第23話

「まだ場所を決めていなかったね」

 やっぱりなんで服装のことを聞いたのだろう。恥ずかしい、逃げたい。まだ場所や時間を決めてなかったのに。

「そうだね。鴨島川駅の近くのショッピングモールでいい?」

 よかった。いつもの星森さんだ。あの後返信がなかったからてっきり俺を試しているのかと。

 火曜日の図書室には昨日のことで嬉しさと恥ずかしさで直視出来ない沙奈と不安から解放され気持ちが楽になった健人がいた。

 ちなみに鴨島川駅の近くにあるショッピングモールは以前健人と風香が買い物に行き、沙奈がその様子を目撃した場所でもあるのだ。

「いいよ。だったら10時に鴨島川駅の前に集合でいい?」

「うん。いいよ」

 昨日のことを聞いていいのかな。服装を俺に聞く必要があったのか。俺のアドバイスより同性の友達のアドバイスのほうが正しい気がする。男子のカワイイと女子のカワイイは180°違うから。

「ねぇ、健人君」

「どうしたの」

「菜那ちゃんと何かあった?」

 …それ聞くんだ。クラスの人も何となくは気づいてはいるかもと思っていたが直接聞く人は誰1人いなかったのに。しかもよりによって星森さんが聞くなんて。

「何もないよ」

「明らかに避けているよね」

 何でだろ浮気した彼氏に詰め寄る彼女みたいな構図になっているのは。俺は浮気はしていない。ましてや彼女なんていないのに。

「普通だと思うよ。星森さんだって用がなかったら話しかけないでしょ」

 言っててなんて苦しい言い訳をしているんだろう俺。用がなくても仲良かったら話すよね。

「だとしてもここ1ヶ月間お互いが不自然に避けているよね」

「そうだね」

「私は菜那ちゃんの友達でもあるけど健人君の友達でもあるから2人には仲良くしてほしい」

 訴えかけるような鋭い眼差しは雨上がりの晴天の影響もあり光輝いていた。沙奈のかわいさも相まって女神のような雰囲気を醸し出していた。

「ありがとう。星森さんの言う通り。だけど元の関係には戻れないと思う」

 告白を断って1ヶ月も経つが日に日に悪化している気がする。普通のクラスメイトなら何もなかったかのように過ごせるが俺たちは幼馴染。高校で初めて会う関係ではない。同じ状況なら誰だって同じように気まずいはず。

「そっか。なら健人君はどうしたいの菜那ちゃんとの今後の関係」

 これまでの俺は菜那のことどう思っていたんだろう。こうなったのは全部俺のせい。だけど……。

「俺は菜那と仲直りしたい。でもそれは菜那が望むような結果ではないけど。それでも菜那とはいつまでも仲よく過ごしたい」

「それがいいと思う。私も手伝えることがあったら協力するよ」

「だったらお願い。協力して」

「え?!」


「……なるほど。でもいいの私も一緒にいて。邪魔にならない?」

「ならない。ならない。むしろ俺のサポートしてほしい。お願い」

 頼まれると弱いんだよね私。でもサポートと言われても具体的に何をすればいいか分からないけど。サポートよりも邪魔にならないかのほうが心配なんだけど。

 2人きりで会うのは気まずいだろうという思いと部外者の自分が入ると邪魔になるという相反する考えが沙奈を葛藤の渦に巻き込んだ。

「で、でも。そうだよね。2人だと気まずいよね。うん。わかった。手伝うよ。でも場合よっては途中で帰るからね」

 最後まで優柔不断な回答だったがそれは2人のことを考えての沙奈なりの答えでもあった。沙奈は立場上どちらかに肩を貸すことは出来ない。それは沙奈も気づいている。だからこそ踏ん切りがつかなかった。

「わかった。俺が頑張って途中で帰らせないように引き留めればいいだけでしょ。2人だけだとさらに気まずくなる可能性が高いから最後までいて欲しいけど」

 わかっている。健人君の考えは理解できる。でも私の感だと菜那ちゃんと健人君は恋愛関係で揉めている。だからこそ2人きりのほうが話しやすいと思うから。私がいると2人とも話を濁すと思う。現に健人君がそうだから。

「そうだね。でも健人君がずっと引き留めることができるのかな?」

「できるよ。だから星森さんも期待してね」

「期待してる」

 こんな他愛のない会話がいつまでも続いてくれればいいのに。健人君といつまでもこのような関係が続きますように。それが今の私の願いだから。



「ほんとにブランクあったの?」

 そう言ったのは1-Cの森海まなみだった。部活の練習後にバスケ部に所属している人は部室で着替えをしている。体育館で自主練している2人を除いて。

「ブランクは感じてる。最初は次の日筋肉痛だったり体が重かったりした」

「そんなこと言っている人が土曜の午前練の後に男を誘っているとは到底思わないけどね」

 私は知ってるよ。真里が毎週無理矢理誘っているんでしょ。山城のことを。

「変な言い方しないで。後、健人とはただの練習仲間だって」

「はいはい」

「絶対思ってないでしょ」

「やだなチームメイトを疑うなんて。真里のこの発言がきっかけでチームの輪に亀裂が入り試合に勝てなくなりそれがきっかけで更に負けそして…」

「はいはい。置いていくよ」

「ちょっと待ってて」

 最初の頃は全部反応してくれたのに。いつのまにか反抗期になったのこの子は。

「それでまなみはウチと健人との練習について何かあるの」

「真里は山城のことどう思ってる?」

「どうも何もただの練習仲間それ以上もそれ以下もない」

「そっか。だったら山城との練習が続く限りこの質問続けるから覚悟してて」

「いやしなくていい」

 普通の男女なら2人きりで毎週会っていれば何か特別な感情が生まれるはず。期待しているよ。

 何か企んでいるまなみを他所に真里は着替えていた。その後真里のことを待たせてしばらくの間塩対応をとられるようになったというのは別の話。

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