第16話

「菜那姉さんに明日の放課後会うけど健兄もその時にプレゼント渡す」

「そうだな。その時でいいか」

 夜、家で俺と風香は菜那の誕プレをいつ渡すのかを話していた。俺はいつでも渡せるが風香は学校の登校前か帰宅後にしか菜那と会えない。したがってゆっくり時間を取れる帰宅後を選んだようだ。

「私の勘違いかもしれないけど菜那姉さんと何かあったりした」

「何も」

「そう」

「何でそう思ったんだ」

「何か前と比べて菜那姉さんの話題を健兄から聞かなくなったから」

 中学のときは菜那の愚痴を風香に言ってたりしたが高校に入ってからは減った。たぶんそのことを言ってんだろうな。

「まあ、そんなもんだろ」

「喧嘩とかじゃあないならいいけど」

 そういえば、こんだけ長い付き合いなのに大きな喧嘩をしたことないな。いいことだけど。



「健人からのプレゼント何だろう」

 私、高木菜那は自室でつぶやいていた。明日が楽しみなのと同時に不安でいっぱいだった。

 毎年健人からは風香ちゃんのアドバイスのもとプレゼントを選んでいる。日頃から使える雑貨や小物が多く、嬉しいのだがこの関係がいつまで続くのか不安だった。

 高校生で付き合っていない男女がプレゼントを渡すことが当たり前のことなのか、または珍しいことなのか分からないからだ。

 私は健人のことが好き。どんなプレゼントでも嬉しい。ただ一つわがままを言うなら、私たちの関係を変えるような物がほしい。

 私は目を瞑った。現在の時刻は午後11時半。高校生では少し早い方かな。朝起きたら16歳になっている。明日の予報は雨。天気は悪くても晴れたような最高の誕生日になってほしい。



 私はスマホのアラームと共に起きた。今日は大事な人の誕生日。私、山城風香は尊敬する幼馴染の誕生日を迎えたことを嬉しく思う。

 本当は今すぐ行きたいけど朝から菜那姉さんの家に行くのも迷惑をかけるかもしれない。だから学校が終わってから会うことが待ち遠しかった。

 起きたら洗面所で顔を洗いリビングへ向かった。家族では私が1番最後に起きる。健兄が通う高校よりも中学校のほうが近く、車で職場に向かう両親よりも通学時間が短い。準備の時間を考慮しても家族で1番最後に起きることになる。

 私にとっての菜那姉さんは家族と同じぐらい大切だ。といっても健兄と比べたら菜那姉さんのほうが大切だけど。

 私は菜那姉さんが健兄のことを好きなのは昔から知っている。健兄の鈍感な部分は昔からなんだけど菜那姉さんも奥手な部分もある。

 私は健兄と菜那姉さんの2人が結婚してほしいと思っている。それは菜那姉さんと本当の家族になりたいというだけでなく、菜那姉さんのことを1番理解している健兄なら菜那姉さんを幸せに出来ると確信しているから。

 遠回りしてもいいから私は2人の幸せを願っている。そう胸に秘めて今日も学校に向かう。菜那姉さんにとって最高の誕生日になってほしいと心から願う。


 学校から帰ってきた。現在の時刻は午後6時を過ぎたところ。今なら菜那姉さんも家にいるはず。私はプレゼントを持って菜那姉さんの家に向かった。

「ピンポーン」

 ……おかしい。この前聞いた時は火曜日は部活が休みと言っていたはずだからてっきりもう帰っていると思っていたけど。高校生だから友達と遊んでいるのかも。後でまた来ようと思っていたらドアが開いた。

「風香ちゃんじゃない」

「こんばんは菜那姉さんのお母さん。菜那姉さんと今会えます?」

「菜那が今は1人になりたいんだってだから後で来てくれる」

「そうですか。わかりました。夕食を食べた後に来ますと伝えてください」

「ごめんね。わざわざ来てくれたのに」

「いえ、菜那姉さんにも事情があると思いますので」

 初めてかも。菜那姉さんが1人になりたい場面に出くわしたの。


 午後8時に私は菜那姉さんの家に向かった。

「ピンポーン」

 先ほどと同じくお母さんが出た。

「ごめんね。菜那が出たほうがいいんだけど」

「いえ、そんなことないですよ」

「気を使わなくてもいいのよ。菜那なら部屋にいるわよ。風香ちゃんになら話してくれるかも」

「何かあったんですか」

「それが話してくれないから風香ちゃんには悪いけど何があったか聞いといてくれない」

「わかりました」

 菜那姉さんが反抗期。そんなことするようには見えないけど。学校で何かあったとか。私は不安に感じながら菜那姉さんの部屋に向かう。


「菜那姉さん大丈夫ですか」

「大丈夫だよ。風香ちゃんごめんね。今は会えない」

 何かあったのかな。今帰るとさらに悪い方向に向かいそう。

「私でよければ聞きますけど」

「風香ちゃんありがとう。入ってきていいよ」

「お邪魔します」

 私はドアを開けた。まず最初に驚いたのは電気をつけていなかったこと。それはまだ序の口だった。それ以上に目が赤くなり髪がボサボサになっている菜那姉さんがいたこと。

「大丈夫ですか菜那姉さん」

「ぶうかちゃん。けんどから。健人から」

「落ち着いてください。私は菜那姉さんの味方ですから」

「健人から、ぜっごうだって言われた」

 ………え?!嘘でしょ。

「絶交」

「うん」

 小さい喧嘩とかなら今までもあったけどここまでのことは今までになかったはず。

「健兄が言ったんですか」

「うん」

 あの野郎何言ってんねん。私から家族の縁を切ってやる。

「でもげんとは悪くないの。ばるいのは、私だがら」

 菜那姉さんのほうが悪くても絶交は言い過ぎだって。

「私は菜那姉さんの味方です。何があってもあの野郎を謝らせます」

 私は菜那姉さんのためにも力になることを誓った。どんだけ遠回りしても。



 私、高木菜那の誕生日は私の行いのせいで最悪な誕生日になってしまった。

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