第20話

スマホが鳴った。それも俺のが。相手は……

「詳しいことは後で連絡するから、早く行ってあげな菜那のところへ」

 その様子を見て会話の最後に菜那のことについて釘を刺された。俺が菜那よりも上島先生の頼みを優先したことを真里は気にしていた。

「わかった。ありがとな」

 俺は菜那のところへ急いだ。待たせるわけにはいかないと体が感じたのだろう。


「礼言われるようなことしてないんだけど」

 健人を見送った後、真里は体育館に戻って行った。体育館では先ほどのことで話題が持ちきりだった。上島先生のおかげもあってか今日から神野高校女子バスケ部のメンバーとしての第一歩を踏み出した。



「菜那ごめん遅れて」

 真里と分かれて5分後には図書室にいた。本を読んでいた菜那と本棚を前に本を探していた星森さんが図書室にいた。菜那は図書室に来た俺に驚き、星森さんは入ってきた俺を見るなり空気を読むかのように物音立たず奥の本棚に向かった。

「大丈夫、そんな待ってないから。それより汗すごいね、何してたの?」

「頼みごとを手伝っていただけだよ」

「そうなんだ」

 バスケの後走ってきた俺に対して汗の量を見てそう言ったのだろう。汗臭くないかな俺。

「それで星森さんから菜那が図書室にいると聞いて来たけど菜那の家で待っていたほうがよかったりした?」

「え、そうなんだ。だったらさ一緒に帰ろっか。よりたい場所もあるから着いて来て」

「わかった。星森さんまた明日」

「沙奈ちゃんまた明日」

「菜那ちゃん、健人君また明日」


「菜那ちゃんがいること伝えないほうがよかったのかな?」

 2人が部屋から出た後、菜那に対してサプライズになるかもしれないと思いメールを送ったことを気にしている沙奈だった。

 その10分後「この後菜那ちゃん告白するんじゃないかな」と不安になる沙奈だった。



 帰り道に菜那の提案により小学生の時に毎日遊んでいた近所の公園に寄った。時刻は午後5時半になろうとしていた。

「どうしてここなんだ」

「なんでかな」

「おい」

「もー、冗談だって」

 住宅街に囲まれているこの公園は遊具こそ古いがそれなりの大きさを持つ公園だった。

「うーん。だってここの公園私と健人が毎日遊んでいた懐かしい公園だよ。理由なんているのかな?」

「それもそうだな」

 健人は懐かしさと共に寂しさが込み上げていた。


 そんな健人に対して菜那は健人に対して勇気を振り絞って話しかけた。

「私は高校卒業しても大学卒業してもずっとこの先健人と一緒にいたいなと思うんだけど健人はどう思ってんの」

「会えるでしょ」

「それなら」

「だって幼馴染だよ。嫌でもどちらかが実家から出ていかなければ会うでしょ」

 違う。そうじゃない。

「沙奈ちゃんとそんなに仲良かったんだね」

「あー。図書室に行くことが多いからね」

「そうなんだ」

 あれ、どうしてこんなこと聞いたの私。

「菜那には1番に伝えようと思っていたんだけど。今度真里とバスケすることになったから」

 いつの間に真里ちゃんとそんな仲良くなってんの。

「どうしてそんなことになったの」

 聞きたくないのにどうして聞くんだろう私。

「さっき上島先生の頼みで俺と真里でバスケをしていたら真里からバスケをしようと誘われて」

 私のことより先生のことが大事だったんだ。

「健人の放課後の用事はバスケをするためだったんだ」

「そうだな。久しぶりにしたら楽しかったなバスケ」

「私のことよりバスケが大事だったんだ」

 健人は驚いた。怒鳴るように声を出した私を見ながら。

「ごめん。イラついていたから怒鳴ってごめん」

「俺こそごめん。菜那の癪に触るようなことして」

「健人は悪くないのに」

「それでもごめん」

 好き。健人が好き。鈍感だけど私のことを気遣ってくれる健人が好き。私はそんな健人に救われたんだから。

「ありがとう」

「どういたしまして?」

 健人が混乱している。それもそっか怒った後に笑顔でお礼言われたらそうなるよね。


「もし、よかったらのことなんだけど」

 少しの沈黙の後に健人に話しかけた。

「なんだ」

「私が彼女になろうか」

「…はい?」

「だから彼女になろっかって」

「同情?」

「違う。そんなんじゃない」

「俺は菜那のことを幼馴染としてしか見れないからごめん」

 健人ならそう言うと思った。でも……。

「私は幼馴染でなくなってもいい」

「俺は嫌だな」

「なんでそんな嫌なの私と付き合うことが」

「変えたくないこの関係を」

 私は健人との関係を変えたい。でも、健人は変えたくない。嫌だよそんなの。

「私は変えたいこの関係を」

「それでもごめん。俺は今みたいにたまに一緒にいて、何も言わずにも互いのことを理解できるこの関係のままがいい」

 私のことは恋愛対象外だったってことね。今までの片思いだった時間を返してほしい。

「だったら。私と離れたら」

「は、何言ってんの」

「だってそうでしょ。私がいたら好きに恋愛できないよ」

「急に何言ってんの。さっきからおかしいよ菜那」

「私は健人のことが好き。でも彼女になれないなら一緒にいたくない。私を苦しめるだけだから。だから……」

 健人は驚いている。私の好意が気づかなかったんだ。あんだけ一緒にいたのに。

「……だからやめよ。幼馴染を」

「俺は嫌だ」

「私はいい。それがいい。でも最後にわがまま言わせて」

「なんだ」

「健人から伝えて」

「俺は嫌だ」

「そういう健人が好き。鈍感な健人が好き。でも今はそれが辛い。だから言ってお願い」

「……わかった。やめよう幼馴染。そして距離を置こうクラスメイトとして」

「……ありがとう」


 次の日、菜那は休んだ。原因は俺だとすぐに気づいた。菜那と話した風香によると2人共悪いとのことだそうだ。でも俺のほうが悪い。

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