第19話
放課後
俺は体育館に来ていた。体操服ぐらいしか動けそうな格好になれなくダサいけれど着替えるしかなかった。上島先生がこちらにやって来た。
「すっぽかさずに来たんだな」
「逃げてよかったんですか」
「なわけないだろう」
それで例の浅見さんはどこにいるのやら。早く始めないとバスケ部の練習が始まるぞ。
「すみません遅れま、し、た?なんで山城がいるの」
「この前言ったお前の練習相手だ。中学は同じ地区で戦ったんだろう。いい機会だ。山城と浅見で1on1をやれ」
同じ地区だといっても男子と女子という違いはあるだろう。とはいえ互いに名前ぐらいは知っている相手だけど。
「やっぱりこの話無しで」
「この前の約束はなんだったんだ」
浅見さんと先生はなんの約束をしているんだよ。変なことではないだろうな。
「それとこれは違いますよ先生」
「いいのか練習していたことをばらされても」
マネージャーが練習?選手ではないのだから練習の必要はないはず。しかも中学までの経験から選手の気持ちに寄り添うことも可能なはずだ。
「浅見さんはなんでマネージャーをしているの」
「あんたには関係ないでしょ」
「教えてくれてもいいでしょ」
怪我とかなら練習をしないはず。隠すような内容だとは思えないけど。
「俺が勝ったら教えてくれないか」
「いや。絶対にいや」
「俺に負けるからか」
こう言えば挑発にのるはず。ここで断れば浅見さんは俺に負けたと同然の状態になるから。
「は、なに言ってんの。山城なんかに負けるはずないじゃん」
やっぱり挑発にのった。意外と単純。
「教える準備はできている浅見さん」
「なわけないじゃん。私に勝ってから言ってくんないそのセリフ」
「自信満々だね」
「言いたくないもん」
こうして俺と浅見さんの対決が始まった。
1ON1のルールは先に10回シュートを決めたほうが勝ちというルール。シュートを決めるかボールを取られると攻守交代になる。そんなルールで戦うこととなった。
「ごめんね沙奈ちゃんの部活に遊びに来て」
健人を待つ間に私、高木菜那は図書室に来ていた。沙奈ちゃんの部活の様子が気になったのもあるけど。
「ううん。そんなことないよ。いつもは健人君が来るけど今日は何か用事があるそうだけど」
「健人って文芸部だったの」
帰ってくるのが遅いことが多いと風香ちゃんから聞いていたけど沙奈ちゃんといたんだ。
「健人君は部活に入っていないよ。放課後に本を借りに来ることが多いだけだから」
「そうなんだ」
「それより菜那ちゃんにおすすめの本があるんだ」
ちょっと強引だったかな。菜那ちゃん何か落ち込んでそうな感じだったから話題を変えたんだけど。
「それってこの前言ってた本のこと」
「そうだよ。菜那ちゃんにも読んでほしいな」
「ありがとう沙奈ちゃん」
「あそこの本棚だから取りに行こうか」
ちょっとは元気出たかな?やっぱり菜那ちゃんは健人君のことを……。
「お疲れ」
「なんだよ嫌味を言ってんの。勝ったくせに」
「ちげーよ。ただ俺の分を買うついで渡そうと思っただけだよ」
自販機で買ったスポーツドリンクを渡した。
勝負の結果、俺山城健人が勝った。スコアは俺が10で浅見さんが7だった。
「それでなんでマネージャーが練習してんの」
「それ言わないといけない」
体育館では言いたくないと言ったのはお前だろうが。だからわざわざ場所を変えたのに。
「ルールだからな」
じゃなければ負けたら俺がバスケ部に入るという条件を飲まなかったからな。
「そうだよね。実は怪我していたんだ。昔」
「だから中3のときに大会にいなかったのか」
「気づいていたんだ」
「初戦敗退するようなチームではないからな」
浅見さんのチームは強かった。しかしあのときの相手に負けるようなチームではないと同時は思っていた。
後々知ったが。キャプテンの浅見さんは出場していなかったらしい。
「怪我治っているよな」
「うん」
そうだよな。練習するぐらいだから。
「それのことをあの教師がなぜ知っているんだ」
「この前の土曜日に近所の公園で練習をしていたところをたまたま通りかかった先生に見られたから」
「ストーカー?」
「たぶん違う。先生は大橋中の近くに住んでいるんだって。だから私とあんたのこと知っていたんだよ」
卓也と浅見さんの母校である大橋中の近くなら知っていてもおかしくはない。だから俺のこと知っていたんだな。
「復帰したくないの」
「したい。けど……」
「怪我が怖いとか」
「……」
浅見さんは何も言わずに頷いた。怪我は怖い。スポーツをする上で怪我とは避けることができないひとつの相手だ。
「また怪我して迷惑かけたくない」
あのときのことを思い出しているのだろうな。俺は自慢ではないが大きな怪我はしたことない。怪我をした人に対して何を伝えるのが正解かわからない。けど……。
「チームスポーツで誰か1人がいなくて負けたのはいない人のせいではないよ」
「でもいたら負けなかった」
「それは憶測なだけ。いても負けたかもしれないし、浅見さん以外の人が怪我をしていたら浅見さんがいても負けたかもしれない。そんなことはどのスポーツで同じ」
チームの中心選手がいなくなると負ける確率は高くなる。だけどそれをきっかけに新しい戦力として誰かが埋めるかもしれないし周りがいつも以上の力を出すかもしれない。
「負けたのは残念だけど、この状況を元チームメイトの人たちはどう思っているか考えたことあるの」
「今は関係ないでしょ」
「あのときが原因でバスケを辞めたなんて聞いて納得するわけない。怪我をしたのは残念だけど怪我した人が責任を全部背負う必要がない」
負けたのは監督などを含めてチーム全員のせい。怪我をした人がいたなら周りがサポートをしてその穴を埋めるのがチームだから。
「バスケがしたいならすればいい。辞めるにしても元チームメイトが納得するような理由があるならいいが」
「健人は周りから納得されているの?」
「菜那だけは納得していない。元チームメイトは高校になったら別のことをしたいという奴が多かったから人のことは言えないだろう。それより健人って」
「名前違った」
「いや、あっているけど」
「だって健人には責任をとってもらうからさ、山城って呼ぶのもおかしいし」
「何をするんだ」
「それは健人にはウチの○○になることだよ」
「他をあたってくれ」
「いいでしょ。ピチピチのJKと一緒にできるんだから」
「嫌だよ。第一に真里とするのがめんどくさい」
「真里って呼ぶんだからさ、あんたもやる気満々じゃん」
「それは違う。お前が名前で呼ぶから俺も合わせたただけ」
「健人にはいっぱい頑張ってもらうから覚悟してね」
「手加減はしてくれ」
「それはウチのセリフだから」
こうして俺と真里の奇妙な?関係が始まった。
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