第17話

5月9日の火曜日の朝


 俺、山城健人は1人で登校していた。ほぼ毎日1人なのだが、たまに菜那と一緒に学校へ行く。

 今日は大事な幼馴染の誕生日。誰よりも早くおめでとうを言いたかったが会わないことには言えない。家に行ってもいいが中学のときにちょうど着替えの最中に俺が家に入ったことがあったためそれ以降は事前に連絡していないときは行かないようになった。

 そのことを思い出していたら学校に着いた。火曜日は1限目から体育のため着替えないといけない。男子は女子と比べて一般的に着替えが早いがそうはいってもいつもより少し早く登校しないといけない。

「よ、健人」

「卓也おはよう」

「そこはお前も「よ」って言って返せよ」

 朝から元気だなと思った。卓也は体育が1番好きな教科だそうだ。俺も体育は楽しいと思う。でも1限目からは嫌だ。同じように考えている人はいるはず。こいつみたいにどの時間でも体育があることが嬉しいと思っている例外はいるだろうが。

「今日のメインクエストは体育だろ。他の教科はただのサブクエストだからな」

 言いたいことはわかる。だけどクエストと表現して体育以外をサブと言うのはどうかと思う。

「相変わらず体育のことになるとうるさいな」

「ひど、健人」

 こんな会話をいつもしている。ちなみに燈也は朝練だ。部室で着替えて教室に来るはずだから俺もさっさと着替えないといけない。


 体操服に着替え終わり教室で卓也と話していたら菜那と星森さん、浅見さんが一緒に入ってきた。

「菜那おはよう」

「健人おはよう」

「健人君おはよう」

「星森さんも浅見さんもおはよう」

「ああ、おはよう」

 この3人のあいさつはそれぞれ違いがあった。菜那は控えめな声量で星森さんははっきりと、浅見さんはめんどくさそうにあいさつを返してきた。

「健人君は菜那ちゃんに言わないといけないことがあるんじゃないの」

「ああ、誕生日おめでとう」

「ありがとう」

「山城が言うまで待ってたんだからな」

「ごめん浅見さん」

 そんな気遣いはいらないのに。2人も菜那の大事な友達だから先に言えばよかったのに。

「菜那ちゃんの誕生日なんだから今日ぐらいは菜那ちゃんと健人君の2人でご飯食べたら」

「別にそんなことしなくてもいいだろ」

 誕生日だから一緒に食べる必要はないはず。たまに俺の家に来て食べているだろ。

「山城もそんなこと言わずにいいじゃん。幼馴染で食べるのも」

 星森さんだけでなく浅見さんも言ってる。何なんだ今日は。

「あー、俺と燈也からも今日ぐらいは2人で食べたら。明日にでも3人で食べればいいし」

 卓也までも。菜那の誕生日とはいえ今日はただの平日。一般的には特別な日ではないはず。

「わかった。今日ぐらいは菜那と食べるよ」



 10分ほど前の菜那、沙奈、真里の女子3人での会話の内容。

「ごめん沙奈ちゃん、真里ちゃん。今日は2人と昼ごはんを食べずに健人と一緒に食べたい」


「別にいいけど山城と食べるんだ」

 あれ、幼馴染ってこんな距離だっけ。家が近いぐらいじゃないんだ。


「そうだね。ちょっと急でびっくりしたけど健人君と一緒に食べに行ってらっしゃい」

 正直ずるい。健人君と昼ごはんを一緒に食べれるの。私だって2人で食べたいのに…。でも今日は菜那ちゃんの誕生日だもんね。


「ありがとう。明日は一緒に食べよう」

 ごめんね2人とも。今日は好きな人と一緒に食べたいと思ったから…。



「マジでめんどくさい」

 俺、山城健人は今日の体育でしたソフトボールのボールの片付けを任されていた。なぜか体育科の上島先生に目をつけられていて名指しで片付けてを命じられた。

「頑張ったな山城」

「何で俺だけなんすか」

「お前は俺からのスカウトを断ったんだ。今からでも遅くないバスケ部に入れ」

 上島先生はバスケ部の顧問だ。今回のスカウトで10回をゆうに超えた。

「だから俺は青春を楽しみたいと言ったじゃないですか」

「部活も青春だぞ」

「そういっていつのまにか俺の中学校生活が終わったんですよ」

 先生の言いたいことはわかるが俺は部活に入らない学校生活を過ごしたい。部活に入らずにも得るものがあるはずだから。

「もう頼まないでください」

「お前がバスケ部に入ったらな。そうだ放課後職員室へ来てくれ話がある」

「バスケ部のことですか」

 だとしたら俺は無視して帰るぞ。

「そうだが入れと頼むためではない」

「だったら何ですか」

「ああ、浅見についてのことなんだが」

「ならいいですけど」

 浅見さんのこと?俺は知らんぞ。

 毎回思うが何でこの先生がバスケ部の顧問なんだ。とそう思いながら教室へ向かった。


「おい健人はよ着替えろよ」

「はいはい」

 燈也の言う通り早く着替えないといけない。授業に遅れてしまうからだ。先ほど燈也が出たことで教室には俺1人取り残されていた。

「あの健人今大丈夫」

 神野高校ではその時間に使っていない教室が更衣室と変わる。今は男子更衣室の教室に俺と菜那の2人しかいない。

「お前今入ってくんなよ」

「ごめん。藤堂君から健人しかいないと言われて来ちゃった」

「来ちゃったじゃねえよ。それで用事はなんだ。俺は早く着替えたい」

「別に私の前で着替えてもいいんだよ」

「やだ、恥ずかしい」

「なんで私が女の子だから」

 何なんだいつもと違うぞ。こんな小悪魔みたいなことしないぞ。早く着替えないと授業に遅れてしまう。

「はよ出ていけよ」

「そこまで言わなくてもいいじゃん」

「ごめんそう言うつもりじゃなかったんだ」

「わかってるけど、私もごめん。健人と昼ごはんのときでいいからさ話がしたい」

「わかった」

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