第22話
「健兄は今度の土日暇」
家に着いて早々「おかえり」より先に風香が健人に質問をした。時刻は午後6時を回った。いきなりの質問だが健人からすれば初めてのことではない。
「急に何だ」
俺はわかる。こういうときは友達と買い物に行き、その帰りに俺に「荷物持ってほしいから時間になったら駅まで来て」と言ってくるのだろう。
「土日のどちらかに友達と買い物行くから予定を空けておいてほしくて」
やっぱりな。俺の予想通りだ。都合がいいときにしか俺を頼らず、日頃は雑に扱う。それが俺の妹の風香だ。いつも思う兄を敬え。
「嫌だね。というか俺どっちも予定があるし」
土曜は午後から真里と練習をして、日曜は星森さんとデートをする。なんて充実した休日なんだろう。
「嘘でしょ。絶対断る口実でしょ」
「本当」
何で嘘つかなければならないんだよ。どうせ俺の都合を気にせず呼ぶ癖に。
「わかったよ。ならいつなら空いてる。できるだけ早く行きたいから」
珍しい。いつもなら無理にでも俺が断れない状況を作るのに。そして俺を頼る癖に。
「それなら来週の日曜にして」
「わかった。予定空けといてね」
大丈夫なのか。風香の友達の都合もあるだろうに俺の都合で巻き込んで。
「ということなので健兄は来週の日曜日なら空いているらしいです」
健人との会話の後、風香は菜那に電話をかけて先ほどの会話の内容を伝えた。
「そうなんだ」
怪しい。何か私に隠し事している。私の直感だけど、誰かと2人っきりで会うに違いない。それも女の人で……。
「風香ちゃんから見て最近の健人の様子に変化があったりする?」
隠し事の1つや2つは私に隠せるかもしれないけど同じ家に住んでいる妹の風香ちゃんなら家での変化もわかるはず。
「言われてみればここ最近の土日はどちらも外出していることが多いかな。しかも帰ってきたらものすごい汗だくでスポーツでもしたのかと思うぐらいに」
「体動かすために外出している…」
健人はバスケ辞めたんだよね。部活してないから自主的に運動しているとか。そうだとしても1人でそんなに汗をかくようなことが出来るの?
「菜那姉さんどうかしましたか」
「う、うん。なんでもないよ」
同年代の女の子と一緒に汗をかくぐらいの運動しているなんておかしい。私の考え過ぎなのかな。だったらいいけど……。
「風香ちゃん聞いてくれてありがとう」
【ごめん今週と来週の日曜日練習に参加できない】
健人からメールが届いた。ウチ、浅見真里は健人と1on1をした日以来一緒に練習を行う仲間になっていた。それ以前はただのクラスメイトで多少は話したことがあるぐらいの関係だった。
休日の午後から晴れの日はバスケゴールがある公園で練習をして、雨の日はスポーツセンターで練習をしていた。
【だったら土曜の練習後アイス奢って】
土日に一緒に練習をしていることを菜那には言っていない。健人から言わないでほしいと頼まれ、この関係を隠している。
菜那と健人の2人に何か起きたのは何となくわかる。だけどそのこととウチ達の関係を隠す必要があるのかは知らない。言ってしまったほうがいいと思う。それは2人のためにも……。
「…アイツ既読スルーしやがった」
「健人君とデートか」
まだ月曜日だが日曜日のデートが楽しみな沙奈だった。早くも好きな人とのデートのことで浮かれていた。
実際は集合時間はおろかどこに行くかも決めていなかった。ただわかっているのは《健人とのデート》この1つだけは揺るぎない事実だということ。
「健人君はどんな服装が好みかな」
今の沙奈にはデートのときの服装を考えるよりも他にやることがあるはずだ。しかし今の彼女の頭の中には健人のことしか考えることができなかった。
恋は盲目とよく言うが、今の沙奈の状態を表すならまさしくその《盲目》という状態が当てはる。
「健人君に直接聞けばいいか」
【だったら土曜の練習後アイス奢って】
何で奢らなければいけないんだよ。練習しようと言ったのはアイツなのに。アイスぐらい自分で買えよ。俺はただの練習相手なんだから。
何で俺の周りにいる女子は俺の扱いが雑なんだろう。互いがwin-winな関係になればいいのに。今は俺が損する関係になっているんだよ。
【健人君は女子の好きな服装とかある?】
星森さんだけだよ。俺のことを雑に扱わない女子は。でもこれって日曜のデートのことを言っているんだよね。好きな服装なんて考えたことないのに。
【星森さんならどんな服装でも似合うよ】
あれ、俺キモイ返しかたした。いやいや、これは学校での星森さんの様子から見ての俺の感想だからたぶん大丈夫でしょ…たぶん。
……不安になってきた。既読がついてから10分ほど経っているが返信の1つもないのかやっぱり俺の返信おかしかったか。
【健人君は女子の好きな服装とかある?】
何でこんなの送ったんだろう私。健人君も困るよね急に女子の服装のことを聞かれたら。消そうにも既読ついているから手遅れだから意味ない。どうしよう。
恋の盲目はきっかけ1つで覚める。ふと我に帰ると自分の恥ずかしい行動に後悔を覚え、それが後に若気の至りとして一生頭の中に残ってしまう。
【星森さんならどんな服装でも似合うよ】
でもそんな若気の至りはきっかけ1つで上書きされる。
〜数年後〜
「あのとき沙奈に送られてきたときは困ったな。急に服装の好みを聞かれても」
「でも私もあのとき後悔したよ。変なこと聞いてしまったってね」
「あの後めっちゃ俺不安だったんだから。返信してくれなかったんだから」
「そうだね。あのときはごめん。でも私は嬉しかったよ。健人君が私の後悔を上書きしてくれて。だから、遅れたけどありがとう健人君」
今となってはいい思い出。だって今私は健人君と○○○○いるから。
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