おれは彼女に取られたい

ふさふさしっぽ

本文

 おれはクレーンゲーム(UFOキャッチャー)の景品であるぬいぐるみだ。

 ほかのぬいぐるみと一緒に、取ってもらえる日を待っている。


 このクレーンゲーム、全然流行っていないのか、設置されている場所が悪いのか、遊ぶ子供は滅多にいない。子供どころか人が来ない。

 外がどういう状況なのか、ぬいぐるみであるおれには分からない。

 おれはほかのぬいぐるみの奴と一緒に、ぬいぐるみ人生を諦めていた。このクレーンゲームの中で一生を終えるのだと。


 と、思っていたある日、ゲームをプレイする人間がやってきた!

 可愛らしい女の子だ。小さな子供とも、大人ともいえない外見。

 超久々にクレーンゲームは動き出し、おれを含め、ぬいぐるみたちの心は踊った。


 おれは気がついた。彼女はおれをねらっている。おれを取りたいんだ。

 おれだって、こんな可愛い女の子に取られたい。つーか取ってくれ、はやく。

 

 おれの願いむなしく、彼女は五回挑戦したが、おれを取ることができなかった。

 クレーンが真上に来るたびに、おれはクレーンに飛びつき、離すまいとしたが、他のぬいぐるみどもが「抜け駆けは許さん」とばかりに文字通りおれの足を引っ張り、クレーンから引きずり下ろす。

 ぬいぐるみの友情なんてこんなものだ。

 可愛らしい女の子はもうコインがなくなったのか、ガラス越しにおれを見つめ、


「また来るね」


 と名残惜しそうに帰って行った。


「おれは待っているぜ」


 ぬいぐるみの言葉など聞こえていないだろうが、おれは彼女の背中に叫んだ。


♦♦♦


 次に女の子が来たのは大分日にちが経ってからだった。コインの調達に苦労したのかもしれない。

 また五回挑戦するも、彼女はおれを取れなかった。

 他のぬいぐるみがさせるかとばかりに邪魔をしてくる。

 

 女の子は一定期間を開けてやってくる。その度に五回挑戦するが、やっぱりおれを取ることはできなかった……こう言っちゃなんだが、彼女の操作技術にもちょっと問題があるような気がしなくはない……。


♦♦♦


 ある日、やってきたのは女の子ではなかった。男だ。この男も、小さな子供とも、大人ともいえない見た目。そう、女の子と同じくらいの年齢か?

 ん? なんだ、クレーンゲームをプレイするのか。

 この冴えない外見の少年が、ぬいぐるみなんて欲しいのか。

 おれはいずれあの少女ものになると決めているからだめだぜ。他の奴に……って、こいつもおれをねらっている!?

 クレーンの動きから明らかだ。おれはクレーンにむんずと掴まれ持ち上げられるも(こいつ、操作が上手い!)必死にもがき暴れ、自ら落ちた。そのままコロコロと転がり、他のぬいぐるみの隙間に隠れる。

 どうだ、これで取れまい。おれはあの女の子に取ってもらうんだーー!

 ガラスの向こうで少年が首を傾げる動作をした。

 あきらめろ、とおれは念を送ったが、少年はまたもやコインを入れる。

 何回やったって無駄だ。おれが逃げるからな。

 おれが絶対に取られないぞと心に決めたとき、一体どうしたことか、まわりのぬいぐるみ達が協力しておれを掴みやすい位置に押し上げようとしてきた!


「あの女の子に取られる前に、あの少年に取られちまえ」


「そうだ、そうだ。外に出られるぞ、良かったな」


「冴えない男と仲良くしろよー」


 くそ、おれと女の子の仲(?)を嫉妬したぬいぐるみ一派が邪魔してきやがる。なんて浅ましいんだ。それでもぬいぐるみか。


 あっ!


 悪態ついているうちに、おれはクレーンに掴まれてしまった。そのまま持ち上げられ、運ばれる。


 嫌だーー! おれは、女の子のところに行くんだーー!!


♦♦♦


~十年後~


 おれは、とあるマンションのリビングの、窓辺に置かれている。ソファの上では二人の男女が仲良く並んでくつろいでいる。

 十年前、おれを取ろうとして結局取れなかった少女と、見事(?)おれを取った少年だ。

 二人はあのあと恋人同士になり、結婚したのだった。きっかけは、おれだ。

 当時中学生だった少年は、同じクラスの少女のことが好きだった。

 女子同士の会話から少女がおれを欲しがっていること、でもなかなか手に入らないことを知った。

 少年は彼女のためにおれを取り、プレゼントしたというわけだ。

 少女はぬいぐるみコレクターで、おれはおれ自身気がついていなかったが、どうやら「宇宙生物ぬいぐるみ」という中の、レアなぬいぐるみだったらしい。


「これのどこが可愛いの? まあ、取れたからあげるけど」


「ええ? 可愛いよー。ずっと探してたんだ、なのに全然わたし取れなくて……どうもありがとう!」


 十年前、少しぶっきらぼうな少年は、少女におれを手渡した。毎月の小遣を使ってプレイするも、なかなかおれを取ることができなかった少女は手放しで喜んだ。

 おれも喜んだ。結果的に、彼女のものになれたんだからな。


 今は窓辺から、他のぬいぐるみと一緒に、二人を見守る。

 と、今や大人の女性となった少女が立ち上がり、窓辺からおれを抱きあげる。

 

「今日はこの子と寝ようかな」


「お前はそのぬいぐるみが一番好きみたいだな。俺が中学んときあげたからか」


「それもあるけど、この子、たまに喋るような気がするんだよね。はじめて会ったときも『おれは待っているぜ』って」


 彼女にはおれの声が聞こえるらしい。はじめから、おれと彼女は運命の赤い糸で繋がっていたんだ!

 今日は彼女が添い寝してくれるから最高だ。まあきっと、この男も一緒だけどな……。


(終わり)

 


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