第18話
昼休憩
「山城はいるか」
チャイムが鳴るのと同時ぐらいに教室へ上島先生がやってきた。
「なんすか先生」
「ちょっと話がある」
「俺お腹すいたんですけど」
「すぐ終わるから」
俺は嫌々上島先生のところへ向かった。
「健人早く帰ってきてね」
「わかった。できるだけ早く帰ってくるよ」
色々考えたが今日の昼に菜那と一緒に食べることになったのは菜那から2人に頼んだからだろうと思った。2人からすれば誕生日だからといっても俺と菜那を2人きりにするメリットがないと思ったからだ。
でも、今になってわざわざ2人きりになってまで話すことなどないのに。この場で言えないことなどないはずなのに。
「それでご用件は」
「ああ、お前も知っているだろうが浅見は女子バスケ部のマネージャーなんだ」
浅見さんはマネージャーをしている。彼女ぐらいの有望な選手がわざわざマネージャーを選ぶとは思ってはいなかったが……。
「それは知っていますよ。だけどなんですか。俺はなにも知らないですよ」
「だろうな。俺は知っている」
「マウント取りたいために呼んだんですか」
もしそうなら呼ぶなよ。めんどくさいな。
「俺がお前に頼みたいのは今日の放課後に浅見と1on1をしてほしいからだ」
……は。なんで俺。
「それならバスケ部の人に頼めばいいじゃないですか」
「それもそうだがお前とやるとは思っていないだろう」
「サプライズですか」
「そんなとこだ」
厄介なことに巻き込まれたな。ブランクはあれどなんとか動けるとは思うがやっぱりなんで俺なんだ。
「他の人ではダメなんすか」
「ダメだ」
俺と浅見さんでは性別も違えば体格も違う。それを理由に断るのはいけないがそれ以上に部外者が関わってはいけないだろう。
「俺以上の適任者はいないんですか」
「いない。だからお前を呼んだんだ。中学では有名プレイヤーでもブランクはあるだろ。今から体育館で練習だ」
勘弁してくれよ俺はお腹が空いたんだよ。それに菜那との約束もあるし。
「ご飯食べてからでもいいですか」
「そしたらお前来ないだろ」
バレたか。昼食を理由に逃げようと思ったが無理だったか。ごめん菜那、俺いけそうにないや。
「健人君遅いね」
「うん。上島先生と一緒にどこかへ行ったね」
私も話しがあったのに……。
「山城はいつもこんななのか。約束を守らないやつには見えないが」
「守るよ。でも今回は守れない気がする」
「菜那ちゃん」
不安なんだ一緒に食べれないと思ってしまって。
「やっぱり私も2人と一緒に食べていい?」
「もちろん」
「菜那のおかず貰ってもいい」
「それはダメ」
ありがとう2人とも私のわがままに付き合ってくれて。
みっちりしごかれた。昼休憩も残り15分だ。俺が昼食を食べるぐらいの時間は残してくれたが菜那との約束はたぶん守れなかった。
早く終わるのではなかったんかあのクソ教師。
「ごめんやっぱり食べ終わっているよね」
「うん。私からもごめん先に食べてしまって」
「菜那が謝らなくてもいいのに」
菜那は悪くないのに。悪いのは俺なのに。
「放課後は空いてる?一緒に帰ろうよ」
「ごめん放課後は無理なんだ。……ごめん」
「私よりも大事な用事」
「そういうわけではない。ただ先に約束してしまったから」
「わかった。そのあとでいいから私の家に来てね」
なに言われるのかは分からないが大事な話しなのだろう。
「わかった」
健人と私の関係を変えるには一つしかない。告白するしかないと。
健人は鈍くて無自覚。中学の時に実はモテていたけど本人は気づいていなかった。バスケしか興味がなかったのはもちろんだけど他人の好意を理解出来なかったから。
その話を聞くたびに私は不安でしょうがなかった。私の隣に健人がいなくなり違う人が隣にいることになるのではないかと……。
私は自分から告白できなかった。告白したら付き合うか振られるかの二択で後者になると今まで通りにはならないと思うから。
それでもいつも隣にいるこの関係が何よりも居心地がよかったから告白しなかった。周りからはカップルだと思われていてそのたびに健人は否定していたけど私はなりたいよ。恋人に。
2人きりで話せる場所で告白するんだ。一歩前に進めるようにこの関係を。
「わかった。そのあとでいいから私の家に来てね」
私は期待しているよ。健人がOKしてくれることを。恋人として迎えることができる最高の誕生日に変わることを。
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