよ。だからちょっとお仕置きをしてやって欲しいんだ。」「はい。かしこまりました。」

 そう言うと彼女は懐からナイフを取り出して、女性の腕を掴んでいる男の手に突き刺した。

「ぎゃああああ!!!」

 男は絶叫を上げながらその場に倒れ込んだ。

「大丈夫ですか?」

「えっ?はい。助けてくれてありがとうございます。」

 女性は戸惑いながらもお礼の言葉を述べた。

「それでは私はこれで失礼します。」

 そう言い残し、アリスは立ち去ろうとする。

「待ってくれ!」

 思わず呼び止めてしまった。どうしても彼女に聞きたいことがあったからだ。

「何か用ですか?」

 振り返った彼女の表情からは感情を読み取ることができなかった。

「どうしてあんなことをした

「どうして?とはどういう意味でしょうか?」

「さっきみたいに他の人を傷付けるようなことはしない方がいいと思うんだけど……」

「それは私が犯罪者でもいいということですか?」

「そういうことじゃなくて……」

「はっきり言っていただけますか?」

「わかった……じゃあ言わせて貰うよ。さっきの行動は明らかに間違っている!君のような女の子がすることじゃない!」

「………………それがどうかしましたか?」

「どうかしましたかって……君は自分がやったことが理解できているのか!?︎」

「もちろんです。」彼女は淡々と答えた。

「なら何故そんなことができるんだよ!?︎」

「逆にお伺いしましょう。あなたは誰かを傷つけずに生きていくことなどできると思いますか?答えは否ですよね?もし仮にできたとしてもそんな生き方はとても窮屈で退屈なものになるはずです。だったらいっその事、自分の思うままに行動した方が楽しいと思いませんか?」

「それは違う!!絶対に間違っ————」

「うるさいですね。少し黙りなさい。」

 突然、首元を掴まれたかと思った次の瞬間、強い衝撃を受けて意識を失った。

 目を覚ますとそこは見覚えのない部屋の中で、手足を縛られ、床に転がされていた。

「ここは一体どこだ?」

 確か俺はを止めようとして殴られて…… そうだ!アリスはどこだ?まさか攫われたんじゃないだろうな? まずいな。早くここから逃げないと! しかしどうやって抜け出せば良いのだろうか? 必死に考え込んでいると部屋の扉が開いた。

「あら?目が覚めたのね。」

 そこに現れたのはアリスの姿であった。

「アリスさん!無事だったんですね!」

 良かった。どうやら何もされていないようだ。

「琥珀くん。心配してくれていたのね。でもごめんね。私、嘘ついていたの。」

「えっ?」

「本当はあの時、怖くて動けなかったの。でも、琥珀くんが助けてくれたから今度は私の番だと思って勇気を出して頑張ったの。そしたら思ったよりも上手くいったからビックリしちゃった。」

「そうだったんだね。」ありえないと思っていたけど、やっぱり間違いではなかったんだな。

「ねえ、琥珀くん。お願いがあるんだけど聞いてくれる?」「うん。何でも言ってみて。」

「今すぐ死んでくれないかな?」

「…………は?」

「聞こえなかったかな?だから早く死ねって言っているの。

「……え?」


 何を言われたのか全く理解できなかった。

「どうしたの?もしかして言葉の意味がわからないとか?」

「いや、わかるよ。ただあまりにも唐突すぎてびっくりしてしまっただけだから。」「そうなの?まあいいわ。それでどうするの?死ぬ?それともまだ抵抗する?」

「……わかった。俺の命をあげるよ。」

「ふーん。随分素直なんだね。もう少し粘るかと思ったんだけど。」

「これ以上、無駄に足掻いたところで結果は変わらないだろう?それにどうせ死ぬつもりだったしちょうどいいかなって思ってさ「へぇ〜。面白いことを言うのね。もしかしたら助かるかもって思わないの?」

「それはないな。アリスさんの表情を見ていればわかるよ。」「あら。そうかしら?」

「ああ。だって君は笑っているじゃないか。」

「そうね。確かにそうかもしれないわ。でもそれは仕方がないのよ。私は生まれつきこういう人間なのだから。」

「なあ、一つだけ聞かせてくれないか?どうしてそこまでして俺を殺したいんだ?」

「そんなこと決まっているじゃない。あなたみたいなクズが生きているだけで吐き気がしてくるからよ。」

「それだけなのか?」

「ええ。」

「本当に?」

「しつこい男は嫌われるわよ?」

「そうか……ならもう聞かないことにするよ。」

「賢明な判断だと思うわ。それじゃあそろそろいいかしら?」「ああ。いいぞ。」

「それじゃあさようなら。」

 彼女は躊躇なくナイフを振り下ろしてきた。

「ぐはっ!」

 腹部に強い痛みを感じると同時に鮮血が飛び散った。

「痛ったいなぁ。刺す場所くらい選んでくれよ。」

「文句を言う前に何か言ったらどうかしら?」

「……ごめんなさい。」

 流石に謝らないと不味かったか……「はい!よくできました!偉いですね〜」

 満面の笑顔で頭を撫でてくる彼女を見て背筋が凍るような感覚を覚えた。

「それじゃあ次は心臓を狙うから動かないでね?」

「待ってくれ!最後にもう一つだけ教えて欲しいことがあるんだ。」

「何ですか?」「どうして君はそんなにも俺を嫌っているんだ?」

「そんなこともわからなかったんですか?呆れますね。」

「ごめん……」

「はぁ。まあいいでしょ。答えてあげます。私があなたを嫌う理由は簡単ですよ。あなたが大嫌いな姉さんに似ているからです。」「えっ?」

「はっきり言いましょう。私はあなたのことが憎くてしょうがなかったんですよ。」

「そうだったのか。全然気づかなかったよ。」

「でしょうね。あなたは何も悪くありませんから。悪いのは全て私なのです。」

「どういう意味だ?」

「それは自分で考えてください。ではこれでお別れですね。」

 彼女は再びナイフ握りしめ、大きく振り上げた。

「さようなら。」

 **

 ***

 あとがき **

 ***

 皆さんはじめまして久賀琥珀(くが こはく)と申します!ここまで読んでいただきありがとうございます。

 初めて短編小説を書きました!もし良ければ感想やアドバイスを書いてくれたら嬉しいです!

 もしよければ次回作をよかったら見てください!

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訳アリの女神様 不動のねこ @KUGAKOHAKU0

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